Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    あいぐさ

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji ⚓ 🌼 🐙 🐇
    POIPOI 81

    あいぐさ

    ☆quiet follow

    フィガファウで痴話喧嘩、巻き毛ちゃんのアイドルパロの世界線です

    完璧じゃない理由 高身長、イケメン、スマートな受け答え、天を味方につけたようでありながらどこか親しみやすいスーパーアイドル、フィガロ・ガルシア。
     そんな彼は、最近ひどく反省したことがある。

     またやってしまった。
     そんな後悔をしながら現場に入ると、自然と足が控え室に向かっていた。
     もちろんすれ違う人々に優しい笑顔も挨拶も忘れない。大変だねえ、なんて声をかけられ、フィガロは困ったように笑う。
     ぼんやりとしながらも用意された白い控室に辿り着くと、フィガロは軽く扉をノックをした。
     中から返事は聞こえない。一番乗りだろうか。ふぅと小さなため息をつきながら、フィガロはノブをゆっくりと回す。
     部屋には先客がいた。
    「あ……」
     そして、真ん中の四人掛けの机の上には週刊誌が開いたまま置かれている。そこには過激でセンセーショナルな見出しと、マスクと帽子で顔を隠したフィガロと、どこか親しげな距離の女優の姿が印刷されていた。
     眉を上げて腕組みをするファウストは、明らかに機嫌が悪い。伏目がちに入ってきたフィガロがうっかり後ずさるぐらいには威圧感があった。
    「おい、何度目だ」
    「ごめん。その、相手が酔ってたみたいでさ。急にもたれかかられちゃって……」
    「何度目だ」
     語気を強め、眉をひそめ、ファウストはギロリと睨む。
     儚げな美形の怒り顔はなんと美しいことか。そんな現実逃避に思考を飛ばしながら、フィガロは眉を下げた。
    「……三度目、かな」
    「……はぁ」
     大きなため息と共に顔を抑えたファウストは、パタンと本を閉じる。向かい側に腰掛けたフィガロの手元に本を軽くスライドさせると、再び大きなため息を吐いた。
    「いいか、この際だから言うが……。今、僕はものすごく嫌な気分だ」
    「ごめん。SNSもまた荒れちゃってるし、他のみんなのところにも変なリプ飛んできてるよね」
     フィガロはいろんな意味で目を引く。特に平均よりも高すぎるその身長やスタイルから、変装が意味をなさない。そのため週刊誌の絶好のターゲットになりやすいのだ。
     けれど、転んでもただでは起きないのがスーパーアイドルフィガロ・ガルシアである。
     週刊誌にうっかり撮られるたび、すぐに事実無根であると告げ、ファンや関係者各位に真摯に謝罪。理由も全てが共演者への配慮からであるため、撮られるのに株が上がるという世にも奇妙なポジションを獲得していた。
     けれど、出版社も売上が上がるからか、それともフィガロ側が彼らを訴えないからか。今回のように曖昧な情報を記事にまとめ世に放たれてしまう。
     対策をしようにも、こうした騒動の度に注目され、グループのSNSのフォロワーは増えていく。フィガロ自身も大して気にしていない。いわば一種の炎上商法ができあがっていた。
     フィガロの答えにファウストは不機嫌そうに机をトントンと叩く。振動はフィガロのところまで伝わり、彼のお気に召さない返事であることは明白であった。
    「おまえ、本当に僕がそんな理由で怒っていると思っているのか?」
    「ええと、うん、違うのかな」
     フィガロは申し訳なさげにしながら、軽く首を傾げる。
     謝ればきっと許してくれる。それは甘えか信頼か。
     真摯でありながらもそんな態度が隠れて見えた気がして、ファウストは分かりやすく舌打ちをした。
    「違う。リプならおまえが深夜に変なライブ配信をするたびに届くやつの方が迷惑だ」
    「あぁ……、うん、最近は控えてるよ」
    「は?」
     眼鏡をくっとあげたファウストに、フィガロは両手を軽く上げる。
     今は口答えなどするべきではなかった。即座にごめんねと謝ると、ファウストは再び舌打ちをする。
     そんな態度にどこか寂しさを覚えたものの、今回の件はおそらく圧倒的に己が悪いのだ。フィガロは何も言えないし、言うべきではないだろう。フィガロはちゃんと分かっているため、素直に口を閉ざした。
    「……この前の謝罪配信もそうだ。あんなのすぐに相手が僕だってわかるじゃないか」
    「結構ぼかしたんだけど……」
    「甘いんだよ。おかげでおまえを許してあげてくださいお願いします本当にすみませんみたいな、そんな敬語の懇願リプがたくさん僕に来たんだぞ。まずファンに謝らせるな。全く、勘弁してくれ……」
     一通り文句を言い終わると、ファウストは机にぐったりと項垂れる。
     今までの週刊誌騒動でも、ファウストだけは終始嫌な顔をしていた。スノウはどこか面白げに笑っているし、ヒースクリフは心配そうに声をかけられフィガロの方が申し訳なくなってしまうぐらいである。
     だから、フィガロは反省と共にどこか驚いていた。今までファウストからこんなにも徹底的に注意を受けることはなかったのだ。
    「本当にごめんね、これからはちゃんと気をつけるよ。みんなにも迷惑かけないようにする」
     ちゃんとしたグループ活動というのはいささか大変らしい。ソロや気ままな人たちとのグループでしか活動経験がなかったフィガロには新鮮であり、少しだけ難しいと感じてしまう。
     けれど、ファウストはそんなフィガロの真摯な返事にひどく悲しげな顔をした。
    「……分かった。おまえは僕のことが嫌いなんだな」
    「待って、どういうこと?」
     聞き捨てならない言葉に、フィガロは眉をぴくりと動かす。不可解を通り越して不愉快にすら感じられるその発言に、フィガロはガタリと椅子を動かした。
    「同居もおしまいだ。明日、いや今日から家探しをする。安心しろ、しばらく家にも帰らない」
    「待って待って、どういうこと?」
     一体どうして彼はこんなにも怒っているのだろうか。至極丁寧に真摯な反省がもしや伝わっていないのか?
     立ち上がったフィガロに、ファウストは下からぎろりと睨む。彼の大きな紫の瞳には、うるうると涙が溜まっていた。
    「おまえは勝手なんだ。僕のキスシーンのドラマにめちゃくちゃ文句言う癖におまえはもっとすごいのに出てるじゃないか。もういい、おまえは僕のGPSがラブホ街にいても可愛くて美人な胸の大きいグラビアアイドルと週刊誌にすっぱ抜かれても気にしないんだろう。いいんだ、もういいんだ、終わりなんだからな」
    「待って待って、どうしてそうなるの? 全部嫌だしものすごく気にするよ。一旦話し合おう、きみらしくないよ」
     ファウストからの直接的で世俗的な言葉にくらりとしながらも、フィガロは冷静だった。けれど、ファウストはそんな態度にすら怒りをヒートアップさせる。
     ぽろり、大粒の涙が頬を伝った。
    「うるさい、もう僕ばっかり我慢の限界だ。大体、おまえはさっき言ったことを全部全部僕にしてきているだろう!」
     ダン、と拳で叩かれ、組み立て式の机がぐらりと揺れる。
     ファウストが物に、それも他人の共有物に当たるところなど、フィガロは見たことがなかった。純粋な衝撃に、うまく言葉を紡ぐことができない。
    「もういい、終わりだ。頭を冷やしてくる。くそっ、おまえが大嫌いな他人を巻き込んでやる。ネロもスノウもヒースにも言いふらしてやるからな。おまえなんか大嫌いだ……」
    「待って、ファウスト!」
     ドスドスと大股で歩きファウストは扉の外に出ていく。家ならきっと追いかけて腕を掴み絶対に逃げられないように捕まえ、嫌だ離せと暴れても決して力を抜かなかっただろう。
     けれど、ここは公共の場である。活動歴があり、世間体をひどく気にするフィガロは追いかけられなかった。
    「あぁ……」
     きっと、ファウストは嫌で嫌で仕方がなかったのだ。それを気付いて欲しくて、ずっとずっとフィガロに訴えていたのだろう。
     思い返せば、心当たりのあるファウストの言動がいくつも思い浮かぶ。機嫌が悪いのかな、なんてどこか曖昧に流していた過去の自分を蹴り飛ばしてやりたい。
     ファウストは傷ついていたのだ。やっと、フィガロは自覚した。
     けれど、気付くのがあまりにも遅すぎたのだ。

     その日、ファウストはフィガロと一切の口を聞かなかった。スノウとヒースクリフからファウストは大層心配され、フィガロは二人から白い目を向けられた。けれも収録のときは恐ろしいほどに普段通りで、フィガロの方が調子を崩しそうになったぐらいである。
     ファウストはその日、家に帰ってこなかった。メッセージも電話も全く繋がらず、GPSも切られているので探すこともできない。
     次の日も、その次の日も、フィガロは一人深いため息を吐いた。

     三日目の真夜中、ニコニコと笑いながらフィガロは健全で完璧な配信を行った。
     SNSの更新をしばらく止めていたことには触れず、いつものような愚痴を言わない。そんな推しの姿にリスナーたちはざわめいていた。
     一人だからか、それとも張り詰めていたものがプツンと切れたからだろうか。
    『はぁ……。あはは、仲直りってどうやってするんだろうね』
     配信の最後、フィガロは憔悴し切った姿でそんな言葉をポロリとこぼしてしまう。
     その姿は瞬く間に拡散されて、結局その日もSNSを賑わせてしまう事態となった。

     おい、ファンを巻き込むな!!! また敬語リプがたくさん来たじゃないか!!! 
     早朝、怒りと心配からファウストが怒鳴り込みながら帰ってきたことで、二人はやっと仲直りをしたのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏👏👏😭💚💜😭❤💖💖💖🙏👏💖👏☺👏☺👏☺👏☺💖💖💖💖💖💖🙏👍❤☺💖💖💖👏👏☺☺🙏👍💞💞💞💖💖💖🙏💴💴💴💴💴👍💖💖☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator