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    💎🔥の少女漫画みたいな、事後の翌朝の話。

    #宇煉
    uRefinery

    いちごとブルーベリーのパンケーキ「いちごとブルーベリーのパンケーキ」


     こないだ、おしゃれなカフェの店先で見たんだ。生クリームとフルーツがたくさん乗った、ふわふわ生地の分厚いパンケーキ。
     甘ったるそうな外見がすごく好みだった。いかにも美味しそうで、君と一緒に食べたいなと思った。料理は苦手だけれど、スマホの動画を見ながら必死に材料を混ぜて生地を焼く。ふわふわにしたいならベーキングパウダーを入れるといいらしい。うっかり焦がしかけたけど、なんとか上手く焼けた。ただ思ったよりふわふわにはならない。いちごとブルーベリーは昨日、他の材料と一緒に買ってある。いちごはまだ出始めで高いけれど、たまにはいいかな、と自分を甘やかして。あとは、誰かさんのせいで痛む腰を引きずって、意外と力がいる生クリームの泡立てを頑張った。その泡立てた生クリームと一緒に、いちごとブルーベリーを生地に盛り付けた。見た目は検索した画像を参考にしてみたけど、まあ、それなり。でも君が好きな派手な感じに仕上げたし、少なくとも美味しそうには見えるはず。
     昨日、俺たちが付き合ってから初めて、君がうちに泊まってくれた。実はペットで君に抱かれながら、朝早くに作ってこれを一緒に食べようと思っていたんだ。

     喜んでくれると、思ったんだけどな。







    「あー、わりぃ。俺、朝は食わねえ主義なんだよ」

     うっかりそう言った瞬間に、俺は「あ、失敗したな」と思った。バカな俺。
     土曜日の朝。目の前には女子の喜びそうな、ド派手な生クリームとフルーツいっぱいのパンケーキが鎮座してた。その先には、もっとド派手で俺好みの、付き合いたての可愛い恋人。でもいつも明るく笑うその顔が、一瞬で暗くなる。

    「そうか。すまない」
    「あ、」
    「そういえば君、甘い物そんなに好きじゃなかったな。押し付けて、悪かった」

     そう謝った煉獄の顔は、貼り付けたみたいな、あのよそゆきのあの表情。マズい、本当に失敗した。これは傷ついたのを隠そうとする、コイツのダメな癖。情け無いことに俺はそれに気付いて怖くなった。あんまりにもいたたまれなくてつい「コーヒー、買ってくる」とか言ってスマホだけ持って煉獄のアパートからいったん逃げるように出てった。
     最低すぎる。でも戻るのも怖くて、別に要りもしないコンビニのコーヒーを買うためにアパートの階段を降りた。カンカンカン、て響く音を聞きながら、俺は地味に項垂れた。
     寝ぼけながら、なんだかガタガタやってんな、て思ってたら、昨日ベッドで抱いた相手が、パンケーキを焼いて朝食を作ってくれてた。生クリームまでわざわざ泡立てて、フルーツまで乗せたヤツ。料理なんか、苦手なくせに。
     その気持ちは嬉しい。初めて泊まる恋人に、朝からそんなプレゼントしてくれるなんてちょっと感激だ。
     まあ。あとからならそう思えた。なのに起き抜けで俺はいつものルーティンから外れた「朝食」てワードに素直に反応しちまった。
     罪悪感いっぱいで、すぐ近くのコンビニにふらふら入ってから、煉獄の分も買おうかな、と思って気づいた。
     俺はあいつのコーヒーの好みを知らない。ブラックじゃなかった気もするけど、砂糖やミルクを入れるのか、カフェラテの方が好きか。

    「マジでだせぇな、俺」

     呟きは、コンビニの呑気な入店音楽や店員の「いらっしゃいませ」の中に紛れて消えた。

     コーヒーなんか買ってる場合じゃねえよ、全く。





    「あー、わりぃ。俺、朝は食わねえ主義なんだよ」

     あの綺麗な顔が少し困った表情になったのを見て「ああ、失敗したな」と思った。最悪だ。
     昨日の夜、楽しくて楽しくて、ベッドでは気持ち良かったから忘れていた。宇随はそんなにスイーツを好まないし、こんなふわふわした甘ったるいものは、彼の趣味じゃなかったんだ、きっと。
     すぐ謝ったけれど、呆れてしまったのか「コーヒー買ってくる」と言って宇随は出ていってしまった。さっきまで食べたくて仕方なかった目の前のパンケーキにも、急に食欲が湧かなくなる。握ったフォークの行き場がわからなくて、皿の隣に放り投げた。
     せめて朝食は何がいいか、宇随に聞けばよかったかもしれない。先走って自分の好きな物を相手に押し付ける前に。
     付き合って、まだ一週間だ。けれどもしかして終わりだろうか、と嫌すぎる考えが浮かんだ。恋人を泊めておいて、気も使えないヤツは嫌だ、ともし宇随が言ったら?というか、コーヒー買いに行くなんて嘘で、そのまま帰ったのかもしれない。
     昨夜、キスして抱き合って、恥ずかしいことをされて気持ち良かったことが、まるで幻に思える。
     哀しいから泣くべきか、目の前の失敗したパンケーキ(もちろん、中身ではなく存在理由という意味で)を無理にでも食べるべきか。
     迷っていたら、突然玄関からガチャリと音がした。良かった、ちゃんと帰ってきた。でもコーヒー買いに行くって言ったわりには、宇随は手には何も持ってない。どうしたんだ?て聞こうとしたら、彼は黙って俺の正面に座った。

    「宇随、あの」
    「ごめんな。お前が一生懸命作ってくれたのに、食わないとか言って」
    「こっちこそ。君、あんまりこういうの好きじゃないんだろ?」
    「いや、んなことはないんだけど、な」

     宇随は伏し目がちになりながら、さっき俺が放り投げたフフォークを手にとって、いちごに突き刺さした。そして言いづらそうに話し始める。

    「恥ずかしい話なんだけど、俺の家、母親がなんもしない女でさ。今で言うネグレクトってやつ。朝飯なんか、物心ついた時から作ってもらったことねえの。だから、大人になってからも朝は食わない習慣ついてんだ、俺」

     そう言って、宇随はいちごをその形の良い唇の中に入れた。それがなんだか卑猥に見えて、昨夜を思い出してしまう。真剣な話の途中で浅ましい、全く。

    「それは、知らなかった」
    「言ってないから、知らねえよな。悪かった。でも果物なら、少しくらい食える」
    「こちらこそ悪かった。君の事情も知らないで」
    「いや。さっき、俺は恥ずかしくて逃げちまった。だっせえよな。お前に幻滅されたかと思って、もう急いで戻ってきたんだ」

     そうか、呆れられたわけじゃないんだな。良かった。君に嫌われなくて本当に良かった。心底思うよ。

    「なあ、煉獄。今の俺、死ぬほどかっこわりぃし地味でだせえけど」

     美しい顔に似合わないセリフを吐きながら、宇随はフォークを置いて、俺の右手を恭しく持ち上げた。そのまま、まるで映画のワンシーンみたいに指先に軽くキス。

    「嫌いにならないで。お前に別れるとか言われたら、泣いちゃうよ、俺」

     今度は上目遣いにお願いか。君ってずるいな、嘘みたいにその仕草が格好いいし、心臓がドキドキする。これを断われる人間がいたら会ってみたいものだ。

    「なるわけない。君は謝ったし、俺も謝った。それでいいさじゃないか」
    「ありがと。なあ、コーヒーはあとで一緒に買いに行こうぜ?それで、お前の好み教えて」
    「ああ」
    「今度は、一緒にそのパンケーキもう一個作ろっか」
    「うん」
    「良かった」

     宇随は安心した様子で、俺の顔を抱き寄せて、今度は指先じゃなく唇にキスしてくれた。ちょっとだけ酸っぱくて甘い、いちごの味がかすかにする。

     付き合い始めの、最初の週の土曜日。ちょっと波乱はあったけど、俺たちは少しずつお互いの好みを知って、関係を更に前へと進めた。


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