ウィジャボード その日、フィガロが食堂に向かうと若い魔法使いたちが集まっていた。その中には楽しげに笑うルチルもおり、フィガロはゆっくりと近づいていく。
「あ、フィガロだー! なになに、どうしたの?」
「通りかかっただけだよ」
「にゃーん」
しかし、若くない魔法使いに絡まれてしまい、フィガロは軽く肩をすくめる。そんな様子など気にも留めないムルは、再び机の様子を笑いながら覗いた。
机の上にはうっすらと魔力を帯びた一枚の紙。そこにはカリグラフィーを用いた美しい文字と数字が並んでいる。おそらくルチルが書いたものだろう。その上には穴の空いた小さな板があり、みながそこに指を重ねていた。
「あっ、フィガロ先生!」
元気に笑いかけながら、ルチルは空いた手でフィガロを招き入れる。誘いに乗るように歩いていくと、良い子の若い魔法使いたちはみな指を離して少しずつお互いの間を詰めていく。ありがたくその隙間に身体を滑り込ませたフィガロは、隣でニコニコと笑うルチルに話しかけた。
「ルチル、これは?」
「賢者様の世界にあった占いなんです。みんなでこの小さな板に手を乗せて、質問をすると、この小さな板が動くんですって! オートマティスムとかカンネンウンドウって賢者様は言ってましたよ」
突然の医学用語に、フィガロは目を二、三度瞬きをする。どうやら人体の不思議を利用した遊びだと理解をし、フィガロはゆっくりと頷いた。
「へぇ、賢者様は物知りだね。じゃあ、どうして魔法がかかっているんだい?」
賢者様と同じように遊ぶのなら、魔法は必要ないはず。そんな純粋な疑問に、ルチルの上をムルがふわりと宙返りしながら飛んでくる。頭に片手を置かれたシノは、赤い目をぎゅっと細め明らかに嫌そうな顔をした。
「面白いからー! フィガロは魔法は好き? 嫌い? 得意? 得意じゃない? 面白い? 面白くない?」
「はいはい、あとでね」
「あはは!」
説明になっていない質問を軽くあしらうと、もう片側の隣にいるクロエが楽しげに声を上げる。
「ムルが不思議な魔法をかけてくれたんだ!」
「そうなんです、フィガロ先生もどうですか?」
「おや、いいのかい?」
にこやかに笑い合う魔法使いたちを代表するように、目の前から凛々しい声が響く。
「もちろんです、フィガロ様もぜひ」
「ありがとう、アーサー。じゃあ参加しようかな」
「わかった! でもプランシェットが小さいね、大きくしちゃおう! 《エアニュー・ランブル》」
空中で浮かんでいたムルの魔法により、一文字分の穴を残したまま、小さな板が上下左右にびゅんと伸びる。
「プランシェット? この占いの名前かな?」
フィガロからの質問に、ルチルはにこにこと笑う。
「この小さな板がプランシェットって名前です! 占いは、賢者様の世界ではコックリサンとかウィジャボードっていうみたいですよ。この小さな板の前がヒースと似ているねってみんなで話していたんです。あ、でも、もう小さくないですね!」
ご機嫌なルチルに、フィガロもつられるようににこりと笑う。名前を出されたヒースクリフは恥ずかしそうに目を逸らし、隣のシノはなぜか誇らしげに胸を張った。
「じゃあ、みんなで指を置いてみよう!」
ムルの掛け声に、ぞろぞろと魔法使いたちは再び板に指をのせていく。大きくなったプランシェットはみなの指を置ける広さはあるものの、せっかくのカリグラフィーの文字と数字のほとんどを隠してしまっていた。
端にひっそりと添えるもの、しっかりとそれを押さえつけるもの。みなどこかワクワクしたまま広くなったそこに指を乗せていく。フィガロも彼らに習うように、そっと板に指を伸ばした。
優しい魔法がかけられたこの不思議なボードは一体何を指し示してくれるだろうか。
「それじゃあ、行くよ!」
ムルの明るい声が、静かな食堂に響く。キラリ、指先のリングが光を纏った。