クロードが突然血を吐いて倒れたあのティータイムの日から何日が経っただろうか。
クロードが記憶をなくして、私を拒絶して、私はしばらくクロードには会わなかった。…まあたまに遠目で見たりはしてたけど。
だから、クロードとようやく、正式に会うことが出来たあの日。正直嬉しかったんだ。
久しぶりに目の前にいるクロードの身体はやつれて、見てて可哀想な程だった。
でも、一時しのぎとはいえルーカスが治してくれてからは顔色も良くて、私にも少しずつ歩み寄ってくれようとしていて。
だからクロードのために、魔術をたくさん勉強して、記憶を戻して、助けたいと思ったのに──
「せっかく、元に戻れるかもって思ったのにな」
ルーカスは誰かが介入したと言っていた。
その誰かは、こうすることでクロードがこうなると絶対に知っていたはずだ。
どんな気持ちでクロードの命を握り潰したか分からない顔も知らない誰か。
(絶対に許さない…)
静かな部屋の中を満たすのは、すう… すう…とクロードの小さな呼吸の声。
クロードが眠り続けるベッドの隣に置いた椅子から立ち上がって、クロードの身体を見下ろす。
そしてベッドに乗り上げて、その胸元に耳を当てた。
「─────」
耳に響くクロードの心音は、穏やかと言うには少し遅い鼓動だった。
休んでいるから動いているのではなく、辛うじて動いている。
そんな、弱々しくて、ふとした時に止まってしまいそうな、そういう音。
でも、クロードは温かいし、心臓は動いてる。これはクロードが生きてくれている何よりの証だ
顔を上げて、クロードの頬に手を当てる。
胸に耳を当てても、頬に手を当てても、クロードは眉ひとつ動かさず起きる気配はない。
「それでもいいよ。貴方が生きてくれているなら」
最初こそ、こんな男に殺されるくらいなら私が──なんて思った日もあったかもしれない。
小説通りに、私がクロードに殺さることは逃れられない運命かもしれない。
だから、クロードが起きない方が私が殺されることはなくなる。かつての私ならそう思って喜んでいただろう。
でも、今の私には、もうそう考えることはできない。
クロードが起きてくれることが、今の私の何よりの喜びだから。
「私も頑張るから、だからパパも…頑張って…」
クロード──パパはまだ、起きない。