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    唐門解錠(陶酔/もしも/黄金)

    12.11 もしも、追加
    12.18 黄金、追加

    #唐門解錠
    tangDoorTablet

    唐門解錠【陶酔】

    人は金に酔う。
    獣人も金が好きだ。
    全てが手に入るから。

    そう話すコンスゥは懐中電灯を手に、数歩先も見えない暗闇を歩いていく。ストウとカワベは白鱗尾の煌めきを頼りに後を追い掛け、不法買取店にされている倉庫を探索して回った。制限時間は六時間。六時間でこの倉庫を探索し尽くし、制圧し、不法買取店員を連行しなければならないのだ。

    「おぉ…これは凄い。」
    「全部狭間に戻すんだから、取ったらだめよ。」

    東廊下のとある部屋を開けたコンスゥは、そこにある山と積まれた黄金と宝石の欠片を前に楽しそうだ。だが取りも触れようともせず、懐中電灯をストウに渡して太刀を構える。そんなコンスゥを見たカワベも拳銃を構え、ストウは周囲をくるりと照らして警戒を強めた。

    「毎回思うんだが、勿体なさすぎないか?両国共同の活動資金にでもすればいいのに。それかきっちり二等分。」

    二等分と言うと同時に、暗闇から躍り出てきた狭間の獣をきっちり二つに斬り払う。

    「出処はともかく金は金。お前達もギャラリーも、何かと必要だろう?」
    「どれだけ均等に分けたとしても揉めるのよ。どっちが兵を多く出しただとか、被害が多いからその分多く貰うだとかね。不平等を平等として飲める人は少数派。これまでも何度かあったでしょ。」
    「あー…あったか?」
    「あったのよ。だから全部森に戻す決まりになったの。狭間の森に持ち込めば、目を離した隙に消えてそれっきり。勿体ないのは分かるけれど、金絡みの問題を思えばなんてことないわ。」
    「勿体ないなぁ…これ欲しさに身を持ち崩す奴もいるってのに。」

    コンスゥは太刀を手に、くるりと後ろを見る。そのまま『えいっ』と軽く口走り、小柄な獣を突き刺した。敵襲を受けても閉じない口に、カワベはゆっくりと銃口を下ろす。

    一匹、二匹、五匹、十匹。
    一群れを倒し終わったコンスゥは、太刀に付いた黒い液体を振り払った。しかし納刀はせず、次の部屋にも向かわず、琥珀色の目をゆっくりと薄めてストウを呼ぶ。その声は稀に聞く真面目なもので、静まり返った暗闇にそっと染み込んだ。

    「他のアンピールはどうした?」
    「そう言えば…無線機が静かね…。」
    「ギャラリーとも連絡がつかない。探索隊は二十近かったよな。なのになんでこんなに静かなんだ。」
    「…シッ…音がする…懐中電灯消すけど…いける?コンスゥ。」
    「いけんこともないが…カワベ、いいか。そこから動くなよ。動いたら斬るかもしれん。私の夜目は他の獣人よりも中途半端だ。」

    かちりと電源を切る音と共に、広大な倉庫の一室から光が消える。窓の外に覗いている古い常夜灯の光が、板の打ち付けられた窓から微かに差し込み、そして…ザラザラと宝の山が崩される音、獣臭い風、低い唸り呻く声のような音が近付いてきた。全身の毛が不快感に逆立つその声に、チャキリと太刀を持ち直す音が重なる。

    この時、ストウは思い出していた。
    二年前。初めてコンスゥに会った時、彼女がまだチェイシェと呼ばれていた時のことだ。ストウは新天地の初任務で、狭間の獣の討伐隊に招集された。この初任務は朝焼けの中、御開帳によって現れる狭間に踏み込み、前日の夕焼け時に不法侵入した者の保護兼捕捉と、獣の討伐が主な目的で、特に難しいものではない。朝焼けが終わる前に狭間の森から撤退する点以外に留意することなどない、簡単な任務のはずだった。影や視力を喰らう狭間の獣は恐ろしいが、それらは柴犬ほどの大きさしかなく、火器有りアンピールが班となれば野犬と大差ない相手である。

    野犬や狼を駆逐した極東国のアンピールなれば、その経験を活かして掃討してくれるだろうとコゥウェイも期待を寄せたものだ。しかし二年の月日が流れ、アンピールは今も獣と戦っている。

    つまり…予想以上だった。
    初任務で少し勇み足だったストウは、銃のセーフティを解除し忘れると言うミスをしてしまい、今にも喰らわんと地を蹴った獣を目前に、トリガーも引けず発砲もできない窮地に陥った。その時の仲間がすぐさま支援してくれたので、喰われることはなかったが…思えばそのミスを切っ掛けに連携が崩れ、陣形が歪み、獣の群れに翻弄されることとなった。仲間が一人食われ、肉の裂ける音が無音の森に鳴り、もう一人が声を喰われて無音に息絶え、そしてストウも…何かを食われたが生き延びた。

    「ストウ、終わった。懐中電灯。」
    「…。」
    「ストウ?カワベ、ストウはそこにいるか?懐中電灯をつけてほしいんだが。」
    「ちょっと待ってくださいまし、コンスゥさん。先輩?せんぱーい?起きていらっしゃるかしら?」
    「あ、えぇ、大丈夫。今点けるわね。」

    カチッと懐中電灯がつけられ、首を傾げたコンスゥが照らされる。一瞬目を薄めたコンスゥは怪訝そうにストウを見、くるりと室内を見回して一息つく。

    「…あー、なぁ。ストウ。」
    「なにかしら。」
    「悪い知らせがある。」
    「良い知らせはないの?」
    「この部屋の獣は全部倒した。」
    「良いじゃない。それで悪い知らせは?」
    「お客さんだ。」

    ​───────
    ストウの手に、真っ赤な血がついている。
    それは首から流れ落ち、アンピールの制服を濡らした。口を動かすも声は出ず、代わりに空気の漏れるゴポゴポとした濁音が繰り返されるばかりだ。コンスゥは首を掻き切られてもなお敵を睨みつけるストウを止め、部屋の隅で怯えるカワベをチラリと見る。

    ストウは致命傷。
    カワベは重症。
    コンスゥだけが無傷で立っていた。

    宝の山にどっしりと座る男は忌々しくストウを見下ろし、友が致命傷を負っても平然としているコンスゥへと向けられる。男の右手にはストウを襲った三人組の豹種獣人が待機し、臨戦態勢を取っていた。しかしコンスゥを前に僅かな躊躇いを感じているらしく、ストウを斬り裂いた暗器をそっとしまっている。琥珀色の目は豹種を一瞥し、酷い怪我を負ったカワベを見、そうしている間にどさりとストウが倒れて息絶え、それをも見た。

    血溜まりが床に広がり、宝の山の端を濡らす。しゃがれた声が部屋に響き、隙間風に乗ってどこからか煙の臭いが漂ってきた。

    「優秀な部下は鼻が良くて困る。一長一短だ。さて…君がストウのバディだったかな。はじめまして、お嬢さん。私はアンピール警務長、オオノキだ。部下がお世話になったな。」
    「構わん。割と楽しかった。」
    「それは何より。君のお気に入りだったから、コゥウェイ総本山領府は彼女に手を下さなかったのかな。」
    「それは知らん。」

    コンスゥは尾を一振りして豹種を牽制すると、まだ温かさの残るストウから救急セットを取った。ついでに開いたままの目を閉じてやり、ポンポンっと頭を撫でる。

    「ストウがアンピールに憧れた理由、知ってるか。ネファユカ。」
    「それも本名ではないなぁ。」

    のんびりと返される声に、オオノキは緩く笑い『それは失礼』と思ってもない謝罪を述べる。カワベの怪我を診ていたコンスゥは尾先で返事をし、素人なりに応急手当を施した。豹種獣人三名はコンスゥを囲むようにそろりそろりと移動するが、やはり襲いかかる仕草は見せない。むしろ不安そうに首筋の毛が逆立ち、耳をぺたりと伏せている。

    「幼い頃に白鱗尾の獣人が助けてくれたから、らしい。極東の家族がコゥウェイに移住する計画があっただろう?その一家族がストウ家だ。だが狭間の森で親が食われ、祖父母は森の奥に引きずり込まれ、弟も行方不明。残ったあいつを飲み帰りのお前が助けた。極東に不法侵入して、酒を飲み、ご機嫌で帰宅している道中のお前がな。」
    「あぁあの子供か。大きくなるの早過ぎないか?」
    「二十年近く前のことだ。赤子も年頃になる月日だろう。」
    「そしてオオノキは年老いた、と?」
    「本当にな。老いたよ。老後が怖くて仕方ない。金を貯めておかんとな。はっはっは。」

    オオノキの笑い声に、豹種の怯えた鳴き声が重なる。

    「久しいね、姉様。」
    「…。」
    「楽しく暮らしているようで何よりだよ。不足しているものはない?あったら教えてよ。用意するからね。」

    新たな客人男性はコンスゥを姉様と呼んだ。
    しかしどう見ても男の方が歳上だろう。初老にすら見える髭を蓄え、上質な着物をまとい、尾の鱗には鯉の白写りに似た模様が広がっている。コンスゥのような光沢のあるヒレはなかったが、艶やかな白鱗は瓜二つだ。顔を見る限り人間だが、皮膚に並ぶ鱗や手足の爪、犬歯からして彼もまた獣人なのだとオオノキは知る。

    「オオノキ警務長、君、随分と私服を肥やしたようじゃないか。困るよ。」
    「そちらの要望は叶えただろう。この一山を貰っても足りないくらいだとは思わんのかね。」
    「お上が嗅ぎつけたら一山没収どころか、人生やり直しになるかもしれないとは…思わんのかね?」
    「部下殺しをさせておいて、偉そうに。」
    「乗り気でいといて、傲慢な。」

    双方共にまぁまぁの年齢だ。
    そして口を閉ざしていればまぁまぁの紳士に見える。しかし同族嫌悪なのか金絡みなのか、吐かれる言葉は紳士とは程遠い。コンスゥはそれらの全てを無視してカワベを抱えると、撤退しようと部屋のドアを蹴り開ける。しかし豹種獣人の一人が行く手を阻み、帰らせまいと意を決して唸り声を発した。

    「…なぁ、言い争いは二人でやってくれないか。」
    「おっと失礼…姉様にも協力してもらいたくてね。話を聞いてもらえるかな。」
    「お前の頼みは二度と聞かん。」
    「そんな冷たいこと言わずにさ。」
    「お前のせいでこの有様だ。」

    コンスゥは尾以外に獣人の要素がない自身の姿形に、飽き飽きとばかりのため息を零した。

    「もし、もしも同じことを企んでいるのなら…。」
    「企んでない、企んでないよ。その姿になった可愛い姉様に悪戯なんて、そんな恐れ多いことしないさ。」
    「悪戯か。」
    「僕も幼かったからね。申し訳なかったなーとは思ってるんだよ?」

    弟とやらはその姿を見て『にしても非力で可愛らしい』と微笑む。心の底から可愛らしいと思っている弟は、まるで姪っ子を甘やかすかのような態度でコンスゥに接し続けていた。これが単純な家族愛ならまぁ良かったのかもしれないが…。

    「…気に入らん。」

    コンスゥがダンッと床を踏めば、豹種は怖気付いてそそくさと引き下がる。フンッと鼻を鳴らして歩き去る姉を見送り、弟はぽそりと『ほぉらそう言うところが本当に可愛い…』と呟いた。

    ​───────

    【黄金】

    零四層にリィンオユと言う場所がある。
    またの名を若竹街。名の由来となった青々と若い竹林の合間に、木造の家々がぽつぽつと並ぶ閑静な住宅街だ。路地の隅を流れる水路には魚が泳ぎ、カランコロンと下駄を鳴らして歩く女子は鈴の転がるような声で笑っている。

    金稼ぎ、金遣い、行き交う人の足取りや商品の行き来、それらを包括する街や都市全体の雰囲気すらも騒がしい零四層にしては、ゆったりとした空気の流れるリィンオユ。しかし意外にも住人は少なく、まともな人となるともっと少なかった。危険人物こそいないものの、浮世離れした歌人に地蔵一歩手前の瞑想仙人、己が道をひたすらに行く小説家や、四六時中ずっと琴を弾く若女将など、いわゆる〈普通の人〉が極端に少ないのだ。

    「…。」

    そんな、若い竹林の中にある東屋で。
    カワベはふと目を覚ます。

    竹あみの天蓋に唐辛子の飾りが括り付けられている。竹林を潜って差し込む夕日は目に痛く、壁のない開放的な東屋を素通りした。東屋はそこそこに大きく、カワベが寝かされていたベッドに、毛布やシーツが押し込んである丈の骨組み棚、茶室らしき一角にはダイニングテーブルとビーズクッション、軒下には野菜がはみ出している木棚等、やや物が多めな印象を抱いた。樫のフローリングには、適当に選んだとしか見えない柄も色も様々な絨毯が重ねて敷かれ、さらに座布団やらが投げ置かれている。

    建物の四隅にある柱には障子が備え付けられているあたり、壁を作ろうと思えば作れるようだが…周辺の家とは距離があり、しかも竹林に阻まれ、温暖なれば閉ざす必要はないだろう。

    「んはよ。」

    ベタの赤ヒレがカワベの視界に入ってくる。

    「…コンスゥ…。」
    「ん。なぁ極東の病人はお粥か?うどん?それとも逆にがっつり食べたかったり?」
    「…中華粥食べたい、ですわね。」
    「んん、中華な。」

    ストウを失っても動揺せず、屋外のシステムキッチンに立つコンスゥは、カワベの顔を見て肩をすくめる。

    「聞いてただろう。極東に不法侵入したことがあるんだ。飲み歩きはついで。人に呼ばれたから出向いただけなんだが、その時にキッチン貰ってさ。設置もしてくれたから使ってる。コゥウェイにも似たようなものはあるが、こっちの方が使いやすくて良い。業者も親切だったし。」
    「私が気にしているのは…違いましてよ。キッチンではございませんわ。」
    「だろうな。まぁ…お前が寝ている間、ストウを連れて帰れないか試しに戻ったんだ。結果は見れば分かるだろ。形見はそこにある。それで勘弁してくれよ。」
    「…悔しく、ございませんの。」
    「親友を奪われて、か?それとも愚弟に利用され、本領発揮できないこの体がか?アンピールのトップが汚職の最中なのに、摘発も何もできないことも?それか豹種三人を伸さなかったこととか?」
    「全てでございますわ。密売組織を打破出来ず、先輩を失い、その犯人が平然とアンピールで身内面して仰け反り…霧護ノ大宮司も一枚かんでいる、全てでしてよ。」
    「隅で怯えるしかなかった自らも?」
    「ッ…えぇ、えぇそうですわっ!貴方は立っていた!なのに私はッ!」
    「まぁ落ち着くといい。お前の足の傷、次開いたら手の施しようがないんだ。切り落とすしかなくなる。間違っても動こうだなんて思うなよ。切り落とすってのは冗談じゃないからな。」
    「…。」

    可愛らしいエプロンを身につけ、干しエビを一掴み粥に投げ入れるコンスゥは、尻尾をゆるゆる窘める。鶏出汁に椎茸に筍に、鶏肉の細切れとエビに貝に、ニラと花山椒と少しのニンニク、ラー油を一かけ、あとはコトコトと煮れば中華粥の完成だ。

    「二年も仲良くしていたんだ。もう来ないと思うと寂しくはある。」
    「見過ごせないとは思いませんの?仇を取り、汚職官僚を失脚させようとは。」
    「んん…アンピールらしい考え方だな。好ましいと思うぞ。だが勘違いはやめてくれ。私はストウのバディではないし、協力者でもない。ギャラリーを紹介した一国民に過ぎない。弔う以上を求めるな。」
    「なっ…。」
    「薄情。そう思っただろう。」

    粥の入った丼を二つ、ニコリとコンスゥは笑みを浮かべた。丼は長いこと大切に使われてきたのだろう、煌めく黄金の花模様が所々薄くなっている。それでも名のある作家が焼き上げた丼だと一目瞭然であり、間違っても中華粥を入れてはならない品だった。

    けれど言うには遅く。
    具沢山の中華粥がそこにある。

    それだけでコンスゥの性格を理解したカワベは、丼を受け取って俯いた。

    「はい、完成。自信作だ。」
    「…いただきますわ…。」
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