〜五条に必要とされていないと不安になっていたが、めちゃくちゃ必要とされていた伊地知の話〜 「え、なんかやつれてない!?」
教室に戻ろうとしたとき、伊地知を見かけた虎杖。いつものように声を掛けたのはいいが、振り向いた伊地知の顔を見てギョッとした。
「どしたの、伊地知さん!?」
いつものように自分の担任にこき使われたのか!?地味に攻撃性の高い言葉を平気で吐く担任。今回もそうだろうと勝手に担任のせいにしていたが、どうやらそうではないらしい。首を横に振る伊地知に、え、珍しい……。そう言えば、ここ最近担当から外れてるのを思い出す。
(先生めっちゃ駄々こねてたからなぁ〜)
190もある体を床に放り投げジタバタしていた光景が蘇る。そのうちブレイクダンスでもするんじゃないかとポツリと呟いたら、隣にいた伏黒が勘弁してくれと言ってたっけ。
……まぁ、あれはあれで、先生っぽいけど。
「実は、最近夢を見るんです……」
「夢?」
コクンと頷いた伊地知は、クイッと眼鏡をあげ、毎回五条が出てくると言った。
お前はもういらない。
さっさと辞めろ。
いるだけで邪魔。
「そして最後には必ず私に背を向けて立ち去るんです……」
ありえない。
でも、そうとも言い切れない自分がいる。自分は役に立たなかった人間だ。でも、あの人が逃がしてくれた。そのおかげで今の自分がいる。……なのに、本当はいらない存在なのかもしれないと考えると、うまく息が吸えなくなる。
「先生の気持ちはわからんけど」
多分それ間違ってると思う。
虎の言葉に、ふっ、と小さく笑う。
(そう、だといいのですが……)
瞳を閉じる伊地知。
「先生、言ってたよ。伊地知は僕の専属なの。僕のことをわかってるのはあいつしかいないんだから!って」
「……ぇ、」
「お前らに伊地知の代わり務まんのかよって啖呵切ってたくらいだし」
それには他の補助監督さんも妙に納得。
珍しく意気投合してたと言う虎杖に、胸の異物が消え軽くなる感覚がした。
(少しは信用されていた、と思っていいのだろうか……)
もしそうならいいな。
くだらないと笑われてしまうだろうが、自分にとっては大切な願い。
その時、
「あー!こんなところにいたぁ〜」
「……ヘッ、ど、どうして……」
「どうしてもこうしてもないよー。ったく、おじいちゃん達のせいでこんな事になるなんてさ。僕の担当、お前に戻したから」
「ひぇっ!?」
「なにその悲鳴。なに?嫌なの?」
「っ、いいえ、そんなことは……!!」
「んじゃ、さっさと用意して」
シッシッ、と手を振る五条。バタバタと走り去る伊地知を見て、はぁ〜と溜め息をつく。
「先生、さっきの話……聞いてた?」
見上げてくる虎杖に笑みを浮かべ、五条は首をかしげる。
「さぁ〜ね」
ほら、さっさと戻りな。
伊地知の後を追うように歩きだした五条。
その背中を見て、やっぱりこれが現実なんだよなと胸が熱くなった虎杖だった。
おわり。