食いちぎる前に その棒状のアイスは桃味だとかで、薄いピンク色をしていた。杏寿郎は、それをゆっくり袋から開ける。そのとき長めの髪が邪魔だったので、右手で横の髪を耳にかけた。
夏の暑さで少し、溶け出しているそれは、重力に従って、垂れた汁をアイスの下から舐め上げる。舌は、わざといつもより出して見せた。
つつ、と先端で撫でるように舐めていく。桃の味は正直あんまりしなくて、いかにも人工甘味料の味がした。でもとりあえず、冷たいから美味しい。あとは大きく口をあけて、ぱくっ、と勢いよくかぶりついてみた。先っぽから舌を使って、食べやすいように溶かしていく。じゅる、と音がした。唾液が伝いそうになったから、一度口から離して、口元を拭った。その際に、目の前にいるだいぶ歳下の恋人の顔を見る。
明らかに熱っぽい視線でこちらを見ていた。口をぽかん、と開けて、それこそ彼の持ってる棒アイスから、ぶどう味の紫色が溶け出して垂れている。あれも、大して果実の味はしないのだろう。安っぽい、昔ながらのアイスなんてそんなものだ。
「なあ、君のも味見していいか?」
「へ?」
呆けた顔の恋人の返事を聞く前に、彼の手をとり、滴る紫色の汁をそっと舐めてみた。味はやはり、想像通りだが、こちらの方がよりぶどうらしくはある。
「…うん。こっちにすれば良かったかな」
言ってから、また桃味の自分のアイスをぱくついた。また溶けて滴ってきた汁は、アイスを横にしてきれいに舌を出して舐めとった。
「杏寿郎……」
「ん?」
何か言いたそうな顔の恋人を見ながら、アイスの半分に齧り付く。
目は明らかに、なんというか、欲求に素直なくせに、口にはまだ出せないようだ。可愛いらしいが、杏寿郎としては焦ったい。
ダメ押しに、と杏寿郎はアイスをくわえたまま、上目遣いで熱っぽく年下の恋人を見つめた。彼が生唾飲み込んで、行動に移すまで、あと何分だろうか。
焦ったいにもほどがある。
早くしてくれないと、うっすら桃色したこの棒アイスを噛みちぎってしまいそうだった。