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    あいぐさ

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    あいぐさ

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    たなばたなのでそれっぽい話、現パロのフィガファウ、二人で電話しています。

    タナバタ その日、ファウストは一人ソファにもたれかかりながら酒を飲んでいた。
     長い平日が終わり、やっと訪れた二日間の休日。予定も特に入っておらず、だらだらと休日を過ごすつもりだ。
     いや、本当は予定は入っていた。けれど、今日の真夜中にドタキャンされたのだ。
    「はぁ……」
     別に悲しんでなどいない。いつものことだ。相手の仕事のことも理解はしている。
     けれど、こう何度も直前でキャンセルされると気が滅入るものなのだ。自分だけまるで暇人のように思えてしまうし、こちらから誘うのも億劫になる。
     なにせファウストはどこかの誰かのように生き急ぐほど仕事に熱心ではない。人並みの向上心は持ち合わせているものの、身を粉にして金を稼ぐのは性に合わないのだ。これからも、今の自分に合ったペースで働いていくだろう。
     夕食のときにつけたテレビは、いつの間にかよく分からないドキュメンタリーが流れ始めていた。興味はないが、消す理由もない。なんとなく流し見をしながら、ぼんやりと酒を飲み、スマホを眺める。そんな怠惰で贅沢な夜の時間を過ごしていた。
     そうして、ちょうど日付が変わるころだろうか。スマホが急に震え、ファウストはちらりと画面を確認する。
    「……」
     そこには、ファウストの通話履歴のほとんどを占める男の名前が画面に表示されていた。
     暇つぶしか、それとも謝罪だろうか。とりあえず電話を取れば、耳元からガサガサと布を擦る音が聞こえてくる。
    『あ、ファウスト』
    「……なんだ、こんな遅くに」
     どこか強めの語気を聞いたからだろうか。フィガロは情けない声で謝罪をした。
    『あ、もしかして寝るところだった?』
    「別に、起きてるけど。そんなに眠そうな声だったか?」
    『うーん、一応聞いておこうと思って。ほら、夜だし』
     確かに、あと一時間もしないうちに日付は変わる時間だった。普段ならどこか遠慮してお互い通話などしないだろう。お互いの性格が幸いしてか、寝落ち通話なども二人の間で行われたことはない。
    「確かに、珍しいな」
    『ね、俺もそう思って。あ、ファウストは星を見た?』
    「星?」
     急にどうしたのだろうか。窓にはカーテンが閉められており、星など見えるわけがない。
    『ほら、今日七夕じゃないか』
    「……ああ」
     七月七日。机に置かれたシンプルなカレンダーを見て、ファウストは静かに相槌を打つ。
    「そういえばそうだったな」
    『きみ、イベントとかあんまり興味ないよね』
    「悪かったな、もう大人なんだ」
    『いやいや、責めてるわけじゃないって』
     少しだけ抑えめの声で電話口の彼は軽く笑う。
     確かに、昔のファウストはイベントには疎い方ではあった。けれど、フィガロと共に過ごすことが増え、それなりに意識はするようになっていたつもりだ。
    「……一応、ハロウィンとか、クリスマスとか、ちゃんとやった。忘れたのか」
    『まさか。プレゼントのネクタイピン、今も付けてるよ』
     カツ、とわざと立てられた音に、ファウストは顔を赤くする。どこか子供じみた言い訳をしてしまった気がして、急に恥ずかしくなった。
     フィガロからのプレゼントであるメガネを指で触りながら、ファウストは小さく息を吐く。あの日は、たまたま休みが重なって、ずいぶんと高そうな眼鏡屋に連れていかれたのを思い出した。値段は怖くて見ていない。きっと、ネクタイピンよりも何倍もするのだろう。
    「……仕事中か?」
    『いや、今は車だよ。あ、大丈夫。ちゃんと停めているから』
     つまり、直前まで仕事をしていたのだろう。相変わらず忙しいらしい。
    「少しは、その、休んだ方がいい。僕に電話する時間があるなら早く帰れ。明日は出張だろう」
     やりがいがあって仕事をしているのはちゃんと分かっている。止めるつもりもない。
     けれど、この時間は少しだけ心配になってしまう。
     現に少し前に業務が重なりひどく体調を崩していた。それでも、フィガロはベッドにパソコンを持ち込み仕事をしていたのだ。さすがにチクチクと文句を言えば、次の日からは大人しく寝て過ごすようになった。
     しかし、数日後に有給消化できてよかった、なんてあっけらかんとしていた彼には頭痛がしたものだ。
    『大丈夫だよ、今は元気だからさ。今窓から星を見ているんだ。あーでも、外に出た方が見やすいかな』
     ピピ、と電子音が鳴り、その後ガチャンと扉が閉まる音がする。どうやら彼は車から降りたらしい。
    『うーん、そこそこ明るいからあんまり見えないや。曇ってるし。明日は結構田舎だから見えるかなぁ』
    「そういや明日は雨だったな」
    『あ、やっぱりそうなんだ』
    「テレビでやってたからな。……洗濯、明日はやめるか」
    『明後日晴れればいいけどね』
     通話は繋いだままファウストはニュースアプリを開き、天気を確認する。曇りと雨のマークは日曜日まで続いているため、おそらく部屋干しになりそうだ。
     耳元でピピ、と馴染みのある音がして、ガチャガチャと金属が重なる音が聞こえてくる。どうやら車の鍵をかけたらしい。
    「おまえ、今どこにいるんだ?」
     時折後ろから車の音は聞こえてくるが、基本はフィガロの周りはしんと静まり返っている。星を見ているなら屋外ではあるが、行き交う車の音から駐車場のような場所ではないだろう。
     ファウストの問いかけにフィガロは曖昧に笑った。
    『ファウストも一緒に星を見ようよ。あ、玄関から出てきてね』
     なぜわざわざ玄関なのだろうか。
     そのとき、ふわふわとした頭が一気に覚醒した。
    「……まさか」
     会えないと言われ、返事をしばらく無視していた。仕事終わりにわざわざ車で来るような場所で、屋外で、静かで少しだけ車が行き来するような場所。
     バタバタと廊下を走り、後ろを踏んだまま靴を履きファウストは部屋の外に出る。
     閑静な住宅街で、目の前には大きな道路。その脇道に、とても見覚えのある車が一台止まっていた。
     歩道側にはスーツ姿の長身の男が一人、アパートを見上げている。彼はファウストと目が合うと、長い腕をゆるゆると軽く振った。

    『あはは、きちゃった』
     忙しいだろう、明日も仕事だろう、なぜこんな時間に来た。小言ばかり溢れてくる。
     けれど、そんなことは直接言えばいいのだ。
     
    「おい、そこから動くなよ」
     そう言い残し、ファウストは走り出す。

     日付は、きっとまだ変わっていない。
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