暴力でさっさと解決「っつーか、お客さん闘えるのかい？ その見た目で、実は元不良だったりすんの？」
「んなわけ」
　そうかい、とムウは煙を吐く。彼は「気付けだ」と言って、とっくに辞めたらしい煙草を久しぶりに吸っていた。
　真夜中、カオメーオとムウがいるのは暗い路地裏。ゆらりゆらりと紫煙が上がる向こうには、明らかに不穏な空気を纏う男2人。狼系統と、虎系統の獣人がこちらを見ていた
　だが、この緊迫した状況で、カオメーオは一切恐れを抱いていないようだった。抑揚と言葉数をできるだけ削ぎ落したような、冷静な喋り口に変化はない。
　ただ、いつもは眠たそうに細めた目が、今ははっきりと開かれている。ムウに淡々と返事をしながら、視線は男らに真っすぐ注がれていた。

唐門解錠【陶酔】

人は金に酔う。
獣人も金が好きだ。
全てが手に入るから。

そう話すコンスゥは懐中電灯を手に、数歩先も見えない暗闇を歩いていく。ストウとカワベは白鱗尾の煌めきを頼りに後を追い掛け、不法買取店にされている倉庫を探索して回った。制限時間は六時間。六時間でこの倉庫を探索し尽くし、制圧し、不法買取店員を連行しなければならないのだ。

「おぉ…これは凄い。」
「全部狭間に戻すんだから、取ったらだめよ。」

東廊下のとある部屋を開けたコンスゥは、そこにある山と積まれた黄金と宝石の欠片を前に楽しそうだ。だが取りも触れようともせず、懐中電灯をストウに渡して太刀を構える。そんなコンスゥを見たカワベも拳銃を構え、ストウは周囲をくるりと照らして警戒を強めた。

唐門解錠【写真】
「暗いところが怖いだって？んじゃあの不法買取店の古倉庫には、一大決心して入ったわけか。色々いたのに良くやるもんだ。見直したよ。」
「い！？」
「んあぁ…すまん、なんでもない。冗談だ。何も問題な…あ、そう言えば少し前に、ストウから写真を貰ってな？これに写ってるのはお前か？」
「心霊写真なら私、見ませんわよ。」
「普通の写真。何も写ってない。」

まぁまぁ、と適当に笑って流したコンスゥは、真新しいアルバムをカワベに渡してやる。カワベは中華粥を食べる手を止めて『心霊写真ではございませんわよね…？』と三度確認し、何も貼られていないアルバムをめくりめくり、たった一枚だけの、日に焼けたモノクロの写真を見つめた。

唐門解錠、設定【人物】
◾︎コンスゥ
パオ、チェンロン、メィレィ、チェイシェ、ネファユカ。またはラオ・コンスゥ。本名は旧友の内でも限られた者しか知らない。名前は記号でしかない。ベタに似た赤色の皮膜の揺らぐ白鱗尾を持つ獣人。目は琥珀色。鱗は所々キラキラしてる。

◾︎ストウ
極東にある軍事警備組織〈アンピール〉の行動隊一群に属する女警官。コゥウェイ国に派遣され、様々な任務に駆り出されている。猫派。

◾︎カワベ
ストウの後輩。一群の新人女警官。普段は真っ赤なスポーツカーを乗り回す運転手。緊急時は狙撃支援を行う。古鉄塔守の生まれ。

◾︎オオノキ
アンピール警務長。


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【用語】
◾︎御開帳
朝焼けまたは夕焼け時に発生する。正式名称は平行世界融和現象。コゥウェイの丘陵地帯に広がる紅化森と、極東の第六海峡大橋が繋がる。

唐門解錠【扉】
古代杉の並木道に白木の鳥居が連なる。
急峻な古道の石段は旺盛に育つ雑草に埋もれ、曲がりくねった参道は人間の侵入を強く拒んだ。脇の薮の合間から、唸り声とも呻き声とも呼べない音が聞こえる。喉の奥から漏れ出たような気味の悪い声が耳に残り、そこかしこから獣でも人でもないモノの視線を感じた。じとりと湿った無風の樹海には葉擦れの音一つなく、だからこそ…どれだけ逃げても追ってくる猟犬の鳴き声が大きく聞こえる。

登れど登れど先の見えない石段を登りに登って辿り着く、豪華絢爛極彩色の唐門前。命からがら辿り着いた彼は肩で息をしながら、その門を開けようと手を伸ばす。しかし唐門はぴたりと閉ざされ、そこには門を守らんと尾びれを広げる大魚が描かれていた。