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    uxiro_xxxx

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    【嶺蘭SS】
    8月9日 / 煙草

    嶺二の喫煙ネタはオタクの集団幻覚で合ってますか?
    #ういの夏の嶺蘭強化月間シリーズ

    ##嶺蘭SS

     別に隠し通すつもりもなかったし、かと言って言う必要も感じてなかった。……というより、言ってしまえば、説教や文句を言われることは明々白々。だから、プライベートの中でも、ぼくによる、ぼくのための、ぼくだけの時間でよかったのだ。それに、依存症ってわけじゃないし、ニオイだって気を付けてる。今のところ声帯にも支障は出ていない。それでも嫌悪されるものだってわかっているよ、わかっているから日陰でコソコソとしているんだよ。
    「だからだ」
     錆びれた路地裏に立ち、背中に夕陽を受け止めた君は、呆れた顔でぼくのことを見下ろした。細めた目の奥では、透き通った二色の瞳がきらりと光る。
    「……え、なに」
     ズボンの左右のポケットに両手を入れたまま、君はぼくの前に一歩、二歩と近づく。ぼくの右手の人差し指と中指に挟まった煙草に目を向けるので、ぼくは思わず、彼から遠ざけるように腕を外に伸ばした。
    「ニオイ、嫌でしょ」
    「ああ」
    「じゃあ離れなよ。てか、もうこれ終わりにして戻るからさ」
     ぼくは右手の煙草を、スタンド灰皿に入れようとすると、彼はぼくの右腕を掴み上げた。彼の顔の周りを煙草の煙が包み込む。
    「これ、なんてやつだ?」
    「え?」
    「銘柄」
     煙草の煙が近く、彼の目蓋は蝶の翅のようにまばたきを増やす。右腕は強く掴まれたままだった。
    「……アークロイヤル」
    「あんま聞かねえな」
    「最近じゃコンビニでは見かけないからね」
     彼は右腕を解放したので、ぼくはスタンド灰皿に煙草を押し込め捨てた。彼は何か考え事をしているように目線を逸らしてから口を開いた。
    「なんか、若干甘い……ような」
     そう言って彼は鼻に手を当てる。ぼくは思わず口元に綻びを覚え、一歩、二歩と近づく。
    「ご名答。アークロイヤルはバニラの香りが特徴なの」
     ぼくの悪い癖が顔を出してしまう。
    「欲しい?」
     君はぼくの両肩を小突いて離れた。「調子に乗るな」と苛立ちを露わにする。流石のぼくもそこからまた悪ノリしようという気持ちにはなれず、両手を広げ、左右に振り「めんごめんご」と平謝りをしてみせた。彼の目は、どこか掴みどころない意思を秘めていた。
     違和感だ。はじめから何か彼のその態度に違和感を覚える。ぼくの非行を見つけ、怒り、呆れ、説教をする、そのどれもが中途半端なところで止まっている。殴ったり、罵倒したり、そう言った叱咤がない。かと言って、肯定しているようにも、黙認しているようにも見えない。別の感情で何かを抱えているように見えた。ズボンの右ポケットに入れた煙草とライターを、奥へとねじ込むように右手を入れる。彼の視線が、ぼくの右手に揺れ動いた。
    「いつからだ」
    「んーー……煙草吸える歳になってから、たまーに? 思い出した時に吸うぐらいで、嗜好品の範疇だけど?」
    「そうか、それが分かればいい」
     彼は何処か「落とし所」をつけたように、ぼくに背を向けた。大きな背中に物悲しさを感じて、ぼくは一つの可能性に気づく。……ああ、そういうことか。
    「隠すつもりはなかった」
    「だろうよ」
    「嫌だった?」
    「……」
     彼は少し黙ってから振り返って、またその視線をぼくに突き刺した。
    「おれは、おまえのことを知らないおれが時々嫌になる」
     ぼくは、覚えたての口元の綻びを再び感じた。
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    uxiro_xxxx

    TRAINING【嶺蘭SS】
    8月17日 / 1/fゆらぎ

    #ういの夏の嶺蘭強化月間シリーズ
     全身を包む熱気、背中にじわりと広がる汗の感触、カーテンの隙間から差し込む日差し。遠くからは車の走行音と、蝉の鳴き声が聞こえる。暑さで寝苦しいながらも、眠気が勝ってしまう微睡みの中で、嶺二は今日がオフだと思い出し寝返りをうつ。日差しに背を向け、腕を前に出すと、すぐ隣の温もりに触れた。薄く目を開くと、こちらに顔を向けるように眠っている蘭丸が見えた。普段の、セットされた髪型とは異なり、あどけなさが見えるサラリとした銀髪。その隙間からは、長いまつ毛が下を向いている。ぐっすりと眠っているその寝顔は、普段の彼の気の強い態度からは想像出来ないような、緩んだ表情……無防備とも言える表情をしている。薄く開いた口からは、小さな寝息が聞こえる。カーテンから差し込んだ日差しは、蘭丸の白い肌のその首筋を照らす。嶺二はその日差しの当たる部分をなぞるように、指先を滑らせる。首、鎖骨、肩、胸……どくん、どくん、どくん。手のひらを伝う、心臓の音。その音が、自分の呼吸とシンクロするような感覚を覚えると、まるで身体のつながりはなくとも、蘭丸と一つになれたようにも思え、嶺二は安心感に包まれた。そうしているうちに、目蓋がゆっくりと視界を落とす。嶺二は蘭丸の胸に頭を埋めるように、寄り添って眠りについた。
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