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    あいぐさ

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    あいぐさ

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    【開門2展示】
    『巻き毛ちゃん』でアイドルデビューしたファウストが、フィガロのダンスを見ながら自主練する話

    お手本 スクロールバーを細やかに動かし、0.5倍速にして、もう一度。滴る汗をタオルで拭き、ボトルの隣にそっと置く。画面に映るのは、動き故少しだけブレた男だ。
     その日、いくつかの歌番組を終え、『巻き毛ちゃん』としての練習は一通りの区切りを迎えていた。スノウとフィガロはドラマ、ヒースクリフはモデル。皆、個人活動も忙しい。ファウストも、今日はいつもの番組収録を終えたばかりだった。
    「……もう少し、ピンと」
     片面が全て鏡で覆われたダンスレッスンのための小部屋。ファウストの小さな声がやけに響く。彼が見ていたのは、曲の途中、全員で腕をまっすぐに伸ばす振りのところだ。
     先ほどから、何度も練習をしている。しかし、その場所に行くまでの導線をどうも美しくない。
     腕を曲げて、振り返り、くるりと体を捻り、最後に腕を上へ。もちろん、動きは頭にも身体にも叩き込まれている。
     四人はそれぞれ、揃っているようで揃っていない。スノウはよくウィンクをするし、ヒースクリフはバレエのようなしなやかな動きを随所に取り入れている。
     フィガロは、いい意味で標準だった。スノウのように魅せることに特化した動きも、ヒースクリフのように幼いころから培われた特殊な動きを見せることもない。
     音楽にはめるように、一つ一つの動作が丁寧に。彼の踊りは、丁寧なお見本のようだ。
     個性があることが悪いことではない。ただ、ファウストが一番参考にできる踊りがフィガロだった。ただ、それだけだ。
    「……もう一度」
     音楽に合わせて、一人鏡の前で踊る。できない。もう一度フィガロの動きを見る。できない。
     スマホで自分の姿を録画しながら、もう一度踊る。その後、二台のスマホを並べて客観的に踊りを見比べていく。
     腕を曲げるところは、深く肘を落としすぎている。振り返りはカメラを見過ぎでいる。捻りがあと少し足りない。腕がまっすぐに伸びすぎている。
    「……」
     一つ一つの動きを鏡で確認して、映像を確認して。まるで模倣するかように、身体に正しい角度を馴染ませていく。
     そうやって何度も練習をして、もう一度自分の姿を映像に残す。まだ足りないところもあるけれど、ぎりぎり及第点だろう。
     時間は有限だ。この練習室だって、借りる時間は限られている。次の振り付けだってあるのだ。
    「よし」
     ファウストはスクロールバーを動かし、再び映像を確認していく。やっと腕を伸した先まで曲を進めれば、その瞬間にフィガロの顔がカメラに抜かれた。
     榛の大きな瞳をゆるりと閉じながら、フィガロはふわりと笑う。まるで見つめられているみたいに、目線が合う。
     そんな彼の表情に、思わず胸がギュッとなった。ああ、そんな顔で笑うのか。そんな風にカメラに映されているのか。
     いつもの飄々とした決まった笑み顔ではなく、まるで少年のような幼さを含んだ笑いだった。気恥ずかしいものを見ているようで、なんとも言えない気持ちになる。
     知らない顔みたいだった。
     ダンスに表情は重要だ。スノウやフィガロは、いつだって場面に合わせて顔をコントロールしている。眉毛も目も口も可動域はだいたい皆同じぐらいなのに、どうしてこうも豊かになるのだろうか。つい顔が固くなってしまうファウストには、どうも真似できない。
     目の前に鏡に映るのは、疲れた顔をした仏頂面の己の姿。乱雑に束ねられた髪の毛は、そろそろカットした方がいいだろう。
     フィガロを思い出しながら、鏡に向かって口角を上げる。目が笑っていない、だなんて書かれていたSNSのコメントを思い出した。
    「はぁ……」
     誰もいない練習室に、一人寝転がる。今も光る画面の中で笑うフィガロは、ビジュアルが、写りが良い。寝転び頬が地面で伸びる自分に比べて、顔がシュッとして目がシャッとして、とにかく良いのだ。練習室で見かけるすっぴんが恋しくなってしまいそうだ。
    「……」
     無言でスクリーンショットを取り、ファウストは再びゆっくりと起き上がる。
    「顔が、いいな」
     普段の吸い込まれそうな瞳がカラコンによって隠されている。それでいて、骨格を生かすメイクとマッチした神秘的な美しさが、画面に詰まっていた。
     この顔ができるまで、あと何年必要なのだろうか。
    「頑張らないと……」
     暗くなった画面をダブルタップすれば、光が灯る。思ったよりも時は進んでいたらしい。ファウストは、再びスクロールバーに手をかける。
     そのとき、後ろからトン、と肩を叩かれた。

    『それからね、ファウストと一緒に練習をしたんだよ。いやあ、俺もつい張り切っちゃった』
    『ファウストちゃん真面目だよねぇ』
    『おまけに可愛いよね。俺の動き、全部真似てくれるんだよ? なんだか嬉しくってさ』
    『えーフィガロちゃんなんか気持ち悪ぅ〜』

     こうして、ファウスト自主練エピソードは、メンバーの突発的深夜配信がバズり、大量に拡散されてしまった。ちょっと危ない発言を繰り返したこの回は、アーカイブがすぐに消され、ファンの中では伝説になっている。
     しかし、もちろん無許可で話したフィガロはファウストからたんと怒られ、しばらく口を聞いてもらえなくなったのだった。
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    recommended works

    🍏🥝🍣現遂🍣🥝🍏

    PAST〈法庶04〉
    【ふたりハミング】
    いま見たら全年齢じゃなくて法庶だなと思った。
    あと、ほせ殿にサラッと高度な事?をさせてる気がする。
    通りすがりに一度聴いただけの曲、その場で覚えて、知らないその後の部分に即興で別パートメロディ作って一緒に歌うって……
    でも、この二人で歌ったら声とか意外と合いそうで妄想が楽しいです。
    徐庶が最初は法正の事が苦手だったって場面設定もあまりやってなかったかも
     「♪♩♬♩♫〜〜……」
     書庫の棚の前に立って資料整理をしていた徐庶は、何となく曲を口ずさんでいた。何日か前に街で耳にした演奏が印象的だったのか、メロディが自然と鼻歌になって出てしまう。沢山あった仕事が片付いてきて、気が抜けていたのかもしれない。
     ふと気配に気付いて横を見ると、いつからか通路側に法正が立っていて徐庶の方をじっと見ていた。外の光で若干逆光になった彼の姿に少したじろぐ。
     この人に鼻歌を歌ってる所なんか見られてしまうなんて……

     徐庶は法正のことが少し苦手だった。
     諸葛亮と彼の反りが合わず空気がギスギスした時は仲裁役になる場面もしばしば、用があって何言か言葉を交わしたこともある。しかしそれ以上はあまり関わりたくないと、苦手意識を持つ男だった。
    1964