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    2wano_a

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    2wano_a

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    大王も小さく、なれ〜!と思って書きたい部分を目一杯書いてます。まだ2人が友達前提で書きました。興奮のまま書いたので拙い部分は目を瞑って貰えれば幸いです。

    ##SVSSS
    ##漠尚

    漠尚の短くて小さい休みある日いつものように安定峰から帰ってきた時の事だった。
    いつも何かしらの気配を感じる(大体大王が居る)自室が余りにも静かだったのだ。
    「大王、帰りましたよ…」
    呼びかけても返事がない。安定峰の峰主と大王の補佐という現世でなら考えられないダブルワークを行っている尚清華は本日峰主としての仕事にかかりきりで、くたくたに帰ってきたのにも関わらずいつも居る彼が居ないことに困惑していた。
    (今日は予算会議の日だから遅くなると伝えていたけれど)
    寝たのか?それならそれでいいんだけど…と湯浴みをすべく部屋に入るとある違和感に気付いた。
    「…」
    寝台の上に丸まった布団の塊があり、それは息を立てるように動いていたのだった。
    (猫か猿か?どちらにせよ紛れ込んだのが野生の生き物となると大王怒るだろうな…)
    観察していてもなにも始まらない。
    とりあえず中を開いてみるかと手を伸ばすと頭の中に懐かしい電子音が鳴り響いた。
    『再見!systemはサブクエスト:童唄を受注しました!』
    「サブクエスト?!」
    本編の補完も瓜兄が終わらせたこの物語に置いてまだ自分が忘れている空白があったのだろうか?
    いや忘れていない部分の方が少ない為自信を持ってないとはいえない。が、そこに自分の働きが必要とは思っていなかった。
    『是、このクエストは条件達成後自動的に消滅し、ポイントが付与されます。条件は下記のようになります
    【協力人物:漠北君 クエスト達成条件:Secret 2日後の日没まで】』
    「達成条件という1番大事な部分が隠れているじゃないか…」
    大王となにかをやる必要があるらしい。
    まずは本人と合流しなければならないだろう。
    『否定 達成条件の1つは既に目の前にあります
    GOOD LUCK!』
    「おい!」
    そういうとsystemは消えてしまった。
    突然来て突然押し付け、突然消える…本当に厄介だ。
    (目の前?)
    しかし目の前といっても獣かなにか知らないが丸くなった布団が存在するだけだ。
    「まさか!」
    ガバリと布団を剥ぐとそこには大王ーーもとい漠北君らしき幼い子供が横たわっていた。



    漆黒の髪に気の強そうな目、そして額の紋章、いつもより何もかも短い手足、これは間違いなく大王らしかった。
    布団を剥ぎ取られ視界が明るくなった影響か布団にくるまっていた大王が目を覚ます。
    「おい帰っ…」
    自分の姿をそこで初めて確認したらしい。
    大王、私に睨まれても私にはどうする事も出来ません…。
    「これはなんだ」
    「あ〜う〜んなんでしょうね」
    幼くなった彼の額により眉間のシワが深くなる。
    「折角小さくなってシワが消えたんですから睨まないでくださいませんでしょうか…あ」
    そういえば、瓜兄が以前上司の上司にあたる混世魔王様が走火入魔して小さくなったと言っていた。きっかけはsystemの起こした事といえ、今回の出来事はそれにあたるんじゃあないだろうか。
    「それはいつ終わるんだ」
    こんこんと怒らせないように少しづつ事情を説明するとわかってくれた。流石俺の大王、漠北君。愛しています!
    「いつとは決まってなかったようですけど数ヶ月もすれば元に戻るんじゃないかと」
    これは嘘だ。
    systemのいう条件を満たさない限りきっとそのままになるだろうが、まあ流石にそこまで長くかからないものだと信じたい。
    「何を考えている」
    「いえ!これからどうしようかと!
    直近は色々片付けましたからしばらくゆっくり出来ると思いますが」
    「…お前もゆっくり出来るのか」
    「え?ええ、暫くはどちらの仕事も落ち着いていますし…いや〜色々終わったあとで良かったです本当に」
    これが大会の時期や冬などだったら本当に大変な事になっていただろう。業務的な意味で。
    「そうか」
    安心したのかこくりこくりと小さな頭が船を漕いでいる。そういえば今は俺と出会った頃より大分幼いし、寝ている所を起こしている形だったのだ。
    ましてや今は丑の刻から虎の刻に切り変わろうとしている。起きて座っているのも辛いだろう。
    (凜光君に置き去りにされた年齢ってこれくらいだったのだろうか)
    「おやすみなさい大王」
    最近はずっと寝台を共にしていたけれども、今日は別が良いだろう。
    何時ぞやのように椅子の上で寝ながら夜を過ごした。



    端的に言うと小さい漠北君と過ごすのは楽しかった。
    漠北君は魔界のNo2、魔界にいく訳にもいかないし、俺の家に居てもお仕事が急に舞い込んできそうだ、ということで人界にやって来ていた。
    (沈清秋ともあろうものが大きい屋敷なんて買うから目立つんだよな)
    同じ二の轍は踏まない。
    安定峰でもよく使う宿を長めに借り、店主には『とある商家のご子息と魔物から受けた傷の療養の為に来ている』といい話を通しておいた。
    「大王、山査子飴食べますか?」
    「要らん」
    そんなこんなで悠々自適にのんびりとした日々を2人で送っている。systemの条件が掴めない為、なにか起きないかフラグを立てるために今日は市場を回ってみようと提案したのだった。
    「甘いものは好かん」
    (大王、甘いもの好きじゃないけど熱いものはもっと苦手だからな…)
    屋台と言えば熱いものを熱いうちにが鉄則のものが多い。大王も宴の時はいくつか食べてたし食べられなくはないだろうがあんまり好き好んで食べたい訳ではないだろう。
    「はいはい、そうだちょっと待っててくださいね」
    今の大王くらいの子供が大きな大人と半分に分け合って食べていた。たしかにあれなら大王も食べれるんじゃなかろうか。
    手頃な大きさの大根餅を買い、ふたつに分け、ふぅふぅと湯気の経つ餅を冷ましていく。
    「どうぞ多分もう大丈夫だと思います」
    俺が食べるにはちょっと冷ましすぎたそれを大王はゆっくりと口に含むと良い頃合いだったのか無言で食べ進めていく。
    「うまい」
    「もうひとつ食べていいですよ」
    頷くと俺から貰ったもうひとつを大事そうに抱えながら食べ進めていく。
    いつもの姿だって悪くは無いしむしろ良いのだが、小さい彼はいつもと変わらないのに妙な感覚を覚えていた。
    (もし俺に弟がいたらこんなかんじだったんだろうか)
    正直大王が精神まで昔に戻っていなくて良かったと思う。この年頃の人間とどう接すれば良いのか上手くできるのかわからないし、そういった経験がないからだ。
    だから自分より幼い人間は少々苦手である。
    ただ尚清華として、そして安定峰で過ごし始めてからは少しだけ苦手意識は減ったように思える。
    自分の部下というか弟子達も居るし、何より各所の有望な弟子だって接する機会がある。
    ただ自分の上司が幼い姿で自分に接されたら誰だってどうしていいかわからないと思う。
    「眠い」
    「帰りましょうか」
    今日も今日とて条件はわからない。
    よいせ、と彼を背負って借宿へと向かう。
    (俺の漠北君をこんな小さくしやがって)
    早く大きい彼と隣を歩きたい。
    殴って欲しくなどないし、小さい彼は素直で可愛いとも思うが、それは私の友人ではないからだ。

    「大王〜起きてください下ろしますよ〜」
    ゆさゆさと彼を揺さぶる。
    最近はこういう事が多い。直ぐには背中から降りてくれずその代わりしっかとしがみついてくるのだ。
    「起きている」
    「なら降りてくださいよ…」
    眠いのか彼にも制御出来ないらしい幼子のすねたみたいな声が左耳から聞こえてくる。
    別に無理やり下ろしても良いのだがあとが怖い。
    それに変なところにぶつけたり落としたりしたら事だ。揺さぶり続けると寝てくれるし。
    (ただ今日は俺も疲れたんだよな〜)
    「しょうがない、じゃあ俺も寝ます」
    「!」
    寝台の上に大王ごと寝転ぶ。顔は見えないが、驚いている様子なのが伝わってくる。が、今日ばかりはすぐ寝たい。ようは寝れれば良いのだ。
    「おい」
    「寝台から落と…せはしないでしょうが我慢してください」
    ゆっくりと彼を支えてた手を移動させ腕枕のようなスタイルを取る。
    「おやすみなさい大王」
    彼の髪を梳くように撫でると気持ちが良いのか少しずつ目を瞑っていく気配を感じる。
    今日は彼から伝わってくる冷気がちょうどよく感じた。

    ピンと痺れた腕の痛みで目が覚めた。あれからずっと同じ体制だったようだ。
    (腕の中に居たのは可愛い女の子ではない世界一かっこいい俺の息子だけれど、この体制って結構キツいんだな)
    今の恋する乙女ではない混世魔王によく作中にてさせていたのだが表現を改めた方が良いのかもしれない。
    「大王?」
    ふと目覚めると自分と共にいるはずの幼子が見当たらない。寝台の上にはおらず、もう既に起きたようだった。
    「大王起きたのなら起こしてくださいよ」
    朝餉でも持ってきてもらったのだろうか。
    (今は何時だろう)
    巳の刻をすぎていなければまあ間に合うかもしれない。そう思って寝台から身を乗り出すとそこには俺と出会った頃の漠北君がいた。
    「遅い」
    「え?!」
    思わずぺたぺたと自分や彼を触り出す。これはいったいどういうことだろう。なんていうか、成長期だとしても魔族と人間では成長速度も変わるのか?いやそんな設定にした覚えはない。
    ごんと頭に衝撃が走った。
    「痛い!」
    「触るな」
    流石に不躾過ぎた、久々に殴られてしまった。
    (だがこれが漠北君だ)
    痛いが懐かしい痛みだ。あの小さい漠北君の甘噛みとは違ういつもの彼のようだった。
    「起きたらこうなっていた」
    なるほど彼が急激に何かをしたりした訳じゃないらしい。
    (システム〜…)
    心の中で駄目元で呼び出す。
    『你好!現在のクエストの進行具合は50% 』
    「お、初めてちゃんと出たな。
    クエストって進行しているのか?」
    『是、現在の進行度は50%です。ポイントを消費してすぐ終わらせることも出来ますが現在のポイント数ですと罰ゲームモードに突入します』
    「却下で」
    『ではsystemはスリープモードへと移行します。御用の際はまたお呼び掛けください』
    罰ゲームモードについては瓜兄から聞いた事がある。
    とにかく大変で恐怖の体験をしたのか凄い形相で教えてくれた。あんな思いは俺もしたくない。
    (しかしsystemをちゃんと呼び出せるなんて…本当に俺の作品に腐女子のファンがついたんだな)
    systemでは読者というかファンの爽快度=(イコール)主人公の爽快度と取られているらしい。けれど今俺が漠北君と過ごした所で洛冰河の爽快度は上がらない、作中にて数々のイベントはあるにしろこんなイベントは書いた覚えがない。ならばファンの爽快度を元に発生したイベントだろうと考えたのだ。
    (俺と漠北君にもいるのかなあ、いるから起こったんだろうな)
    俺たちは友人なのだけど。
    もし俺と漠北君ではなく、単に漠北君のファンへのサービスとしたら申し訳ない。
    「おい」
    「すみません考え事を…もう少ししたら元に戻れるんじゃないかと思います」
    「そうか…そうか」
    少し寂しそうな顔をしたかのように見えたが気の所為だろう。
    腹が減っては戦は出来ぬ。
    とりあえず朝餉というか昼餉を済ますのが先決だろう。



    まだ朝餉の範囲内だったらしい。
    机の上には家僕が運んでくれた2人分の粥とそれから少しの漬物があり食欲をそそる。
    さっぱりとした葱の載った粥を食べながら考える。
    (なんでクエストが進行したんだろう…)
    今考えられる可能性としては2つある。
    1つは時限進行性。
    これは時が進むにつれてクエストが進行し終了するという形式なのではないかと思ったが、これまでからしてそんなことは無い…と思う。
    2つ目は昨日行った行動のどれかがクエスト達成条件のひとつであるということ。
    多分これが1番可能性が高い。
    2人で行ったことといえば大根餅を分け合ったこと、二人で一つの寝台で寝たことだが。
    「大王」
    「ん」
    「どうぞ」
    とりあえず包子を分けてみた。
    「…お前も食え」
    一瞬困惑した顔をしながらも俺が分けた包子を受け取りつつ大皿の俺の側に皿の上にあったどんどん包子を積み上げていく。
    「いや!こんなには要りません!」
    どうやら遠慮していると取られたらしい。
    必要な分だけ取り、残りは大王の前に戻していく。
    (system!進行度は?)
    『進行度は現在50% 加油!』
    分け与える…は違ったのかもしれない。
    とすればあとはひとつ、一緒に寝ることだが。
    ちらりと彼に目をやる。
    漆黒の髪は背中まで伸び、小さかった手足はすらりと伸びて長く、幼く可愛いと言えるだろう顔立ちは骨格が大人になりかけて大きい漠北君を彷彿とさせる。
    (デカい!昨日のようにひとつの寝台で寝るにはちょっとかなり…キツいんじゃないか?)
    「うぉ!」
    うーんと唸っていたら口の中に包子を突っ込まれた。美味しい。
    「食え」
    「ふぁい」
    (そうだ、まだその2つと決まった訳じゃないし市で知らないうちに何かあったのかも)
    残りの包子を口に突っ込み食べ終えた私達は昨日のように市へと向かった。

    「大王あれはご存知ですか」
    「知らん」
    「あれは節句の玩具で清明節に使うものです
    もう並んでいるんですね」
    やんややんやと賑やかな市を通りながら大王と隣を歩く。あれはなんだと質問ばかりされるので先行して案内するようにしてみた。
    (本当にあの頃の大王みたいだ)
    あの頃より殴られる事は少なくなったし、隣にいる大王も落ち着いているけれど。
    「さて結構歩きましたね少しお茶でも飲みましょうか」
    「ああ」
    そして昨日から素直で、大人しい?霊力が少し落ちているからだろうか慎重になっているんだろう。
    「これとこれと…大王月餅は食べますか」
    「お前が食え」
    「はい、じゃあ以上で」
    そして俺に食べ物を食べさせたがる。
    (俺も金丹は結構練っているから一応食べなくてもいいんだけど)
    魔族は食べさせたがりなのかもしれない。
    なんだか友人のいる放課後ってこんな感じだったんだろうか。俺が彼を大切に、というか友人のような何なのかわからない隣にいたい感情を自覚してからこういうのは初めてなので落ち着かない。
    人間はいつだって欠けてた部分にいきなり詰め込まれると混乱するのだ。
    愛情でも、友情でも、それ以外でも。
    「美味しいお茶ですね」
    「もっと頼んだらどうだ」
    「いやこれぐらいで十分ですよ、ありがとうございます」
    「そうか」
    うーん友達ってこれで良いのかな。
    「お前はもっと大きくなれ」
    「·····」
    前言撤回、まだ大王的に手のかかるペットなのかもしれない。
    「大王、恐れながら私は仙士ですのでこれ以上大きくは····」
    「そんなに小さいのにか」
    「大王から見れば誰でも小さいですよ」
    (というか俺は平均的だと思う。周りがただ大きすぎるだけだ!)
    そんなこんなで宿の夕餉の時間に間に合わせるため、愛しい息子を脳内で叱りつつ茶屋を後にする事にした。



    「大王、失礼しますね」
    「は?」
    もし条件の1つが共寝だったら。
    それを解決するためには多少強引な手段が必要だと思い、強行突破に出る事にした。
    「古来、何かを抱いて寝るとよく身体の疲れがとれるらしく、今の大王の状況を解決するには一つの手だと思いまして·····どうぞ!」
    ガバリと手を広げて私を抱いてください!の体制に移る。
    正直こういうのは可愛いぬいぐるみや女の子を抱く理由のひとつであって、男なんか抱いても癒されはしないと思うが、まあ共寝するにしても何かしら理由が必要だろう。
    (ただ寝ようとしたら邪魔だと言われて蹴飛ばされるかもしれないし)
    「抱く」
    「はい」
    「お前を私が」
    「ここには大王と私しか居ませんからね」
    おお、凄く眉間が寄っている。やはり男なんか抱くのは魔王様じゃあるまいしやはり抵抗があるんだろう。ただ本当に拒否する時は殴られているが今は特にその様子も無いため、あと一手で聞いてくれるのではないだろうか。
    「それは服を着てするのか」
    「それは·····勿論そうでしょう」
    「なるほど·····そうか」
    (俺の可愛い息子はどうしたんだ?!)
    突然裸になった方が良いのか?なんて聞いてくるから目を落とすかと思った。もしかしたら魔族では何かそういうしきたりでもあるんだろうか。
    『一緒に寝たら夫婦にならなければいけない』みたいな。
    ちょっと俺が書きそうな設定ではあるが漠北君関連でそういった設定を書いた覚えはない。それにそんな設定があったら最初の最初でそう言われるんじゃないだろうか。
    何度か深くため息をついたかと思うと横になりポンポンと手招きをされた、了承してくれたらしい。
    「では失礼しますね」
    行き場のなくなった手は下ろしつつ、大王の傍に向かう。うーん顔がいい。
    寝転ぶと腕を頭の下に回してくれた。おお枕を奪われていたのに枕をして貰うことになろうとは、お父さん涙が出てくるよ。
    「ありがとうございます大王」
    「調子にのるな」
    「あいた」
    大王の暴力の基準はやはりわからない。
    殴るのが難しかったからだろうか、鼻を掴まれてしまった。
    ひんやりとした冷気が目の前の大きな胸板から伝わってくるので布団を少しだけ間に挟むことにした。大きくなった分冷え具合が上がっているらしい。
    「おい」
    「すみませんちょっと寒くって」
    そういうと少し冷気が弱まった気がする。冷気を吸ってくれてるらしい。
    (本当に、優しくなった)
    まだ暴力はたまにあるけれど、それも以前に比べたら全然優しいものだ。
    ありがとうございます、と伝えるともう寝ろと子供に促すように頭を撫でられる。
    (俺にはその記憶はないけど、子供というのは親に寝かしつけられるものらしいからね)
    なんだか俺が父親なのに大王の方が父親みたいだ。
    それとも兄がいたらこんな感じだったんだろうか。
    「誰がお前の兄だ」
    OMG、口に出してたらしい。
    「私が大王を哥哥なんて呼ぶわけないじゃないですか気の所為だと思います」
    「·····」
    目線が刺さる。悪手だ。
    今日は距離が近いから大王の目線がかなり直接伝わってきて、どんな時も顔がいいことに反応すれば良いのか、それとも一瞬の気も抜けなさに固まれば良いのかわからない。
    「お前に兄は居ないのか」
    「そうですね、師兄達はいらっしゃいますし、師弟もおりますが血縁ということでしたら私一人です」
    「お前が帰ろうとしていた場所も」
    「·····いませんね」
    親だって居ないのとほとんど同じだった。
    下や上がいたら少しは変わったんだろうか、と思うけれど今ではもう過去の事だ。
    「寂しいか」
    今日はどうしたことだろう。彼は本当に漠北君でしょうか。
    (もしかしてまた俺が離れると思われてる?)
    それなら納得がいく。弱くなった事でまた離れていくんじゃないかと不安なのかもしれない。
    そんなことはしませんと伝えたいけど、杞憂だったら恥ずかしいので大王の腰に腕を回す。
    「寂しくはもうありません」
    貴方が居てくれるから、とまでは恥ずかしくて口に出せなかった。尚清華にだって捨てれない恥はあるのだ。
    (だって寝台の上でそこまでいったらピロートークみたいじゃないか!)
    「お前が」
    「はい」
    「お前がまた帰りたくなったら、そこに俺がいけば良い」
    「·····」
    今彼から顔が見えなくて良かったと心底思った、なぜなら自分の顔がどうなってるかなんて考えたくないからだ。こんな事が嬉しいなんて伝わってしまったら、まるで彼に告白するみたいだ。
    「でも大王みたいな怖い哥哥、連れていけませんよ」
    べしりと後頭部を叩かれうるさいと一言発すると本格的に寝たいらしい、漠北君がうつらうつらとし始めた。
    「息子なら、連れていくのか?」
    脳内にここ数日間の姿でランドセルを背負った漠北君が映像として流れ出す。なんて似合わないんだろう!おかしくなって思わず吹き出してしまった。
    「あはは!いやそうですね、大王は私の自慢の息子ですから·····」
    以前息子と言ったことを覚えていたらしい。笑われるなんて思っていなかったのか、機嫌が悪いのか良いのか言ったからな、と強めの口調で言われながらわしゃわしゃと頭を掴まれる。
    頭を乱暴にされたのが不快のはずなのになんだか心地よくて、忘れるなよ、と優しく言われたのが夢なのか俺の願望なのかはわからないが、心地よい感覚に包まれながら意識を落としてしまった。

    翌朝やはり共寝が条件だったのか大王の霊力も体もすっかり元通りになり、systemからも『おめでとうございますヾ(´︶`♡)ノ』のメッセージが届いていた。(顔文字がムカついた)
    「おい食べるぞ」
    「はい大王!」
    宿の人間が用意してくれた朝餉を食べ、また新しい1日が始まる。
    (昨日は伝えられなかったけど)
    いつかはきちんと以前よりしっかりと伝えたい。
    あんな冷たい家に彼を連れていくことは出来ないし、するつもりもない。
    もう“尚清華“としての人生を歩むと決めたのだから、何があっても離れることはないと。
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