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    あいぐさ

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    あいぐさ

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    スペースで話していたお題「学パロ」「夏」でフィガファウ!です!
    大学生のカテキョのフィと高校生のがくせーのファの話、息を吐くように現パロ

    新しい目標 日がゆっくりと沈む暑い季節。今日もフィガロは来慣れた家のインターホンを押す。

     週に一回、夕方から夜の二時間。来年大学受験をするファウストの家庭教師になって二年ほど経った。
     明るい彼の母に出迎えられ、フィガロはいつも通りの温和な笑顔を浮かべた。ファウストは無表情のままだが、いつだってフィガロが来たら彼の部屋から降りてくる。
     最近暑いですね、なんて雑談をしながら手を洗い、ファウストに連れられて二階へ。扉を開ければ、ひんやりとした風に体が包まれた。
     奥の長机の上には参考書とノートがデスクに広げられている。そして机の下にしまわれた回る椅子の隣には、いつもフィガロが座る背もたれのある椅子が置かれていた。
    「今日はどの問題?」
    「物理を……」
    「あはは、物理か。どれかな?」
     フィガロのすごいところ、それは大体の科目を教えられることだ。
     おそらく受験で選択していない科目ですら、テキストを読めばファウストに教えられる程度には理解して、すらすらと解説してくれる。初めは数学と英語だけをお願いしていたけれど、いつの間にか学校や自主勉で分からないところをざっくばらんに聞くようになっていた。
    「ここでさっき覚えた公式に当てはめるんだ。ああ、分母は足して、分子は引く。間違えないようにね。これ、先生の板書が分かりにくい気がするな」
    「……!」
     一瞬でファウストの悩みを吹き飛ばした彼は、彼のノートへ勝手に書き込んでいく。シャープペンで書かれたどこか角ばった細長い文字の一行が、赤文字の公式の横へ添えられた。
    「……ありがとう、すごく分かりやすい」
    「あはは、それはよかった」
     フィガロとの付き合いは短いようで長い。
     もともとは近くに住んでいたが、ある日突然引っ越して、そして大学で再びここへ戻ってきた。ばったり会った母とフィガロが意気投合し、次の日に紹介されたときはくらりと目眩がしたものだ。
     昔からフィガロはすごい人だった。他の子供よりも身長が高く、利発的で賢く、そして優しい。彼が引っ越すまで、ファウストはどこか盲目的にすら思えるほどにフィガロを慕っていた。思い出すだけでどこか気恥ずかしい。
     けれど、フィガロは引っ越していった。あれは、ファウストが中学生の夏休みのときだったと思う。母から聞いたときはあまりに突然で呆然としたものだ。ほどほどに親しい関係だったのに、ファウストは何も聞かされていなかった。
     そんな彼が、今隣の席でファウストの勉強を見守っている。人生何が起こるか分からないものだ。
     物理に始まり、英語、数学、そして化学。小さな詰まりをフィガロは丁寧に解いていく。
     ここは慣用句だからそのまま覚えた方がいい、これは簡単な図を描いてみたらいいよ、ここは応用問題だから多分出ないと思うけど……。簡単なアドバイスは彼の経験からであり、ファウストの第一志望校よりもかなりハイレベルな大学に通う彼の言葉には強い力があった。
    「きみは志望校は変えないまま?」
     不意に聞かれたら質問にファウストは英単語を書く手を止め、顔を上げる。
    「ああ」
    「そうなんだ」
     身のない質問にファウストは再びプリントに視線を落とす。チラリと隣の彼を見れば、どこかにこやかな笑みを浮かべながら分厚い本を読んでいた。
    「それは?」
     今度はフィガロが手を止め、顔を上げる。ファウストが指で本を突けば、彼は軽い調子で笑った。
    「ああ、講義で使う本だよ」
     民法、と書かれた分厚い本に、ファウストは怪訝な顔をする。
    「あなたの学部では、法律も学ぶのか?」
    「いや、これは必修じゃないんだ。この教授、試験がレポートだったからね。実質この分厚い本を買えば単位が付いてくるから楽かなって」
     ファウストに向けられた本の中身には挿絵の一つもない。ただお堅い文章がずらっと羅列されていた。
    「目がチカチカする」
    「あはは、俺も」
     フィガロは笑いながら、ファウストの手元のノートをチラリと見る。
    「三問目、もう一度確認してみて」
    「……あ」
     スペルミス、eをaと書いていた。鉛筆で二重線を引き横に書き直すファウストに、フィガロは横着だとくすくすと笑った。

     フィガロと共に過ごす二時間はあっという間だ。勉強に関しては効率主義で結果主義を徹底する彼のおかげで、ファウストの成績はひたすらに右肩上がりを続けている。
    「どうして今更志望校なんて聞いたんだ?」
     鞄に本を詰めていくフィガロに、ファウストは思い出したように尋ねた。
    「いや、その、今のきみの成績ならうちの大学とかも目指せると思って。国公立っていうのは分かるけど、ほら、なんだか勿体無い気がしてね。滑り止めにどう?」
    「どちらかというと記念受験になるんだが……」
     フィガロと同じ大学に行くには、今のファウストの成績では少し、いや大いに心許ないだろつ。妹もいるし、お金のことを考えれば私立はあまり選択肢に入れていない。
     けれど、きっといい指標になるだろう。ファウスト自身も目指すレベルを上げて成績をより伸ばすのはやぶさかでなかった。
    「……じゃあ、おまえが責任を持って僕の成績を上げてくれ」
    「えぇ……、そこはきみが頑張るんじゃないの?」
     くすくすと笑いながら、フィガロはゆっくりと立ち上がる。 
    「でも、きみと同じ学校に通うのって素敵だなって思ってさ」
    「……本当に?」
    「うん、本当だよ。ほら、歳の差的に小学校のときぐらいだったし」
     フィガロは笑いながら、ファウストの部屋の扉を開ける。
    「そうか」
     いつも通りの無表情のまま、ファウストは玄関先までフィガロを見送る。彼は軽く頭を下げ、また来週と手を振った。
     家の鍵を閉めながら、ファウストは紫の瞳をすっと細める。

     思いつきかもしれない。きっと、一週間もしたら発言すら忘れているだろう。
     それでも、それでも。
    「よし」
     母親に軽く声をかけて、ファウストは再び二階へ上がっていく。

     今日、新しい目標ができた。
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