Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    9s86u

    @9s86u

    おはなおいしい

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 😊 🎂 🎉 🌋
    POIPOI 8

    9s86u

    ☆quiet follow

    ミラプト/仕様捏造

    「さあ、ゲームの始まりだ」 過ぎ去るトンネルのライトが窓越しに瞬きしてくる。握っていた手が開き、視界もゆるむ。メトロの中は暖かい。
     辺りで足音が増え始めると、隣に座っていたあいつも席を立った。次の駅で降りる奴らがドア前で待機している。三人一組の部隊が二つ。じっと耳を澄ませると、潜めた吐息がいくつもあった。
     遠くでビーコンが高鳴る。そろそろゲームの時間だ。減速する車内が揺れても、中腰でかまえている彼らはびくともしなかった。
     細やかな音を立て、斜め左にピンが刺される。マップを確認すれば、ビルの屋上だった。ルートを考えながら適当に応答した。ジャンプパッドを投げてくれるなら、他部隊より早く着くだろう。
     別車両から移動してくる奴らがやってきた。どうやら先頭へ向かうらしい。足を踏み鳴らす相手と無言ですれ違う間、味のしない飯を食べてるような気分になる。別の奴らが掠め合う肩と肩に、見ているこっちも息を止めてしまいそうだった。
     このメトロを包む緊張感は何度感じたって慣れない。それでも居場所も正体も知られて逃げ回っていた時よりはマシだと、今はそう思える。
     ふいに軽く肩を叩かれ顔を上げれば、いつも口煩いあいつがニッと意味深に笑う。いつの間にか呑気に座っているのは俺だけになっていた。
     ――おい、どうした? ちょっと寝てくか?
     からかい混じりの投げかけに睨み上げると、あいつが声を潜めて笑った。そうこうしているうちにメトロは目的地に到着した。もういい、あれは無視だ。
     ドアが開く瞬間がもどかしい。エリアに向かうまで戦闘は無効だが、後になれば生存確率は低くなる。先に行った部隊が周辺で待ち伏せしていることもあるからだ。
     そして開き始めたドアを容易にすり抜けて行ったのは、ハイになった味方の男だった。異国の言葉をまくし立てながら一目散に走っていく。静かなホームに響く奇声はドラッグパーティーの始まりかと呆れるくらい愉快だ。
     後を追って階段を駆け上がれば、横を走っていた敵部隊の女は目の前で消えた。うっすらと光の軌道が先を走る。後ろからは地鳴りのような足音が追ってきた。
     牽制もかねてドローンのハックを飛ばすと、丁度グラップルを伸ばしながら宙を舞う青いマーヴィンが映った。天井まで高度を上げて敵を追い越し、外の様子をマッピングする。目的のビルに向かう部隊はいなさそうだ。
     味方に情報を共有し、手近な遮蔽物に滑り込んだ。右端で物資を漁る部隊が見える。こちらを索敵するような奴はいなさそうだ。しゃがんだままハックを操作し、周りの様子を伺いながら味方と合流するルートを考える。
     逆側から回り込もうと動き出した瞬間、敵のスキャンにかかった。しまった……どこかに別部隊が潜んでいたのか。
     上空に銃声が響く。旋回させたハックの視界にスコープで狙いをつける狩人が映った。壊される前に呼び戻し、俺は隣の建物へ逃げ込んだ。
     発砲音を聞きつけたのか、先行していた男がこっちに向かってくるのをマップで確認する。
     彼ならすぐ合流できるだろう。
     俺は二階へ駆け上がって窓の端から外を覗き込んだ。すぐに狙ってくる気はなさそうだ。
     ……そう言えば、あいつはどこにいったんだ?
     再びハックを空へ飛ばしながらあいつの位置を見た。どうやら同じ建物にいるらしい。一階から登ってきた時にはすれ違わなかったが、先に屋上へ登っていたのだろう。
     丁度、俺をスキャンしたであろう別部隊の位置にあいつがピンを刺した。ああ、二部隊に挟まれているな。ハックを撃ち落とされないよう建物の陰に移動させた。
     すると、屋上にいるあいつが向かってくる味方の方にマガジンを放った。グレネードも投げたらしい。物騒な音が立て続けに響く中、援護を受けた男がジャンプパッドを設置し、屋上に跳んで合流したようだ。

     すぐにジャンプパッドを破壊しているであろう銃声が鳴り、敵のスキャンも入る。目まぐるしい様子をよそに、二階で物資を漁り終えた俺は屋上へ向かった。
     男の陽気な叫びと共に撃ち合いが始まっている。敵部隊の一つは反対の建物から窓越しに狙ってきており、もう一部隊は男が走ってきた地上からこの建物へ攻めようとしている。下から来られると厄介だ。反対の建物にいる部隊は後回しにして、地上部隊を抑えたい。
     陰に隠れてハックの視界に移ると、向かってくる地上部隊を確認する。その間あいつが別部隊のいる窓に向かってマガジンで牽制し、ドラッグの切れた男は大人しく地べたにしゃがみ、削れたアーマーを回復していた。
     俺はこの建物に入ってくる時を狙ってEMPを放った。それが合図となり、再び興奮剤を身体に打ち込んだ男が階段を降りて行く。
     敵も爆撃を展開し、屋上から引きずり下ろそうとしてくる。まだ視界が空にいた俺は誰かに襟首を掴まれ、無理やり階段下に引きずり込まれた。
     急なことでコンクリートに尻を打ちながら、すぐにハックを呼び戻す。銃を構えて視界を切り替えれば、暑苦しいあいつの顔面が広がっていた。
     舌打ちして銃を下げ、階段隅で覆い被されている体勢を怪訝に思っていると、あいつの背中越しから向こうに立つデコイが見えた。どうやら本体で俺を隠そうとしていたらしい。
     ――グッドモーニング、ダーリン! ……ああ、いいって。礼は要らねぇよ。
     そう言って歯を見せて笑う様子に無性に腹が立つ。俺を放っておいてさっさと撃ち合いに向かえと、説教したくなる気持ちを必死に呑み込んだ。
     ここで悠長に会話している暇はない。今もハイになった男が敵を撹乱して走り回っている。隣の建物から別部隊が向かってくるだろう。さらに別部隊が来るかもしれない。早く援護に向かって制圧しなければ。
     だから無意味だと分かっていても味方への格闘を使い、あいつを突き飛ばして立ち上がった。目を丸くして呆けた姿を鼻で笑えば、少しは気分も良くなる。
     ――準備しろ。敵がいるぞ。
     ――ったく……あのなぁ、今オレがそれを言うところだったんだ。同じこと考えてたんだぜ?
     無視して背を向け、銃を構え直しながら撃ち合いの最中に駆けつける。なんだかんだ言っていたあいつもスライディングしながら横に並び、大量のデコイを放った。……さて、戦闘開始だ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👍🌋🌋🌋🌋🌋🌋🍌
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works