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    manju_maa

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    支部の続きです。「」ない。やっとレンレンと会話する機会が増えてきた。
    ごろうくん、お悩み相談室

    来栖暁に育てられたあけちごろうくんの話~春ちゃん編~探偵業やテレビの収録と怪盗団の活動で忘れてしまいそうになるが高校三年生というものは高校生活最後の一年であり受験の年でもある。
    成績に懸念は無いとはいえ、流石に一切勉強しないで入学できるほど志望校の偏差値は低くない。夏休みも終盤に差し掛かっており、そろそろ勉強の方にも本腰を入れないといけない。

    あら、明智くん。こんにちは
    …やあ

    ひとまず参考書でも探しに行こうと出向いた本屋で先に来ていたらしい真と出会う。
    その手には赤本が抱えられている。

    君も参考書買いに来たんだ
    ええ。私も貴方と同じ受験生だもの。怪盗をやりながら受験生やるのも大変ね
    そんなこと言ったら僕なんてテレビと探偵もあるけどね
    それを言われると何も言えなくなるわね。…無理して身体壊さないでよ?
    善処するよ
    もう……

    やれやれと言わんばかりに溜息をつかれる。
    生憎前の時はそれプラスで殺しまでやってたんだ。一つ減っただけでこちらとしては大分楽になった方である。

    進路は決めてる?
    一応法学部にしようとは思ってるよ
    ならやっぱり大学に進んでも探偵は続けるの?
    ……さあ、どうだろう。そこは考えてないな

    法学部と記入した進路希望の用紙を担任に渡した時、担任は『君ならばそうすると思っていた』と自分の事のように誇らしげにしていた。
    しかし、12月以降の未来が存在しなかったかつての自分の記憶が邪魔をして、今の自分が12月以降の未来を生きている姿が全く想像できないでいる。もしかしたら、結局この僕も12月に獅童のパレスで死んでしまうかもしれない。なんてことを考える日も少なくない。

    …………

    もしそうなったら。
    暁はやっぱり、悲しむのだろうか。なんてことも。

    ねえ、前から聞きたかったこと聞いていいかしら?
    何?
    明智くんって秀尽の入試受けてたわよね?それに合格もしてたはず。全教科満点で
    ……そうだけど。随分と詳しいね

    確かに彼女の言うとおり、秀尽の入学試験は受けた。
    自己採点では確かに満点だったし、暁はそれを見て凄く驚いていた。
    暁がこっちの制服の方が合うって言ってくれたから。なんて理由で、あの時の何も知らない暁に懐いてただけの僕は今の高校を選んだ。
    今こうして前の記憶が戻ったからこそ言える話だが、秀尽生になっていたらと思うと色々とゾッとする所が多々ある。主にストレス面で。
    それを考えると親子ごっこを満喫していた頃の自分に感謝したい。

    うちの校長、口が軽くてね。テレビで貴方が活躍する度に漏らしてたのよ。全教科満点だった彼があのままうちに入学してくれていたらさぞ、ってね
    校長が生徒の前で漏らす言葉じゃないな
    ええ、本当にそう思う。あの校長、絶対パレスあるわよ

    事実、あの肉だるまにはご立派なパレスがあった。
    あいつは常に特捜部長を通して獅童にゴマをすっていたような奴だったし。

    新入生代表として選ばれたのは私だったけれど、私は満点じゃなかった。そんな私の前でよくもそんなこと言えたなって今でも思うわ
    それはご愁傷さまだね
    満点取ったくせにそれをあっさり蹴って有名エリート校なんかに行った人のおかげでね。どうせそっちでも代表に選ばれてたんでしょう?ほんと、優等生を地で行くのね
    どうだろうね。周りが優等生と思っていてもその実、中学の頃に同級生の顔面を殴り倒して出席停止になったことがあったりするかもしれないよ

    真は目を丸くして黙り込んだ。
    しかしすぐに、アハハ!と笑い飛ばす。

    何それ。入試のことが悔しくて貴方のこと一通り調べたけど、そんな話ネットでも見た事ないわよ
    ……もしもの話だよ

    暁と過した出来事は全て元木さんと過したものとして置き変わっている。しかし、あの時の喧嘩だけは無かった事になっていた。
    アレは彼らが暁のことを獅童と同レベルの不貞な男だと言われたのを聞いてカッとなって起こしたものだったけれど、暁という中学二年生の子供を持つ親にしては若すぎて全く似てない他人の男が明智吾郎と三者面談に行かなかった時点で、あの時彼が僕に突っかかる理由もなくなる。
    そういうことなのかもしれない。

    それで?僕に対する積年の恨みを吐き捨てるためにそんなこと聞いたわけ?
    まさか、そこまで暇じゃないわよ。ただ、貴方があのまま秀尽生として入学してたら、テストの点数を競い合えるライバルとかになれたのかなって思っただけ
    ……………………
    じゃあ私、これ買いに行くから。またね

    そう言ってレジの方へと歩き去っていく真の後ろ姿を見送る。
    ……彼女には悪いけど、例え秀尽の生徒としてあの学校に入学した所で彼女をそういう目で見ることはないだろう。
    負けたくないと思える相手なんて後にも先にも蓮一人しか思い浮かばない。

    ……そういえば

    今のこの、罪を犯してない明智吾郎と雨宮蓮の関係は、あの日切り捨てたタラレバのもしもを実現させている。
    暁の狙いはここにもあったのかもしれない。どこまでもあいつの思い通りになるのは癪だけど、この状態に魅力を感じないのかと聞かれれば首を横に振らざる得ない。
    今度ビリヤードにでも誘って打ち負かしてやろうかな、なんて思いながら参考書コーナーに足を向けた。


    〇 〇


    メジエドを沈黙させたことで、世間の怪盗団への支持の声は一気に高まった。
    そのおかげでテレビでは怪盗団を避難していたこちらは今回も例によって軽く炎上しているわけだが、何かあればすぐに意見に流されるような頭の悪い奴らの中身のない言葉など気にしていてはキリがない。
    怪盗チャンネルでは相変わらず改心してほしい人ランキングなんてものが作られ、上位にはこれまた相変わらず奥村の名前がある。
    次のターゲットについて、今日は怪盗団のミーティングがある日だった。
    四軒茶屋駅から出るとバケツをひっくり返したような雨が降り注いでいる。学校から出た時は真っ暗な曇天だった空を見て予感はしていたけれどここまで酷いとは思わなかった。
    アタッシュケースから折り畳み傘を取り出し、ルブランへと向かうために駅から足を踏み出す。

    するとふわりと青い蝶──ラヴェンツァが肩から飛び立った。
    彼女が飛んでいく先はルブランとは反対方向にある。

    ……ラヴェンツァ?何処に行く気?
    付いて来てください。こちらです

    どうやら説明する気は無いらしい。やれやれと溜息をついて、大人しく後を追う。
    少し歩いて辿り着いた先には空き地があり、その真ん中には見覚えのある後ろ姿が雨に打たれて項垂れていた。

    あれ……まさかモルガナか……?
    トリックスター。モルガナのことをどうかよろしくお願いします
    は……?ちょっと、どういう──

    尋ねる前に青い蝶は姿を消す。
    ますます訳が分からないが、ひとまず濡れた毛玉に近づいて傘に入れてやった。
    雨が当たらなくなったことに気づいたモルガナはゆっくりと振り返る。雨に濡れているせいでそう見えるだけかもしれないが今にも泣きそうな情けない顔がこちらを見上げた。

    ゴロー……なんでここに……
    それ、こっちのセリフだから。君こそ何やってるんだよ。今日は怪盗団のミーティングやるんじゃなかった?
    …………ワガハイの居場所は、あそこには無いんだ

    突然何を言い出しているんだコイツは。
    詳しい話を聞きたいところだが、流石にこんな雨の中で立ち話をするのは断固拒否である。

    ねえ、とりあえず場所変えない?
    ……ワガハイに構わずオマエはルブランに行けよ。皆待ってたぜ。ワガハイなんかと違ってオマエは皆に頼りにされてるからな
    君は来ないの?
    ……………………

    帰る気はないらしい。
    人間相手ならともかく雨に打たれた動物を放っておくほど薄情な人間ではないという自負は多分ある。
    抱えようと思ってアタッシュケースと傘でそれぞれ両手が塞がっていることに気づいて心の中で舌打ちする。今日初めてこれを使ってることに後悔した。
    どちらかを手放さなければならないが流石にアタッシュケースを選ぶわけにもいかないし、そうなると選択肢は一つしかない。折り畳み傘を閉じて、ひとまず制服のポケットに突っ込む。
    土砂降りの雨は身体を打ち付け、一分もしない内に全身がびしょ濡れになった。

    おいゴロー!?何やってんだ!風邪引いちまうぞ!
    うるさいな。こうしないと君のこと持ち上げられないんだよ。ほら、行くぞ
    んにゃ!?

    モルガナを抱えて空き地を後にする。
    こんな濡れ鼠の状態で、しかもペット用のキャリーもない状態で猫一匹抱えながら電車なんて乗ろうものなら面倒くさい事になることは目に見えている。
    出費は痛いが仕方ない。道路に出て丁度やってきたタクシーの中に乗り込み、なんとか帰宅した。
    真っ先にびしょ濡れのままモルガナと共に風呂場に駆け込んで、濡れた身体を温める。ドライヤーで毛と髪を乾かして、ようやく一息。

    いいのか?ゴローの家にワガハイ来ちまって
    だって君、蓮のところに帰りたくないんだろ?あのままずっと雨に打たれたかったって言うなら話は別だけど
    …………
    一体僕が来るまでにルブランで何があったのさ。さっき居場所はないとか言ってたけど、何か思う事でもあるの?

    黙り込んで目を逸らされた。
    普段の無駄に偉そうな態度はどこにもない。重症だな、これは。

    ………。なあゴロー
    何?
    フタバのペルソナは強いよな。情報支援も、メメントスでのナビも、ワガハイがやってた頃より正確だ
    そうだね
    ペルソナを使えるようになった時期だってゴローの方が遥かに長い。レン達には偉そうに指導してたけど、実際期間なんてアイツらと大差ないんだ
    そうなんだ
    ワガハイは自分のことも分からねー半端者だ。猫じゃねえっていつも言うけど実際猫だし…バスに変身できるし…レン達みたいに助けたい奴なんて居ないしゴローみたいな復讐したい相手もいない。…そもそも、もしかしたらとんでもねー悪人かもしれねえ。…そんな奴が、皆と肩を並べていいのか?ワガハイ、本当にアイツらと一緒に居ていいのか?…役に立ててるのか…?
    …………ああ、そういうこと

    思えば、双葉が加入してからモルガナの口数が露骨に減っていた気はしていた。
    彼女が入る前はモルガナや僕が情報支援をし、真がそれを皆に伝えて指示出しする形で戦闘をこなしていたが今は全て双葉一人でそれを補えている。
    戦闘に集中できるので双葉には喜んで席を譲ったつもりだったが、モルガナはそう思っていなかったようだ。

    リュージに言われちまったんだ。ワガハイよりフタバの方が役に立ってたって。…皆も、そう思ってるのか?レンもマコトもアン殿もユースケも…ゴローも…
    …………

    自分が何者であるか分からない彼にとって、自分にしかできないことが『自分』を持てる唯一の救いだったのだろう。それが一つでも他の誰かに取られてしまってはまた『自分』を見失ってしまう。そんな不安があの金髪バカの考えなしの言葉で爆発してしまったらしい。
    前の時もこんな茶番のような喧嘩をしていたとするならば、本当に愚かなバカ軍団である。

    君さ、本当に自分がバスになることしかできないって思ってる?
    だって…そうだろ…?
    少なくともロキはゾロみたいに回復スキルは覚えないよ。疾風属性のスキルもね
    え…
    真のヨハンナもだいぶオールラウンダーだけど、それでもヒーラーとしてなら君の方が間違いなく上だ。まあ蓮もペルソナ次第では出来そうだけど、多分アイツは君に任せると思うよ
    ……それは…
    杞憂なんだよ、君の悩みは。モルガナにしかできないモルガナが役に立てる場面なんて今まで沢山あっただろう?
    ゴロー…

    そもそも自分が悪人なのかもしれないだなんて悩みをよりにもよって僕に聞かせた時点でお笑い草である。
    こちとら怪盗団を警察に売ってリーダーも殺そうとした裏切者の大量殺人犯だ。記憶がないとはいえそんな男が仲間として迎え入れられている時点でモルガナの正体がどんなものであったところで今更な話だ。

    そもそもバスになることだって十分大事なことだ。僕も君らと会うまでは一人でメメントスに行くこともあったけど、本当に広いから大変だったからね。今は君がバスになってくれるから凄くありがたいし助かってるよ
    …本当か?ワガハイ、ゴローの役に立ててるか?皆と一緒に居ていいのか?
    僕はそう思ってるよ。獅童のシャドウは絶対に強力だからね。ヒーラーとして君の力は絶対に必要なんだ
    ……………
    まあしばらく距離を取って互いに頭冷やしてみるのも一つの手段かもね。君が家にいることは伏せてあげるよ。居なくなって初めて分かる事っていうのは沢山見つかるものだから
    いいのか…?
    君を連れ帰ったのは僕の意思だしね。このマンション一応ペット可だし
    わっ、ワガハイ、ペットじゃねーし!
    そう返せる元気は出たみたいだね。充分だ
    …………。ありがとな、ゴロー

    今にも泣きだしそうな顔で俯く頭を撫でてやる。
    なんだかんだ前も含めてモルガナに触れたことはなかったけれど、悪くない肌触りだった。


    〇 〇


    しばらくすると、モルガナはベッドの上で丸くなって寝てしまった。
    家主より先にベッドの上で寝るなよと言いたい気持ちはあったが、まあ泊っていいと言ったのはこちらなので文句は言えない。
    それと同時にスマートフォンが着信音を鳴らした。画面を見れば蓮からで、既にチャットが何件か届いている。そういえばモルガナを連れ帰るのに必死で今の今までスマホを一切見てなかった。
    モルガナを起こさないように静かにベランダに出て、通話ボタンをタップする。

    …あ。出た
    出たってどういう意味?連絡してきたのそっちだろ
    いや…ずっとチャットも返事くれなかったから…何かあったのかと
    ああ、それについては悪かったね。色々あって忙しくて
    仕事か?
    そんなところだよ
    …そうか

    電話越しでも分かるくらいに蓮の声は元気がない。
    まあ確実にモルガナが隣に居ないからだろう。今日の集まりもモルガナが出て行った時点で話どころではなかっただろうし。

    あのな、明智。…モルガナ、なんだけど
    うん
    …その…仕事帰りとかで姿を見たりしなかったか?…実は…

    モルガナと引き離した方がいいのは竜司一人であって、蓮とモルガナの関係がこじれているわけではない。
    声だけで分かるくらいに意気消沈しているようだし、リーダーであり普段一緒に居る彼だけには教えておいてやることにした。

    彼なら家に居るよ
    え…?
    仕事って言うのは嘘。ルブランの近くの空き地でずぶ濡れになってたから連れ帰ったんだ
    本当か!?
    本当だよ。今だって…。…?

    視線を窓の向こうにいるモルガナに向けると、隣に座って寝ているモルガナの頭をそっと撫でているラヴェンツァの後ろ姿が見えた。背中越しでどういう顔をしているかは分からないが撫でる手つきはとても優しい。
    そういえば、モルガナを見つけたのも彼女の進言があったからだった。あきらと共に未来からやって来た存在である以上モルガナのことは知っているのは当たり前なのだが、どうも単なる顔見知りというわけではなさそうだ。

    …明智?
    いや、なんでもない。人のベッドの上でぐーすか寝てるよ
    …そうか、良かった。見つけてくれてありがとう
    結構落ち込んでたよ。一緒に暮らしてるんだからメンタルケアくらいしてあげなきゃ。しっかりしてよリーダー
    うん、ぐうの音も出ない
    とりあえず、モルガナと竜司が喧嘩するまでに他の皆と話してたこと、教えてもらえる?
    ああ。もちろん

    次のターゲットはやはり奥村邦和が候補に上がっていた。
    しかし最近の怪盗団ブームに不安を感じ、踏ん切りがつかないでいるらしい。そんな時にモルガナが『情けない』と声を上げて、結果的に竜司と喧嘩になって今に至っているという。
    メジエド以降の彼らは世間の怪盗団人気に多少なりとも浮かれていた。前の時はそのせいでまんまと罠にはまってくれたわけだが、今回はそういうわけでもない。
    奥村の心の中にパレスがある時点でビック・バン・バーガーが従業員を人間として扱わない相変わらずのブラック企業であることは間違いないが、それだけで改心に踏み切る理由としては今までの傾向から考えると少し弱い気もする。

    君はどう考える?リーダーとして
    …パレスがある以上放ってはおけないけど、もう少し調べてからでもいい気はする。悪人かどうかも分からないし
    そうだね。今度モルガナと一緒にパレスに入ってちょっと調べてみる。それまではターゲットについては保留にしよう。それと、モルガナと竜司に関しては少し時間を置いた方が良い。彼はこっちで預かるから、竜司の方は頼んだよ。……あ、僕のところに居ることは伏せてね
    ……分かった、モルガナを頼む。……絶対に無理はするな
    うん

    …今日は色んな人からモルガナを任されている気がするな。
    そういうところも、彼に居場所がきちんとあることが証明されているわけだが。
    まあそれを伝えるのは彼の相棒である蓮であるはずなので、ひとまずは黙っておこう。


    〇 〇



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    manju_maa

    PROGRESShttps://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24435026の続き。

    明智先生過去編まとめ。
    『そうはならんやろ』がいっぱいあるけど勢いで読んでください。
    新任教師明智先生と前歴持ちの雨宮君の話⑧────『獅童正義』
    その名前と姿を初めて見たのは、中学生の時だった。
    社会科見学として国会議事堂に行った時に、あろうことか案内役の大人が当時はまだ知る人ぞ知る程度の認知度だったその男を連れて来たのだ。教育側の人間からしたら実際に現場で働いてる人間に説明させる方が子供の学習になるはずだ、という方針だったのだろうし、担任だった女も満足気にその話を聞いていた。周りのクラスメイト達も『へー』だの『すげー』だのと中身のない返事をしながら聞いていた。
    ……僕だけが、その男の顔を焼き付けるように見ていた。話は自分の心臓の音で何も聞こえなかった。
    母は生前に『まさよしさん』と知らない男の名前を呟きながら泣いていることがあった。それが父の名前であるのはなんとなく察していて、母の死後は何処にいるかも分からない『まさよし』をいつか見つけたいと思っていた。見つけて、どうして母を捨てたのか聞きたくて、ずっと迎えに来てくれなかったことを謝ってほしくて。ずっと。ずっと、いつか会いたいと。
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