誰もいない海にこっそりとリンクパールが鳴る
「遅い時間にすまない、今外に来れるか?」
聞き慣れた竜の…魔法人形の声だった。
「仕方ないな」
そう言われてラフな格好で外に出る。念のため、と槍を背負って。
メーガドゥータ宮の広い外口には大人型の魔法人形が立っていた。
「で?何で俺だけをこんな夜中に呼び出した?」
「今日は風が心地良いからな」
「……そうならそうと言えよ」
ひゅう、と生ぬるい風を頬に感じながらも表情を緩めた。
今まで人に戦力以外で頼られた事が少なかったからか、それとも己が丸くなったからなのか、誘われたり頼られると嬉しいという感情が湧き起こる。
しょうがない、と言いつつ己が1番気になっているから引き受けるのが最近の日常であった。
「で?どこへ行くんだ」
「なに、近くの海辺だ」
ラザハンの波はいつも穏やかで、透き通っていて、魚も豊富だ。
しかし、夜になるとすっかり月が海に反射し、海の中は真っ暗闇。
寂しくなるほど人通りはなかった。
「誰もいないな」
「あぁ、そうだな」
海の音だけが聞こえる。
どうやらそれだけで良かったようだ。
それ以降、砂浜までは特に言葉を交わさずに歩いていた。
ラザハンの月夜と言うのはイシュガルドとは異なり、気温の違いもあるからか、寒く、寂しいものではなかった。
ヴリトラがアジュダヤに見せてやりたいと言った気持ちも分からなくもない。確かに月がぽっと浮かぶ様は無粋な俺でも綺麗に映えている事はよく分かった。
波が打ち上がる音、少し強い風に髪を靡かせながらヴリトラの歩く方向に足を運ぶ。
「最近、姉さんが心配で寝れなくなる事があるんだ」
「なんだ、随分と人間みを帯びてるな」
「はは、長い事居座ると似てくるものさ」
「で?俺に慰めてくれと?」
「いや、エスティニアンにはこの夜空を見て欲しかったんだ……姉さんに見てもらう前に、エスティニアンに見せたかった、ただそれだけの話だ」
「……あっそ」
「それと、君に話があるんだ」
そう、躊躇いながら俺に話を切り出したヴリトラの表情は暗いながらも恥ずかしそうにはにかんでいた。
END