座薬と、嘘つきと、肘鉄 熱があるしなかなか下がらなくて食べられなくて元気はない。だから体力は谷底状態だし、そのわりにまた汗をかいてて気持ち悪かった。
なのに、だ。
「おい。君何してる?」
「んー?」
バレバレの聞こえないふりをしてる恋人。昨日から甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのはいい。消化の良い食事を作ってくれて、シーツを変えて洗濯までしてくれて。
「あかざ、こら、」
だが寝汗でベタついた服を取り替えてくれ、なんて一言も頼んでない。寝ている背後から近づいてうっかり下のスウェットなんか下ろされたら、流石に病人の杏寿郎も抵抗した。下着までずり下げようとした手を止めようとしたけれど、熱で力の抜けた体では役に立たなかった。
「何も悪さはしないさ」
しかも楽しそうにそう言うから、杏寿郎はますます信じられない。だいたいこの時点で間違いなく「悪さ」の内に入る。
「熱下がらないな」
「あ、やめろ」
いつもこの恋人に「可愛いがられている」場所に指が伸びてきた。無骨な肉体には似合わない、あの長くて綺麗な指。つぷ、と僅かな音がして何か違和感がした。間違いなく何かが挿入されている。不快ではないがねっとりした感覚に、声にならない掠れたうめき声がでた。
「座薬入れといたから、安心しろよ」
猗窩座の顔は見えないが、声は楽しそうだった。何が悪さはしない、だ。この嘘つき。
「期待したか?さすがに病人には手を出さ、うっ!!」
あんまり腹が立ったから、杏寿郎は熱でうなされる体の、無い力を振り絞って肘鉄を食らわしてやった。