Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    あいぐさ

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji ⚓ 🌼 🐙 🐇
    POIPOI 81

    あいぐさ

    ☆quiet follow

    現パロのフィガファウ(記憶なしと記憶あり)がベランダでワルプルギスの夜について駄弁っている話

    ワルプルギスの夜 それは初めて口にしたはずなのに、どこか妙に馴染みのある言葉だった。

    「ワルプルギスの夜って知ってる?」
     酒盛りをして暑くなって、二人でベランダに出て。ふわふわとした意識のまま、フィガロはテレビで耳にしたことを話した。
     ファウストが家賃を下げるために選んだ、駅から遠くて静かなアパートの一室。フィガロの住むタワマンよりもはるかに地面との距離は近く、空は遠い。
     どこか閑散とした住宅街で、街灯も少ない。ベランダから見える窓のほとんどは電気が消えており、また一つ遠くの住宅が黒くなった。夜更けに出歩く人々もおらず、プラスチックのコップを持った男二人を見ているものなどいない。
     フィガロの言葉に、ファウストは目を大きく見開いた。思わずコップを落としそうになり、どこか年季の入ったTシャツに水が溢れる。幸いほとんど中には入っていなかっため、小さなシミがいくつかできた。
    「すまない、手が滑った」
    「いや、いいよ。結構飲んだもんね」
    「まだいける」
     いつもの澄ました顔から不機嫌に眉を寄せたファウストの頭を、フィガロはわしゃわしゃと撫でる。彼はどこか鬱陶しげに手を振り払うと、丸メガネのブリッジを上げた。
    「なんかね、魔女のお祭りらしいよ。俺も詳しくは知らないけど」
    「そうか……」
     月が綺麗な夜だった。
     丸くはないけれど、半月から少しだけ膨らんだ形。青白い光は暗い空を照らしている。
     ファウストはどこか心あらずの返事をして、ぼんやりと月を見上げていた。少しだけ目を細めたのは、眠いのか、それとも何か違う理由があるのか。フィガロには分からない。
     いつもなら平気な沈黙が、今はどうしようもなく気まずい。フィガロは静かに月を見つめ続けるファウストに再び声をかけた。
    「魔女のお祭りって何をするんだろうね」
    「そうだな……」
     月から目線を外したファウストは、隣に立つフィガロの方を向く。
    「きっといろんな屋台とかがあると思う。ほら、夏祭りみたいな」
    「ははっ、まるで人間みたいだ」
    「魔法使いも人間も大して変わらないよ」
    「そうなの?」
    「多分な」
     ファウストはどこか楽しげに笑いながら、空のコップを指先でつまむ。コツコツと時折ベランダのヘリに当てながらも、彼はゆらゆららと動かし続けた。
    「あとは、そうだな。偉い魔法使いにみんなが挨拶しにくるんだ。フィガロ様、昨年度はありがとうございました。今年度もどうかご贔屓にしてくださいって。深々と頭を下げられながら、お願い事を聞かされるんだよ」
     突然出てきた自分の名前に、フィガロはケラケラと笑う。
    「えー、俺? 流石にフィガロ様は言われたことがないよ」
    「例えばの話だ」
     仕事の立場的に、フィガロはいつだって頭を下げられている。そんなお願いはどれも大変で面倒なことばかりで、思い出すだけでどこかげんなりしてしまう。
    「もっとファンシーな例えがよかったな。流れ星を降らせるとか」
    「ははっ、それはかわいいな」
     どこかからかいを含むように笑われ、フィガロはファウストの頭をもう一度ぐしゃぐしゃにする。彼も少しは悪いと思ったのだろうか。今度は手をどけることもせず、ただ乱れゆく髪を軽く手櫛で整えただけだった。
    「……きっと服も豪華だ。大きめのローブに、とんがり帽子なんかも被っているんじゃないか」
    「あはは、本当に魔女みたい。杖も持ってそうだね」
    「杖はないな」
    「えぇ?」
     どうやらファウストは杖アンチらしい。急にスンとした顔で否定した彼に、フィガロは楽しそうに笑う。
    「何だか面白いね」
    「そうか?」
    「そう」
     フィガロは一歩ファウストへ近寄ると、彼の身体に少しだけ身体をもたれかかる。
    「……重い」
    「いいじゃん。少しだけ」
     分かりやすいため息を吐いたきり、ファウストは何も言わない。ただ、手持ち無沙汰にコップをくるくると回し、ぼんやりと月を眺めている。
     あるはずのない空想の世界の話を、ファウストがここまで付き合ってくれることも珍しい。案外現実主義な隣の彼は、フィガロの戯言をバッサリと切ることがほとんどだった。
     よほど酔っているか、それとも興味のある話題だったのだろう。いつもとは違うファウストの様子に、心が妙に揺れる。
     特に、今日のファウストは月ばかり見つめ続けている。そんなにも特別なのだろうか。月なんて、いつだって空にあるのに。
     それがどこかつまらなくて、フィガロはもたれかかる力を少しだけ加えた。
    「おい、重い」
    「考え事?」
    「違う」
     やっとフィガロを見つめた目は、困惑と少しの怒り。これ以上は本当にファウストの機嫌を損ねてしまうかもしれない。力を抜いたフィガロを、ファウストは少しだけ力を込めて押し返した。
    「言いたいことがあるなら言え。その、僕はあまり察しが良くないんだ」
     目を伏せたまま、どこか悲しげに。そんなファウストに、フィガロは少しだけ罪悪感を覚える。どこか大人気ない態度を、まだ就職すらしていない学生に向けてしまった。
     こころが狭い自分が、どこか嫌になる。
    「……だって、今日は静かだから。久しぶりに会ったのに」
     しまった、と思ったころには口から言葉が出た後だった。しばらくフィガロを見つめていたファウストは、小さな声を出す。
    「なんだ、寂しいのか」
    「……」
     無言は肯定だった。
     声を殺したように笑ったファウストは、ちらりと月を見て、そのままフィガロの頭を撫でる。
    「おまえ、何にでも嫉妬するんだな」
    「うーん、そうでもないけど」
     酔いは一気に冷め、子供じみた嫉妬と執着を見せたことへの後悔が押し寄せてくる。ファウストはどこかご機嫌のまま、フィガロの髪をわさわさと撫で続けた。
    「別に。ちゃんとおまえのことを考えていたよ」
    「えー、本当?」
    「本当だ、約束したっていい」
     優しい言葉をかけながら、ファウストはフィガロからそっと手を離す。

     あまりにも綺麗に笑う彼は、確かにフィガロを見つめていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭❤❤❤✨💞❤👏✨✨🌠🌠🌠💕😭🌠🌠🌠💚💜🌕✨🌠😭🌠🌠🌠🙏🙏🙏🙏🙏🙏🌟🌖🌖🌟🌠😭❤❤😭👏💯💖💞💞💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works