ごろうくんシリーズ番外編夢を見る。
見慣れたダークスーツの後ろ姿が、どれだけ呼んでも、手を伸ばしても、その声が届いてないかのように前だけを見て、そして閉じられたシャッターの向こうに消えていく夢。その越えられない壁を前にして、俺はずっと、立ち尽くすしかできなくて。響いた銃声は、鐘のようにずっと頭の中で反響し続けた。
だからこそ、たまに寂しそうな顔でこちらを見てくる彼のことが、ずっと気がかりだった。
ゲホゲホ、という咳き込む声に意識が呼び覚まされる。
明智のベッドの端に両手を乗せて、それを枕にして突っ伏するような体勢で寝ていたらしい。頭を上げて身体を起こすと、背中に掛かっていたブランケットが床に落ちた。
これは武見の診療所からここに来るまでに双葉が佐倉の家から「これ使え!」と言って持ってきたものだ。明智の掛け布団の上に掛けたはずだが。
(起きて、掛けてくれたのか…?)
そんな明智はこちらに背を向けて横向きの体勢で寝ている。起きたという事は自分の咳がこちらに飛ばないように向きを変えたのかもしれない。
背中越しで聞こえる呼吸はまだ荒い。顔を覗きこめば辛そうにしている寝顔がそこにあった。
たたでさえ疲れきっている身体は、高熱による疲労で底に近い体力が尚更削られて、いつまで経っても回復できない。熱が長引く理由はそこにあるのだろう。
武見の解熱剤を飲んでもここまで長引くというのは相当拗らせている。俺が居なかったらどうなっていたかを考えるとかなり肝が冷えた。
………
先程、目覚めたばかりの明智は俺を見て『あきら』と呼んでいた。
酷く驚いたような顔をしていた明智は、すぐに目の前の男が『あきら』ではなく俺であることに気づいて寂しそうにしていた。
あの顔はもう何度も見てる。彼は時折ああやって、俺の顔を見ては寂しそうな顔をする。
…明智
『あきら』とは誰なのか。どうしてそんな顔をするのか。
夢の中のお前は、なんでいつも手の届かない遠くに行ってしまうのか。
やっぱり俺、お前のこと…放っておけないよ
汗で少しだけ湿った頭を撫でてやる。
暗い視界の中。熱に魘される横顔が僅かに安らいだように見えた