ケダモノは追熟した魅惑の果実の虜になる 合宿も終わり、都内まで貸切バスで帰路につく。バスに乗り込む前に昨夜の選手が俺を見るなり何か言いたげに青ざめた顔で口をパクパクさせていたが、コーチが近づいて何か話した後は何ごともなかったような雰囲気になっていた。
なんだったのだろう? と気にはなったが大したことじゃないかと窓の外をボーっと眺める。それよりもこのあとコーチの家に行くことを思ってソワソワとしてしまう。『目一杯可愛がってやる。泣いても止めないから、覚悟しとけ』と、言われたのを思い出して顔に熱が集まる。
「七瀬、寝れるなら寝ておけよ? あんまり寝れてないだろ」
隣に座る東コーチに言われ、あれこれ考えるより休める時に休んだほうが確かにいいなと思って目を閉じた。バスの心地良い振動もあってすぐに寝入ってしまい、目が覚めた時にはもう東京に着いていた。
「では、合宿お疲れ様でした。解散!」
簡単な挨拶も終わり、それぞれ家路につく。
「とりあえず、何もないから飯は食って帰るぞ。あと買い出し付き合え」
「わかりました」
ひと月近く家をあけていたので当然だよなと思いながらコーチの少し後ろを歩く。
*******
コンコン、と控えめなノック音が響く。律儀なヤツだなと思っていたらそろりと扉が開かれる。
「……失礼、します」
部屋に入ると後ろ手に扉を閉め、俺のほうを見ながらその場に立ち尽くす。身につけているのはさっきまで俺が着ていたワイシャツと下着だけ。