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    あいぐさ

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    あいぐさ

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    にょたゆり現パロフィガファウ、めっちゃ執着してるし誘惑してる。

    神様 いい子は天国に行ける。でも悪女はどこへでも行けるんだってさ。

     真面目で優秀で優しくて、おまけに美人。世の中の人が皆こぞって褒めていて、まるで神様みたいだと思っていた。
    「ファウスト、うちで勉強していきなよ」
    「……いいのか?」
    「うん」
     うるうるとした瞳が柔らかに細められる。
     けれど、優しげな表情とは裏腹に、握られた手はあまりにも力強い。キリ、と骨が軋むほどの力に、思わず顔をしかめそうになる。絶対に逃さない意志すら感じられた。
     けれど、そんな小さな独占欲すら嬉しいと思うようになったのはいつからだろうか。
     どろりと溶けた目は明らかに熱を帯びていた。勉強なんかきっとしない。そんな見え透いた嘘でも、ちゃんと流されてあげる自分はなんで優しいのだろう。
     けれど、彼女も同じように私を手の中で転がしているのだ。私の喜ぶ言葉を分かっていて、おいでおいでと手招きをする。誘われたのはきっと私の方だろう。
     魅了は、ときに計算高い。
     かわいいかわいいと言っていたら、もっとかわいくなった。かわいくなって、あざとくなって、もっと好きにさせてくる。
     前に顔が好きなんでしょうと言われたので、全部好きと答えた。彼女にはどこか悪戯っぽく笑う。
     そして、微笑みながら嘘つきと言った。
     部活に精を出す人々を横目に、私たちは校門へ向かっていく。
    「……成績が下がったと、言われた」
    「へぇ、誰に?」
    「親」
     最近、調子悪いの? 母親に心配された。別になんでもない、と答えた。
     隠し事が上手くなったと思う。
     あれほど保っていた成績が落ちる理由など一つだけしかない。物理的に勉強する時間が減ったのだ。
     これ以上は、もう危ない。分かっている。
     けれど、どうしてその手を取ってしまうのだろう。自習すると嘘をついてまで、彼女と共に過ごそうとするのだろう。
     いつからこうなったのだろう。
    「そっか、じゃあ頑張らないとね」
     ペラペラの言葉を言いながら、彼女は私の手をぎゅっと握る。ああなんて自分勝手なのだろうか。気持ちのこもっていない言葉を吐くなんて、優しい人間なら絶対にあり得ないだろう。
     私は知っている。残念ながら、彼女は神様ではないことを。
     校則で禁止されている色付きのベストをこっそり着ていたり、メイクをしていたり。時には愚痴を言ったり、どうしようもなく荒れていたり、ひどい八つ当たりをしたり。全部、全部見てきた。
     失望もした、嫌な気持ちにもなった。
     けれど、私の前だけ人間に堕ちるその姿は嬉しくて仕方がないのだ。叡智の欠けた誘い方も、わかりやすい独占欲も、全部全部可愛くて仕方がない。
    「なあに?」
     見つめていたら、そっと距離を詰められた。抱きしめられたとき、知らない香りが鼻についた。
     嫌な顔をすれば、どこか嬉しそうに見つめられ、もっと抱きついてくる。そして私の髪の毛をゆっくりと撫でた。
     鬱陶しい。髪型が崩れる。おまえの髪の毛が頬に当たってくすぐったい。
     そうすれば、彼女はきっとすぐに離れてくれるだろう。嫌そうな表情一つせず、にこりと笑いながら。
     けれど、そんないい子のような態度を取られたくはない。
     どうせならみっともなく泣いて欲しいぐらいだ。自分の歪んだ思考に、ファウストは小さな声を上げて笑う。
     自分が変わってしまった、変えられてしまった。でも、それでいいと思っている。
     ああ、神様。これは罪でしょうか。
    「え、本当にどうしたの?」
    「別に、どうもしていない」   
     どこか不服そうな顔をしながら、彼女は顔の全パーツをぎゅっとさせる。ひどい表情なのに、美人がやるとどうして崩れないのだろうか。
     世の中は不公平だと思う。
    「おまえのことを考えていた」
    「まあ、隣にいるからね」
     結局、本当のことを言ったけれど、それでも彼女は満足しなかったらしい。よりぎゅうぎゅうと身体を寄せ、豊満な胸を身体に押し当ててくる。
    「おい……」
    「うん?」
     おそらく、これは分かってやっているのだ。身体を使った直接的な下品な動作なのに、彼女がやれば妖艶になる。何故だろうか。
     世の中はやっぱり不公平だ。
    「……おまえのこと、神様だと思ってたって考えてたんだ」
    「あはは、神様?」
     正直に答えれば、彼女はにこやかに笑う。
     そして、綺麗な顔を小さく歪めた。
    「窮屈そうだからやだな。ルールも多そうだし、私には向いてないよ」
     身体に抱きついた指先が上につぅと登っていき、首筋をゆるゆると撫でる。細くて冷たい指先は、最後にぷにとほっぺをつついた。
     軽く身を捩れば、彼女はようやく腕の力を抜く。
     そして、不気味なほど綺麗な顔でにこりと笑った。

    「私は、神様じゃないよ」
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