【吹染】映画館で映画どころではなくなっちゃう話連休の中日、駅の改札前は酷く混み合っている。この状況で待ち人を探すのは骨が折れそうなものだったが、存外すぐに見つかった。髪色が特徴的なうえ、女性三人にナンパされていたせいだ。在学中からモテる奴だと知ってはいたが、こんなところで声をかけられるレベルなのかと、染岡は嘆息した。彼ならうまくあしらうだろうが、相手は多人数だ。囲まれて困っているかもしれない。間に入るかと近づくと、
「ごめんね。僕、今日デートなんだ」
穏やかで優しい口調の、そんなセリフが耳に飛び込んできた。続いて女性たちの残念そうな悲鳴。思わず足を止める。これで出て行ったら、自分がその相手ということがわかってしまうではないか。だが彼ーー吹雪士郎は、染岡を視界にとらえた途端、パッと花が咲くように表情を綻ばせた。
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