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    natu

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    natu

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    におふじ/お互いに臆病なにおふじ
    「夜も末」の前の時系列のつもりで書きました。短いです。雰囲気で読んでね

    夜ふかし 2人で過ごす夜が、何故だかとても長く感じた。

    「怖いんじゃ」
     仁王は浮き出た喉仏を震わせて、小さな声でそう言った。
    「言葉にするのが、怖い」
     仁王の瞳が、怯えの色を映してこちらを見つめる。
     傷つけられるとしたらそれは自分の方だと、ずっとそう思っていた。それなのに、不二には今の仁王がとても脆くて危ういように見えた。
    「どうして怖いのか、聞いてもいい?」
    「そうじゃの……」
     仁王は不二の右手を取って、指を絡めて握った。
    「言葉にすると簡単じゃき。簡単だから、口にした途端に全部嘘になりそうで」
     コート上の 詐欺ペテン師として有名だった仁王。そんな彼が、言葉にすることを恐れている。
    「馬鹿だと思うじゃろ?」
    「……思わないよ」
     握られた手をそっと握り返すと、仁王の方が慌てて手を離そうとした。
     不二は始め、仁王のこういうところが好きでなかった。自分からはちょっかいを出してくるくせに、不二の方が彼を気にかけると途端にするりと逃げていってしまう。けれど、その向こうにある怯えに気づいてしまってから、そういう仁王の態度を目の当たりにするたびに胸が切なくなった。
    「僕も同じ。嘘だと言われるのが怖いんだ」
     不二は仁王が離れていかないように、しっかりと指を絡め取った。突き放したりなんてしない。だからどうか逃げないで欲しいと、そんな願いを込めて。
     繋いだ手をそのままに、仁王が不二の顔を覗き込む。互いの顔が近づいて、そのまま唇が触れそうになる。
    「っ、すまん」
     不二がそれに気がつくのと同時に、仁王はハッとして顔を離し、慌てたように不二に謝った。この会話をキスで誤魔化そうとしているように見えると、そう思ったのだろう。
    「いいよ、して」
     不二がそう言うと、仁王はしばらく視線を彷徨わせた後、ようやく決心がついたのか不二の頬に手のひらを当てる。
     目を閉じれば、そっと重ねられた唇。触れ合うだけで簡単に鼓動は速くなった。やがて唇は離れて、恐る恐る目を開けるとすぐ目の前に仁王がいる。当たり前のことに今度は頬が熱くなった。
    「はぁ……」
    「わっ」
     仁王が突然大きなため息を吐いて不二を抱き寄せる。
    「なんて顔しとるんじゃ」
    「……仕方ないじゃないか」
     好きなんだもの。その一言を飲み込んで、こちらからも仁王を抱きしめ返した。

     お互いの気持ちなんて、本当は分かりきっている。気持ちがなければ、そもそもこんなに怯える理由もない。不二はとっくに気がついていた。言葉にするのを恐れているのは仁王かもしれないが、先に進むのを恐れているのはむしろ自分の方なのだ。
     互いに抱き合ったまま黙り込むと辺りはしんと静まり返る。夜は深まる一方で、未だ明ける気配はない。不二は、臆病な自分が心のどこかでそのことに安堵を覚えているのを感じながらそっと目を閉じた。
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