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    唐門解錠(扉/予感/はじまり/呼ぶ)
    短めにまとめる練習もしてるの。

    12.7 カワベの口調を変更、お嬢様になりましてよ

    #唐門解錠
    tangDoorTablet

    唐門解錠【扉】
    古代杉の並木道に白木の鳥居が連なる。
    急峻な古道の石段は旺盛に育つ雑草に埋もれ、曲がりくねった参道は人間の侵入を強く拒んだ。脇の薮の合間から、唸り声とも呻き声とも呼べない音が聞こえる。喉の奥から漏れ出たような気味の悪い声が耳に残り、そこかしこから獣でも人でもないモノの視線を感じた。じとりと湿った無風の樹海には葉擦れの音一つなく、だからこそ…どれだけ逃げても追ってくる猟犬の鳴き声が大きく聞こえる。

    登れど登れど先の見えない石段を登りに登って辿り着く、豪華絢爛極彩色の唐門前。命からがら辿り着いた彼は肩で息をしながら、その門を開けようと手を伸ばす。しかし唐門はぴたりと閉ざされ、そこには門を守らんと尾びれを広げる大魚が描かれていた。

    頼む…頼むから…と彼は祈るようにして、懐から小さくたたまれた和紙を取り出し、仏壇に供えるかの如く門前に置く。すると和紙は揺らぎ、ビタビタと跳ねる鯛が現れた。

    その鯛を何者かが蹴り飛ばす。

    蹴飛ばし、青白い顔の彼を見下ろす。
    跳ねる鯛は石階段を転がり落ち、薮の方へと身を滑らせた。その瞬間に無数の獣が食らいつき、全身の毛が逆立つような恐ろしい唸り声が幾重にも重なる。しばらくして腹のふくれた獣達はあっさりと森の奥へ消えて行った。

    「森に魚拓は最適解だ。」

    フードを目深に被った彼女が言う。
    身を食い尽くされた鯛はエラだけ動かして宙を見つめ、そして彼女は彼を見つめた。

    「こんな森には何も御座さんよ。」

    ​───────

    【予感】
    夏の未明にヒグラシが鳴く。
    時は近代、八月一日。

    心の底がゾワゾワするほどの見事な夕焼けは、コゥウェイの都市を赤く染めた。郊外の農地から都市中枢、路地裏のゴミ箱までもが赤色になり、もはや異常とすら感じられる。しかし数年前この現象に〈御開帳〉と言う名称がつけられて以降、人は段々と慣れ、今ではニュースにもならない。すっかり空を見上げなくなったし、怖がることも、世紀末を解くおかしな輩も姿を消した。

    「見つけたわ、ラオ・コンスゥ!!」

    軒の低い家々が並ぶ下窟長屋居住地域。
    十七時を知らせる鐘が鳴り響き、荒屋に近い居酒屋は競うように暖簾と赤提灯を掲げる。道には早くも次の居酒屋へと向かう男衆に、今晩の献立に悩みながら買い物をする母親達。学校帰りの子供らは笑い、人混みの合間を縫って駆けていく。

    「住所を教えなさい!今更知らないとは言わせないわ!」
    「毎日言ってるが、住所に嘘はついてないし、あそこに住んでるのはボケてて会話にもならん爺さん一人だ。会いに行けばいい。」
    「本当の住所は。」
    「零四層横三区、東町十の八番通り。ポワレ荘六号室。昨日と同じ。」
    「そんな場所存在してなかったから今日も問い質しに来たんじゃないの!」

    キィッ!!と怒っている若い女警官に、コンスゥは、そう言われましても…とばかりに視線を逸らした。行き交う人々は『まぁた仲良しやってる』とばかりの微笑みを送るだけだ。屋根の上で寝そべる野良猫までもが、二人を飽きたように一瞥した。

    「仮にその住所が本物だったとして、何で見付からないのよ。」
    「さぁ?私が行った時は普通に会えた。」
    「貴女が会ってどうするの…原因分かってるなら教えなさい。貴女一応私達の現地協力者なのよ?これでも頼りにしてるんだから。」
    「協力者になった覚えはない。手助けしてくれる大手のギャラリーを紹介したんだから、そっちを頼れよな。」

    コンスゥはストウを撒こうと路地に入り、ストウは逃しやしまいと小走りに追いかけた。そうしているうちに長屋町を離れ、二人は高層ビルの立ち並ぶ起商行中流地域を歩き始める。

    「お願い。私達にはこの土地に詳しい協力者が必要なのよ。貴女この辺りに長く住んでいるのでしょう。」
    「私はギャラリーの爺婆より年増に見えるか。」
    「いいえまさか。けど頼りにしてるの。貴女について理解出来てない所もあるし…コゥウェイ国民全てが私達を受け入れてくれるとは思ってないけど…。」

    段々と自信を失うストウの語尾に、コンスゥも段々と歩みを緩める。

    壁の迫り来るようなビル間の細道は埃っぽく、壁にはストリートギャングの落書きやら、怪しい店の看板が多い。しかし見た目ほど治安は悪くなく、怪しい店の前にたむろするやんちゃっぽい狐族の男達は、コンスゥとストウに『うっす!こんばんちゃっす!』と挨拶した。しょんぼりとしていたストウは『はい、こんばんは』と警官らしい笑みに切り替えてハキハキと返し、コンスゥは『ん』と頷くだけだ。

    妙な予感を察知したかのように、路地裏の四辻で歩みを止めたコンスゥは、入り組んだ高層ビルの合間に覗く夜空を見上げた。三歩後ろを歩いていたストウもピタリと足を止め、微かな不安からチラリとコンスゥを見る。

    夕暮れはいつの間にか過ぎ去り、息苦しいビル間をネオン看板のきつい光が照らす。

    起商中流居住地域には電飾が多く、幅三十メートル以上はあろう表通りを主軸に、商店街が魚の骨の如く何本も広がっている。店も人も物も多く、街は深夜になろうとも眠らない。狭い空の隙間に星など見えず、まるい月すらも電飾に霞む。夜は常に遠ざけられ、朝となっても光は消えない不眠不休常遊の場。

    そのせいか妙なモノも多く暮らしている。

    コンスゥは、ベタのヒレに似た皮膜のある尾をゆらりと揺らす。幾重にも重なった皮膜は薄く軽く、ナイトクラブのネオンを受けて鮮やかに煌めいた。

    「まぁ、あれだ。爺さんは神がかった痴呆で、その内ものを忘れ、煩悩が落ち、昇華する。」
    「それマズいんじゃないの。」
    「悪いモノなら早々にギャラリーが駆けつけてるだろ。お前が気をつけるべきは野犬。噛まれるなよ?」

    野犬は嫌ね…とこの世界の住人ではないストウは、どうしようかと悩み始める。

    極東国には野犬などいない。
    かつて野犬を媒介者とする伝染病により、極東国は国民の四割を失った。その後の政策により野良犬も狼も駆除され、残された犬達は人間の支配下もとい庇護下でのびのびと生かされている。だからなのかコゥウェイ国と極東国が繋がったばかりの頃、極東人はコゥウェイの町を闊歩する野犬や、道を行く犬族に恐怖心を抱いていた。その反応は当然だが感じの良いものではなく、コゥウェイは極東の歴史に理解を示しつつも不快感を零した。この亀裂は四十年の月日により薄まり、今では犬族と極東人は『兄弟』との仲にまで深まっている。

    「予防接種はしてきた。」
    「生の野犬とは言ってない。気になるなら災い除けのお守りでも買って行くといい。多少は効くだろ。」
    「そっちね…気を付けるけど、あのお守り値札がおかしいじゃない。」
    「そりゃ本物だから。神社のは八割プラシーボ。大切にすれば九十九になるかもしれんが、どうやっても百には届かん。欠けた一を求めて、夜な夜な歩き回るのが理だな。桁がおかしいのは仙人仕込み。ガチってやつだ。」

    ​───────

    【はじまり】
    その昔、と言うほど昔でもない四十年前。
    原因不明の平行世界融和現象〈御開帳〉により観音開きが発生し、コゥウェイの丘陵地帯に広がる紅化森と、極東の第六海峡大橋が繋がった。以降、見事な朝焼けと夕暮れ時に世界は繋がるようになり、両国は親睦を深めようと交流を重ねている。ストウは極東の軍事警備組織〈アンピール〉に属する警官として二年前に来国し、コンスゥを巻き込みながら忙しい日々を送っていた。巻き込まれたコンスゥは程々にあしらいつつ、異国の良き友として彼女を受け入れている。

    「野犬と言えば、狭間の獣も犬しか見ないわね。犬っぽい獣と言うべき?」
    「この前子犬見た。コロコロしてたな。」
    「あれらは一応繁殖してるのね…異様な姿だけど生物ではある、と。」

    観音開きによって繋がった極東国政府とコゥウェイ総本山領府の間には、狭間と呼ばれる森がある。いつも薄暗く、しっとりと湿った嫌な森だ。そこには犬のような獣が群れて住み着き、二つの世界を行き来する者を常に狙っていた。この獣達は肉を食うだけに留まらず、聴力や視力などの感覚から、声や影までもを食らっていく。そのせいで肉体は無事でも声や視力を失い、後の生活に障壁を抱えざるを得ない者も多い。だから極東警務部とコゥウェイ法軍により、許可を受けていない民間人の行き来は禁止されていた。それでも勝手に侵入する者が絶えず、両国とも頭を抱えているのが現状だ。

    なにせ狭間の獣を討ち取れば、金銀財宝が落ちるのである。ほとんどは小さな欠片だが、臨時ボーナスに価する値打ち物に違いはない。この話を聞いて、興味を抱かないものは少ないだろう。特に極東国では本物のRPGと話題になってしまっている。狩猟し、素材と報酬を得て、装備を強くして、また狩猟。そんな暮らしができてしまうのだから、多少の危険など承知で侵入する輩が耐えないのである。

    ある種の夢が現実となったのだ。
    となれば簡単には止められない。

    「けど犬族の協力もあって、昨年より侵入者数は大幅に減ったわ。彼らにならってコンスゥも協力して欲しいのだけど?」
    「犬みたいに働けってか。」
    「もー、バディ組んでもらえないかなって期待したのに…怪しいお仕事してないで…っと?何かしら。」

    騒がしさに振り向けば、真っ赤な車がクラクションを鳴らしながらこちらへと向かってくる。

    「急ぎの仕事か?今日遅番?」
    「いいえ、今日は早番からの残業もしてきたわよ。」
    「ふぅん。流石はアンピール、人使いが荒いことで。」
    「貴女も道連れよ、コンスゥ。どうせ帰ってお酒と仲良しするだけでしょ。手伝いなさい。」
    「今日は卓と仲良しの予定。」
    「大差ないわよ。」

    ストウの辛辣な物言いに笑うコンスゥは、野良猫を見付けてこちょこちょとなで始めた。そのまま野良猫に何かを言伝ると、車から降りてきた運転手と話しているストウを見上げる。

    「牛鍋食いたい。さっきの路地に串焼き屋ってあっただろ?あそこの新メニュー。鍋と串と、飲み放題付き。割といい値段。」
    「お安いことだわ。」
    「お役人ってのは金払いが良いな。」
    「貴女も持ってる方でしょ。」
    「祝いでもなしに牛食うほどではないさ。まぁ、んなら手伝ってやろう。」

    運転手の女性はコンスゥに手を振り、早く乗って!とジェスチャーを送った。

    「ほら、おいで。置いてくわよ。」
    「アンピールの車は全部あんな感じなのか?」
    「あれは持ち込み車両。あの運転手、カワベの車。」
    「いい趣味してる。」

    二人を拾った車は極東国の手助けにより整備された道路を駆け抜け、どこかを目指して走り続ける。十数分もするとすっかりネオンは遠のき、喧騒も消え、辺りには延々と広がるライ麦畑意外に何もない田園地帯となる。たまに馬のいななきが聞こえる気がするが、街灯一つない田園地帯では目を凝らしたとて何も見えやしなかった。

    「それでカワベ、一体何があったのよ。」
    「ほぉ、お前がカワベか。格闘技の大会で大の男を張り倒したって期待の新星。この前ストウが話してた。」
    「コンスゥは静かにしてらっしゃい。」

    カワベのリュックから菓子袋を取り出したストウは、それをコンスゥに投げ渡して黙らせた。見た事のない菓子を貰ったコンスゥは素直に口を閉ざし、ガサゴソ、ポリポリと食べ始める。

    「カワベ、先に言っておくわね。これがコンスゥ。本名年齢種族不詳。普段何やってるのかも知らないわ。零四層の地酒〈未明酒〉と俗物好き。皆には内緒にしといて。」
    「俗物好きって悪口でしてよ…先輩が見込んだ人物なら間違いないのでしょうけれど、コンスゥさんはよろしいの?」
    「コンスゥはいいのよ。」
    「ストウ閣下がこう言うんだ。私には反論できんよ。不服ではあるがな?」

    後部座席から伸び出てくる尾ヒレを、ストウはペチリと叩いて暗闇に伸びる道の先を見る。車は速度を上げ、ぼんやりと見えてきた建物へと一直線に向かっていた。

    ​───────

    【呼ぶ】
    なかなかの運転に満足したコンスゥは、車から降りると尾をユラユラさせながらそれを見上げる。ストウとカワベはトランクから装備を取りだしていた。

    闇夜にそよぐライ麦は妙に煩く、その奥に佇む建物からは近寄り難い雰囲気が発されている。見た目としては古びた廃病院か、年季の入ったコンクリートビルに似ており、所々に黒い液体がべったりと付いていた。建物から離れた畑のど真ん中には黒い天蓋が設置され、アンピールの警官が集まっている。よく見れば統一感のない服装の集団、もといギャラリー職員も混じり、なにやら真剣な表情での話し合いが行われていた。

    それを指さしてカワベは言う。

    「不法買取店の摘発にございますわ。」
    「ギャラリーに全て任せておけばいいと思うが。」
    「狭間の獣がいなければ、全てお任せ致しましてよ。すでに被害者が二名出てしまわれましたわ。」
    「夕焼けの紅化森でもないのに獣が?そう言えば前もどこかでそんな話を聞いたな。」
    「前にもこんな事があったの?」
    「噂に聞いただけ。後で調べておこう。」

    防弾チョッキの最終確認をしていたストウは、ベタの赤ヒレが煌めく白鱗の尾を引っ掴んで問い質す。しかしその尾はするりと手から逃れ、茶化すようにストウの鼻先を掠めた。

    「噂以上のことは何も知らんよ。」
    「ほんとに?」
    「本当本当。ここで誤魔化したら牛が食えなくなる。そんな下手したくない。」
    「現金でよろしい。後で調べといて頂戴。」
    「それはもう。」

    すると天蓋から『メィレィ!ちょっと手伝って!』と呼ぶ声が聞こえ、コンスゥはライ麦を踏み分けて歩いていく。そのあとを追うストウに、カワベがひそりと耳打ちした。

    「会長が建物内に。ギャラリーの方々いわく汚職容疑とのことですわよ。けれど配慮して下さいまして、まだ公にはなっておりませんわ。」
    「まずは事実確認のためにも、会長の身柄を確保ね。次期会長にはまだ伝えないで頂戴。」
    「あら、よろしいのです?」
    「…えぇ。」

    低い声で一言だけ呟いたストウは、紺色の目を薄めてコンスゥを見つめた。ギャラリーの職員と話しているコンスゥはニコニコと笑い、ポケットに手を突っ込んで楽しそうだ。しかしその腰にはギャラリー職員から借りたのだろう太刀を下げて、アンピールの防弾ジャケットも羽織り、いつでも突入できる格好になっている。

    あの不穏な建物を前に談笑できてしまう性格を見込んで、コンスゥをバディにと思ったストウだったが、その性格ゆえにのらりくらりとかわされ続けて早二年。

    本日やっと、本格的なアンピールの活動に巻き込むことができた。対価は牛鍋。エリートのストウにとっては安いものだ。

    「コンスゥさんは戦闘員に数えてもよろしいのかしら?先輩?」
    「えぇ。私達よりも戦い慣れてる。構う必要はないわよ。どうせ私達は守られるばっかりになるでしょうから。」
    「先輩が守られるだなんて、ご冗談もほどほどになされた方が宜しくてよ。」
    「それが冗談じゃないのよ。獣人の運動能力が高いのは知ってるでしょう。」
    「尻尾くらいしか獣人の特徴がございませんけれど…私達と同じ、こちらで言う猿異種に近い気がいたしますわ。」
    「コンスゥは…昔は違ったみたい。お酒飲ませた時にね、昔の体はもっと動きやすかったって言ってたわ。昔の体って何よってね。意味分からないでしょ?」

    冬の初めだったろうか。
    コンスゥは未明酒の瓶を抱えながら、何気なく『呼ばれたから戻ってみれば、この体だぞ?』と愚痴った。あの時は、コゥウェイのジョークか皮肉の類だろうか?と流したストウだったが、どうやらそうでもなさそうだ…としばらくだった頃に気付いたのだ。しかしコンスゥ本人は酒により記憶がすっ飛び、寝言か?と逆に聞いてくる始末。これがとぼけてるだけなのか、本当に記憶がすっ飛んだのか見分けられなかったストウは、諦めて心中にしまっておくこととした。

    「…何に呼ばれたのかしら。」
    「先輩?」
    「私も一度呼ばれたことがあるの。紅化森を通過してる時、誰かに名前を呼ばれたわ。驚いて声のした方…右をね、見たの。私の右側にはバディが座っていたんだけど、跡形もなく消えていたわ。定位置だったのよ。私が左の助手席で、運転席にはバディが座って…いつもね。」
    「ストウ、そろそろ時間らし…どうした?」
    「いえ、なんでもないわ。」
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