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    あいぐさ

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    あいぐさ

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    フォロワー四桁の神字書きフィから突然フォローされ怯えるファの話〜へんしゅー編〜
    フィガファウにしたい現パロ、前回の続き。
    今回はカプ要素はないけど、フィがファに執着してるよ! ズサマが喋るよ!
    ※へんしゅーのあれそれは全部捏造想像です

    神にフォローされて怯えています(5) 数多の才能を持て余す人々を導くフィガロは、今日もどこか余裕を漂わせながらパソコンに向かい合う。かたかたとキーボードを叩きながら、時折かかってくるフィガロ宛の電話を取って。そんないつもと変わらない日々を送っていた。
     フィガロは優秀だ。年功序列の強い会社でありながら颯爽と同年代を追い抜き、今の地位まで上り詰めた。あと一回り以上離れた上司が昇進するまでは、ポストが空いていないためこのままだろう。
     そんな彼について来れる人はごく一部であり、その一部は一癖も二癖もある面倒な人ばかりだ。
     その一人が、艶やかな黒髪の男、オズである。彼がいつものように無表情のままペラペラとゲラの確認をしていると、トンと強めに肩を叩かれた。
    「今送った文章、読んでおいて」
     なぜ、という前に、フィガロはスタスタとその場を後にしていく。オズはため息を一つ吐き、スリープモードになっているパソコンの明かりをつける。
     送られてきたデータをダウンロードし開いてみれば、それは小説の原稿だった。枚数は百十三ページ。多いと怒るにはどこか物足りず、けれど確実にちょっと読ませるには多すぎる枚数である。
     オズはため息を一つ吐き、ワードの文章に目を通していく。
     少し前の時代の外国をテーマにした軽めの歴史小説だろうか。時折魔法使いが出てくるので、ファンタジー作品とも言えるだろう。簡単にまとめれば、建国のために尽力する二人の種族の違う若者たちの心温まる冒険ストーリーだった。物語が不自然に途中で終わっているのは、恐らく書きかけなのだろう。
     オズはさっとスクロールをし、ため息を一つ吐く。フィガロの意図が読めない行動はよくあることだ。しかし、最近ではこうやって少し手間で時間のかかることばかり頼んでくる。面倒ではあるが、今日のように反論する隙など与えられないのだ。
    「どう?」
     ガン、と缶コーヒーを机の上に置きながら、フィガロはにこやかに笑いかける。
     オズは騙されない。こういう顔をするとき、彼はどこか不機嫌なのだ。
    「いい文章だ」
    「違う」
     カシャ、とプルタブを開けながら、フィガロは近くの椅子を引いてくる。そのまま軽く座った彼は、背筋を少しだけもたれかけながらオズへ鋭い視線を向けた。
    「売れると思う?」
    「……うちでは、難しい」
    「だよねぇ」
     眉を下げながらため息を吐くフィガロは、オズのモニターに表示されたデータを見つめる。
    「いい話なんだけどな……」
     どこか寂しげに声を出すフィガロは、コーヒーを一口飲む。最近エナジードリンク禁止令を双子たちから出されてから、彼は見せしめのように同じだけコーヒーを摂取する日々を過ごしていた。
    「また、紹介するのか」
    「……ううん、しないつもり」
    「なぜ」
     オズには、なぜフィガロが悩んでいるのかが分からない。
     今までの彼は、適材適所の言葉通りの人だった。
     売れないけれどいい作品を書く。そんな作家は、他所の会社へ紹介をしたり、別の部門に移したり。そうやって彼は昇進してきたのだ。
    「もうそういうのはやめようかなって思っているから」
     フィガロは困ったように笑いながら、ぼんやりと画面を見つめる。
    「なぜ」
    「おまえ、質問ばかりだな。そうだな、もう失いたくないんだよ」
     フィガロはどこか乾いたように笑いながら、ぐっとコーヒーをもう一口飲む。
    「今の自分がやけに空虚に思えることが増えたんだ。手のひらから色んなものがサラサラと溢れていく感じ。……まあ、アーサーのためにわざわざ新しいレーベルを立ち上げちゃったおまえには分からないだろうけど」
    「ああ」
     言葉を豊かに表現する方法が文字なら作家、口ならフィガロだろう。耳をするりと抜ける言葉に、オズはとりあえず相槌を打つ。
     フィガロは分かる。オズは恐らく話を聞いていない。理解もしていない。顔色ひとつ変えない彼に、フィガロはゆるゆると頭を振った。
    「はぁ……本当に正直だな。嫌味のつもりだったんだけど」
    「すまない」
    「あーあ、俺が馬鹿みたいだ。八つ当たりして悪かったよ」
     フィガロは大きなため息を吐き、オズをどこか楽しそうに見つめる。彼は椅子にどかりと座り直し、ゆっくりと長い足を組んだ。
    「オズ、お前はさ。他人のことなど気にせずに自分がやりたいことって、すぐに答えられる?」
    「ああ」
    「まあ……、うん、そうだよな」
     色素の薄い髪を持つ彼は、オズを慕い、オズを尊敬し、オズに絶対の信頼を置いている。オズと親しいフィガロにも敬意を持って接し、彼ももちろん可愛がっていた。
     オズは彼を大切にしている。仕事に私情を挟むなと言いたいところではあるが、彼は素晴らしい働きぶりでうちの売れっ子作家だった。私情バンザイの環境である。
    「俺はさ、おまえが羨ましいよ」
     一度手放して、未練がましく再び手に取って。それが正解だったか今も悩んでいる。
     手を離したままお互いが幸せになった未来など考えたくもない。けれど、時折考えて自己嫌悪に陥る。
    「そうか」
    「そうだよ、邪魔したね」
     フィガロはひらひらと手を振りながら立ち上がる。デスクに缶コーヒーを一つ残し、彼は去っていく。

     オズはそんなフィガロの後ろ姿を見つめ、再びゲラに目を落としたのだった。

     
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