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    sika_um

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    sika_um

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    友人に捧ぐゴフシ

    ある種、不幸中の幸いというか、何というか。急転直下の厄介事は、皆が不在の際に訪れた。
    「伏黒くんには誠に、大変申し訳ないのですが…!」
    「なに、いぢち。オレのお守りがまるで罰ゲームみたいな言い草じゃん」
    「ヒッ…!決してそんなことは!」
     かつて、自身の身寄りとなってくれた大人がいた。五条悟という男は、でかい図体をしているが言動は子供じみていて、食べ物の好き嫌いがそこそこ多くて、布団で寝ろと叱っても頑なにこたつで寝ていたり。満を持して立派!とは決して言い難い大人だけれど、幼かった津美紀と自分をここまで見守っていてくれた恩人である。
    「ねえ、君がめぐみ?」
     何かの間違いだと何度も言い聞かせたが、言い訳できないほどざわつく心根を叩いて壊すことができないまま、この歳まで変わらない恋心を抱えてやってきた。要するに、伏黒恵の初恋で、想い人でもある。
    「あれ、聞こえてる?おーい」
    「聞こえてま、す」
     その彼が、今はでかい図体や大人とは形容し難いサイズ感で眼前に立っていた。キラキラで眩しい髪は短く揃えられていて、瑞々しい肌が惜しげもなく人目に晒されている。大人の彼も大概綺麗を地でいく人だったが、本来知り得ない、写真ですら見たことのない彼の子供時代の姿だと言われてもイマイチピンときていない自分がいた。しかし、見紛うことの無い呪力と尊大さは、この世界を探したってこの人だけだと知っている。故に、認めざるを得なかった。
    「五条さん」
    「うへ、苗字でよばないでよ。うちの家みーんな五条さんだよ?」
    「…悟、さん。…なんですね」
    「最初からそう言ってるじゃんっ」
     後見人の彼を、たとえ幼い姿とはいえ呼び捨てにするのは憚られる。見た目年齢に応じて君付け、というのも何だか違う気がした。
    「話はいぢちからきいてるよ。大人のオレの教え子で、付き合いが長いんだってさ」
    「詳しくはキミツジコウってやつで言えないらしい。でもこの調子なら戻るのに時間はかからないよ」
    「だから、ほんの少し。めぐみの世話になってあげるね?」
     
     
     伊地知さんが言うには、数日前からこの姿で居るらしい。なんでも、ナニソレ面白そう!と首を突っ込んだ任務先で、帰りの車に帰還した時には既にこの幼い姿で現れたのだとか。
     表向きには急な地方出張で、という事になっている。あの五条悟が呪いを受けて身動きが取れない状況で、尚且つその理由が面白半分だなんて口が裂けても公表出来ないのだろう。伊地知さんはいつもの二倍ほど顔色が優れない様子で、伏黒の元を後にした。
     事前にスケジュールされていた五条さん案件などの調整や、各位への謝罪行脚に忙しい伊地知さんは本日、京都校まで出向く用があり五条さん(小)の世話に手が回らず、本当に申し訳なさそうに彼は五条さん(小)を置いていった。
     
    「めぐみ、あーんしてあけげるね」
    「俺は、甘いもの好きじゃないですよ」
    「ふうん。…はい、あーん!」
    「聞いてますか、俺の話」
     五、六歳の子供の姿で先生は、好きな人がはしゃいでいる。妙な気分だ、本来知りえない部分を先生の許可なしに触れてしまっているのではないだろうか。あれで線引きは溝が深い方で、自分の話はからきしなのだ。勝手に彼の幼少期に介入しているみたいで、悪いことをしている気にさえなる。落ち着かない。
    「むずかしい顔っ」
    「んむ、」
     スプーンいっぱいの生クリーム盛りいちごが口に突っ込まれる。渋々咀嚼すれば、年相応の嬉しそうな顔で笑う。そうしていると、可憐そのものだというのにすることは悪魔の所業だ。生クリームなんて、久方ぶりに食べた。
     高専に居てはまずい、ならば先生のセーフハウスのどこかしらを使わせてもらおう。そう思い至って必要最低限のものと五条さん(小)の腕を引いて郊外から近郊へと出てきたのは数時間前のこと。
     あれが気になる、これが見たいと振り回される事になるのは夢にも思ってもみなかった。大人の彼より冷たい喋りをする少年だったので、てっきり元の姿に戻るまで身を潜める算段で、しかし幼い姿故に一人きりにする訳にも行かないので自分が選ばれたのだと。移動中静かにしていたのは、ブラフだったのか。
     歩き疲れて腰を据えて座るために入ったファミレスで、頼んだのはドリンクバーと季節限定特大パフェ。先程も食べ歩きを散々したのにまだ入るのか。高専を出てから今日一日、微笑ましい視線はもはや麻痺する程度には浴びていたので、特には気にならなかった。
     この姿になってから、こうやって伊地知さんも引き回されたのだろうか。彼の多忙さは、学生の自分達の想像を絶するとよく聞く。学生時代からの五条さん直属の後輩であり有能さから腕を買われ、今では対五条さん人員の要である。さっき顔を見た時も、酷い顔色だったことを思い出す。
    「伊地知さんを、あまり困らせちゃだめですよ」
    「めぐみはオレよりいじちのほうが好きなの?」
    「伊地知さんが倒れたら、悟さんだって困るんですよ」
    「めぐみは困ってる?」
    「?」
    「めぐみは、めぐみの五条さんがいなくなって、困ってる?」
     昔から、長いこと来ない事もあれば毎日晩飯を囲む日もあった。思い起こしてみても、困った事など思い当たらず。要は、絶対に帰ってくるのだ、あの人は。どんなに遅れたって、ごめんの一言も言わずに「待った?」とそれだけ。
    「困ってないですよ、別に」
    「なんか嬉しそうだね、めぐみ」
    「嬉しい……?」
     不満そうに膨らむ真白な頬に健康的な朱色が滲む。
    「大人のオレ、いないのが嬉しい?」
    「それは……ない、です」
    「ほんとうかな〜」
    「本当ですよ」
     高専に入ってから、後見人としてより先生として接する機会が殆どを占めている。五条さんは五条先生になって、生徒は自分一人ではなくて。昔は嫌でも一番に頼らなければいけない大人だったけれど、今は何だか距離が増えたみたいで一番に頼るのすら困難で。改めて、とんでもない人なのだと思い知らされる。
    「クリーム、ついてます」
    「……とって!」
    「はい。……とれましたよ」
    「…………ありがと」
    「どういたしまして。……ねえ、悟さん。それ食べたら、次はどこに行きたいですか?」
     欲が出てしまった。こんな刹那の間でも、貴方をひとりじめする機会はもう先には来ないかもしれない。ならば、今は、感情とかしがらみとか全部捨て置いて。五条悟をひとりじめしたって、バチは当たらないのでは無いだろうか。
    「どういうかぜのふきまわし?さっきもう帰ろって言ってたのに」
    「…………いつものあんたは多忙なんです、こんな時くらい目いっぱい好きなことしてほしいなって、思っただけです」
    「ソレ、大人のオレに言った?」
    「ないですよ、そんな事、…正面から言える可愛げなんて、俺には」
    「ふうん。なら、大人のオレには言えないもの貰ってあげようじゃん。他は?なんかある?」
     ある。大いに。貴方が好きで、困らせちゃいけないのに困らせたくて。触って欲しくて、たまには外食ではなく、昔みたいに家でご飯が食べたい。
    「……後のは、ちゃんと、自分から。……大人の五条さんに言います」
    「ほんと?」
    「はい」
     小さな指に素早く絡め取られた自身の 小指は、軽快な歌声と共に揺すられた。
    「指切りげん♪まん嘘ついたら​───────、」




    「めぐみってば信じられないくらい可愛いんだけど。親の顔が見てみた…………おっほん!ねえ、ちゃんと聞いてるのいじちぃ」
     時刻は夕方。ファミレスを出たあとは恵と夕飯の買い物をして、都内に複数あるセーフハウスのうち比較的生活感のあるマンションの一つをセレクトした。子供の相手をする、見守るという慣れない出来事で普段使わない神経を使ったのか恵はソファで深い眠りについていた。可愛い子供にブランケットをかけて……やるのにも一苦労だ、この小さな身体は。
     もう小一時間は眠らせてやりたい。しかし、五条は暇を持て余す。この問題の解決方法として手っ取り早いのは、話し相手を作ること。おそらく出張先で胃を痛めているよく出来た後輩が乾いたと肯定を繰り返すばかりになってきたので、仕方なく五条の手ずからこの通話に終わりを設けた。優しい先輩を持ったな、伊地知。
     小さな手では持て余すスマホを置いて、リビングに戻る。もうそろそろ夕飯の支度を始めなければ腹の虫が鳴いてしまう。
    「……ごじょ、さん……?」
     可愛い起き抜けの表情は、親心以外のもっと奥深くをくすぐる。
     恵が自身を好いてくれていること、それを隠そうとしていること。自身も少なからず、親愛以上に目の前の子供に執着していること。
     全てを踏まえると、何も隔たりはないように思える。紛うことなきルート分岐、ハッピーエンド。…しかし恵の気持ちの芽は根の深いらしく、そう簡単に事が進むとも思えなかった。彼の気持ちを暴くだけではダメだ、引きずり出すのもギリギリダメ。そもそも、成人するまでは手を下さないと無けなしの良心に誓ったのだ。
     でも、言葉で聞きたかった。ずるいかもしれないが、自分だけ安心したかった。子供の姿になったのことたまたまで恵に預けられるとも思ってもみなかったが、これはチャンスだと踏んで散々甘えたし、本音に探りを入れた。
    「楽しみにしてるよ、恵。ちゃ〜んと、言うんだもんね。約束、したからね…♪」
     嘘ついたら、針千本。…その方がましだと思うくらい手酷く外堀を埋められていくのは、またいつか、近い将来のお話である。
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    sika_um

    DONE現プロゲーマーに(腕前的な意味で)目付けられてるけどお友達になれて嬉しいグレイくんと気が気じゃなくて年相応が垣間見えるビリーくんのビリグレ。
    Everything to me! ここ最近ビリーの心中は摩擦を起こしヒリついていた。新しく覚えたマジックを見せたくてしょうがないのに、忙しそうにしている父は忙しそうにしていて。遠慮を覚えるような、焦燥に駆られるような。そういった久しい感覚に近いのかもしれない。
     しかし父ではなく恋人相手、素直に本人にぶつけるわけにもいかない為、言葉の矛先がふよふよと彷徨う。如何せん、当の彼に非はない、責めるわけにはいかないのだ。
     とある昼下がり、ビリーはいつもの様にSNSをチェックしていた。いつの時代も炎上は付き物だ、グレイの事も気を付けて見ているようにしているのは火種や厄介事の芽に目を光らせていて損は無いから。決して恋人に粘着するファンを炙り出すわけじゃない。そんな彼の投稿といえば、頻繁に行われる訳ではなく、偶に載せたと思えばゲームの攻略だったり、切り抜いたゲームのプレイ動画だったり。返信等は同業者のみだが、記の動画見たさに登録している人はやや多め。文句なし、円満な公式SNS運営と言えるだろう。
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