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    uxiro_xxxx

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    【嶺蘭SS】
    8月17日 / 1/fゆらぎ

    #ういの夏の嶺蘭強化月間シリーズ

    ##嶺蘭SS

     全身を包む熱気、背中にじわりと広がる汗の感触、カーテンの隙間から差し込む日差し。遠くからは車の走行音と、蝉の鳴き声が聞こえる。暑さで寝苦しいながらも、眠気が勝ってしまう微睡みの中で、嶺二は今日がオフだと思い出し寝返りをうつ。日差しに背を向け、腕を前に出すと、すぐ隣の温もりに触れた。薄く目を開くと、こちらに顔を向けるように眠っている蘭丸が見えた。普段の、セットされた髪型とは異なり、あどけなさが見えるサラリとした銀髪。その隙間からは、長いまつ毛が下を向いている。ぐっすりと眠っているその寝顔は、普段の彼の気の強い態度からは想像出来ないような、緩んだ表情……無防備とも言える表情をしている。薄く開いた口からは、小さな寝息が聞こえる。カーテンから差し込んだ日差しは、蘭丸の白い肌のその首筋を照らす。嶺二はその日差しの当たる部分をなぞるように、指先を滑らせる。首、鎖骨、肩、胸……どくん、どくん、どくん。手のひらを伝う、心臓の音。その音が、自分の呼吸とシンクロするような感覚を覚えると、まるで身体のつながりはなくとも、蘭丸と一つになれたようにも思え、嶺二は安心感に包まれた。そうしているうちに、目蓋がゆっくりと視界を落とす。嶺二は蘭丸の胸に頭を埋めるように、寄り添って眠りについた。

       *   *   *

    「1/fゆらぎ?」
    「スペクトル密度が周波数fに反比例するゆらぎのことだよ」
    「うーん、ごめんアイアイ。ちょっとおバカなぼくちんにも、わかりやすく教えてくれない?」
    「人間にとって心地よく、心身に良い影響を与える音声のこと。ほら、水の音とか自然音がヒーリング効果を与えるって言うでしょ。リラックスできる音に言われてる」
    「1/fゆらぎを持つ歌声というのもあるだろう。美風みたいな歌声は、それに値するのではないか?」
    「え! そうなの!?」
    「それはどうかな。専門家に検証されたことないから、わからないけど。でも、ボクが思うに、トキヤみたいな歌声をそう言うんじゃないかな」
    「ほう、一ノ瀬か」
    「過去に1/fゆらぎを持つ歌声と言われた歌手の傾向から仮定して、だけどね」
    「リラックスする歌声かあ〜……」
    「熱苦しさが取り柄の黒崎には難しい話だな」
    「馬鹿にしてんのかおまえは」
    「カミュ、やめなよ」
    「ランランも着席着席〜」
    「で? その1/fゆらぎが何だってんだ」
    「ボクたちの音楽でも出来ないかなと思って。ボクたち四人のハーモニーで目指したい、新しい方向性」
    「新しい挑戦か……悪くねぇ」
    「いいね! ぼくもワクワクしてきた!」
    「では、各々に持ち帰りということだな」

       *   *   *

     ――君はどんな時に音楽に触れる?

    「アロマキャンドル?」
     ベッドのサイドテーブルに置かれた、手のひらサイズのアロマキャンドル。小さな灯火は、薄ピンクのロウぼんやりと照らし、ほんのりローズの香りを漂わせる。
    「ちょっと女の子ものすぎたかな。香り、苦手だった?」
    「いや、別に」
     部屋の明かりはアロマキャンドルのみ。その明かりを頼りに、蘭丸は嶺二の腰掛けるベッドの隣へと寄り添った。
    「おまえの趣味」
    「……も、あるけど、昼間の話だよ」
    「昼間?」
    「1/fゆらぎ。炎のゆらぎもその一つなんだって」
     蘭丸は嶺二の身体を抱き寄せ、耳元に口付ける。
    「んもう、なになに? 今日は甘えたさんかな?」
    「落ち着く」
    「え?」
     蘭丸はそう言って嶺二を抱き寄せたまま、ぼんやりとキャンドルを見つめる。色の薄い瞳にゆらめく炎の橙が写る。ステージライトを浴びる燦然とした輝きでも、ネオンライトを写す魅惑的な眼差しでもなく、宝石箱の中にずっと閉じ込めていた名も知れない宝石のような、唯一無二の煌めきも見せていた。
     嶺二はその横顔に手を添えると、蘭丸も素直に応えるように顔を近づけて唇に柔らかく触れた。……何が君をそうさせたかな? 香り? 炎のゆらめき? 妬いちゃうな何だか。
     蘭丸は顔を離すと、嶺二の横髪を手ですきながら、その輪郭をなぞるように触れる。その手のひらが、首筋に流れる。蘭丸は、嶺二を仰向けに押し倒して、その胸の上に耳を当てるように覆い被さった。
    「ちょっとちょっと、ランラン急に――」
    「うるせぇ、黙れ」
    「なんで!?」
     蘭丸はそのままの体勢で、黙ったままだった。嶺二は仰向けのまま、顔を軽く上げ、蘭丸の頭頂部を見る。蘭丸の行動の真意がわからないまま、何となくその頭を優しく撫でる。キャンドルのぼんやりとした明かりは、その銀髪をきらりと照らす。
    「……リラックス、効果……」
    「へ?」
    「……1/f……ゆらぎ……おれ、は……これ……だ」
     途切れ途切れの言葉を蘭丸は呟く。そのまま、まるで赤子のように眠りに落ちてしまった。嶺二は覆い被さった蘭丸をゆっくりと動かして、ベッドの上に寝かせる。その頬に口付けをし、なんだか気がもやついたまま、スマホで1/fゆらぎを検索する。
     ――1/fゆらぎ、小川のせせらぎやそよ風、蛍の光など自然の中の癒しのリズムのこと。人間の鼓動も同じリズムを刻むことから、体に快感を与えるリズムとして知られています。炎のゆらぎもそのひとつ。
     人間の鼓動。嶺二は思わず自分の胸を押さえてから、隣で眠る蘭丸を見る。……おれはこれって、ランランってば、かわいいなあ。
     嶺二はアロマキャンドルの明かりに写る、隣の愛しい寝顔を見つめてから、明かりを吹き消し、隣の鼓動に触れた。
     どくん、どくん、どくん。炎のゆらめきにも似た、安らぎを与えるリズム。その音を聞いて、ぼくたちは眠りにつく。ミューズは多分、そこに宿る。
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    TRAINING【嶺蘭SS】
    8月17日 / 1/fゆらぎ

    #ういの夏の嶺蘭強化月間シリーズ
     全身を包む熱気、背中にじわりと広がる汗の感触、カーテンの隙間から差し込む日差し。遠くからは車の走行音と、蝉の鳴き声が聞こえる。暑さで寝苦しいながらも、眠気が勝ってしまう微睡みの中で、嶺二は今日がオフだと思い出し寝返りをうつ。日差しに背を向け、腕を前に出すと、すぐ隣の温もりに触れた。薄く目を開くと、こちらに顔を向けるように眠っている蘭丸が見えた。普段の、セットされた髪型とは異なり、あどけなさが見えるサラリとした銀髪。その隙間からは、長いまつ毛が下を向いている。ぐっすりと眠っているその寝顔は、普段の彼の気の強い態度からは想像出来ないような、緩んだ表情……無防備とも言える表情をしている。薄く開いた口からは、小さな寝息が聞こえる。カーテンから差し込んだ日差しは、蘭丸の白い肌のその首筋を照らす。嶺二はその日差しの当たる部分をなぞるように、指先を滑らせる。首、鎖骨、肩、胸……どくん、どくん、どくん。手のひらを伝う、心臓の音。その音が、自分の呼吸とシンクロするような感覚を覚えると、まるで身体のつながりはなくとも、蘭丸と一つになれたようにも思え、嶺二は安心感に包まれた。そうしているうちに、目蓋がゆっくりと視界を落とす。嶺二は蘭丸の胸に頭を埋めるように、寄り添って眠りについた。
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    TRAINING【嶺蘭SS】
    8月4日 / 酔い

    #ういの夏の嶺蘭強化月間シリーズ
     玄関の開閉音と同時に強い物音が響いた。
     日付の変わる手前の時刻。リビングでうたた寝をしていた蘭丸は、その物音で目を覚まし、思わず立ち上がった。リビングのドアを開け、玄関に向かうと、嶺二が玄関から廊下へ倒れ込むように転がっていた。蘭丸は嶺二の側に駆け寄り、その背中を摩る。
    「おい、大丈夫かよ……って……クセェ」
     嶺二からは、汗臭さに混じった居酒屋特有の油っぽさとアルコール臭がした。「クセェ」その一言に反応するように、倒れていた嶺二がもぞもぞと顔を上げようと動く。汗ばみ紅潮した顔面が、蘭丸のほうを向く。
    「だははランラン。クセェってドイヒー」

     普段からふざけたハイテンションなノリが通常運転とはいえ、酒に呑まれるようなことあまりない。こんな風に悪酔いして帰ってくるなんてことも、蘭丸はあまり見てこなかった。……というより、決まって蘭丸が先に酔って記憶が飛んでいることがほとんどだった。いつかの日に「酔ってベロンベロンになったランランを介抱するぼくの身にもなってごらん?」と言われたこともあったが、逆の立場が来いと頼んだ覚えはない。今日は嶺二が出演していたドラマの打ち上げで、夜まで飲み会とは聞いていた。ヘラヘラと緩み切っただらしない顔を見せ、また床へと頭を突っ伏す。こんな状態でよくもまあ一人で帰って来れたものだと、蘭丸はため息をついた。しゃがみ込み、艶めいた栗色の頭に手を当て、軽くゆする。
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    TRAINING【嶺蘭SS】
    8月10日 / ハート

    #ういの夏の嶺蘭強化月間シリーズ
     これはあいつへの労いだ。
     ここ最近、不規則な時間での仕事が立て続き、睡眠時間も十分にとれていない。あいつの場合、おれと違ってショートスリーパー気味なので、十分な時間を取らなくてもどうにかなる分、仕事にも今のところ支障をきたしていないようだ。しかし、それでも見えないところで疲労が出てきていることには違いない。それに加えて食事だ。最近はろくな食事が取れていないはずだ。シンクや冷蔵庫、インスタントのゴミの様子見れば一目瞭然だ。寿弁当だって、忙しすぎてかコミュニケーションが取れていないようで、最近は手配しているのを見ていない。相当忙殺されている。……とはいえ、あの快活な、あいつのお袋さんの人柄あってか、ついこの間は「母ちゃんに文句言われちゃったよ」なんて小言を言ってたから、親子関係に問題は出ていないようだが。……あいつんちの唐揚げ、そろそろ食べてぇな。ああいけねぇ、手が止まってた。今日は比較的早い時間に帰って来れると聞いていた。あまりの忙殺ぶりを察した日向さんが、各所に相談の上、スケジュールを調整してくれたとのこと。今でもこうやって、日向さんに迷惑がかかってんのはどうかと思うぜ? 日向さんだって自分の仕事があるんだからよ。……まあ、ありがたくもそんな配慮があってか、はやく帰ってくるあいつのために、おれは飯を作っている。あいつへの労い……いや、あいつと一緒に飯が食いたかった、だけ、かもしれない。あー、今のらしくねえ。あいつに聞かれたら面倒くさい絡みをされるから絶対に言わねえ。一緒に飯を食うなら、デリバリーでも、外食でも、なんでも良かったかもしれねぇが、そこはおれが振る舞ってやりたかった。労いと、日常の共有。何より、あいつがおれの作る飯を食いたいって、いつかの日に泣き言のように言ってから、振る舞うタイミングを失っていて……その後ろめたさにも似た使命感があった。
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    8月17日 / 1/fゆらぎ

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