◆疲れを取る一番の方法「先寝るぞ」
夕飯を済ませたあと、かれこれ3時間はパソコンと睨めっこをしているだろうか? 龍司さんが何をしているのかまでは知らないけど、仕事なんだろうと邪魔しないように過ごし寝ようと思ったのでひと言声をかけたはいいが、聞いてるのか聞いてないのか「あー」という気のない返事が返ってくるのみ。
集中してるのであれば邪魔だろうし、さっさと寝室に行こうと思ったがよく見るといつ淹れたのかわからないコーヒーはなみなみと注がれたまま手付かずで、書類は散らばり、キーボードを叩く手は打っては戻りを繰り返し作業が進んでいるようには見えない。
(あ、コレ疲れてるヤツだ)
一緒に過ごしてるうちに気付いたことなのだが、うまくまとまらない、進まないだけの時は資料を見たり、調べものをしたり、忙しなく動いていることが多い。逆に今のように、手が動いているようで動いていない時は大抵疲れて頭が働いておらず、進む物も進まない。無闇に時間を浪費するだけだというのに自分では気付かない。
さっさと休んでもらわないとと思った俺は龍司さんの後ろに立ち、そっと耳元で囁いた。
「早く寝ろよ?」
すぐ来るなら待っててやるから早く来い。との思いを込めて軽く音を立てて頬に口付けてやる。
「おやすみ」
顔を見られるのは恥ずかしかったので、すぐにリビングをあとにし、布団に潜り込む。
そういえば最近は先に寝てしまうことが多く、朝も下手をするといつ寝てるのか不思議に思うほど隣にいることが少なかったことに気付く。
「俺も龍司さん不足かな……」
浴室に行く音がしたのでもうすぐ寝室に来るだろうし。しっかりと自分も補充させてもらおう。
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今、何がおきた??
盛大に頭にハテナを思い浮かべながら、目の前の惨状を目の当たりにする。
いつ淹れたのか分からない冷め切ったコーヒーは口もつけずに放置され、テーブルには散乱した資料。長時間睨めっこしていたハズの資料作成は全然進んでいない。
あー……疲れている。思っていた以上に。
遙はよく人のことをみているので、こうした些細な変化も感じ取り上手いこと気付かせてくれる。
『早く寝ろよ?』
そっと耳元で囁かれた声を思い返し、今自分に必要なのは休息と癒しだなと痛感する。
そうだと分かれば手早くテーブルの上を片付けて、ささっとシャワーを浴びて寝室に向かった。
寝たかな? と思いながら遙を跨いで奥側のいつものスペースに潜り込めばモゾモゾと動く気配がする。
「まだ寝てなかったのか?」
「すぐ来るなら待とうと思って」
待ってた。と擦り寄ってくる姿が猫の甘える仕草に似ていて可愛らしい。
「もう無理できる歳じゃないだろ? ちゃんと休め」
「……はい」
30過ぎてからホント無理できなくなっていると、自分自身感じていたことなので素直に返事をすれば、答えに満足したのか俺の胸に頭を預けて幸せそうに微笑む。敵わねぇなぁーー
「遙」
「なんだ?」
そっと頭を撫でて、額にキスをする。愛してるなんて小っ恥ずかしくて言えないので代わりにとキスで誤魔化す。
「おやすみ」
言わなくても察したのか、お返しにと頬にキスされる。
「おやすみなさい」
その日は朝までぐっすりと眠り、心身共に充電できた俺は小一時間で昨日行き詰まっていた仕事を片付けることができた。
遙も、帰宅するなり今日は調子が良くいいタイムで泳げたと嬉しそうに報告をしてくれた。
一緒に眠るのが俺たちには疲れを取る一番の方法なのかもしれない。