【五歌】白絹の蝶【硝歌】結んで開いて結んで開いて。
ぬばたまの黒髪の上で、白い蝶が羽ばたく。
普段はハーフアップに髪をまとめている白絹のリボンは、今は蛇の如く有機的にうねり、襟から覗く生白いうなじから器用に髪を持ち上げポニーテールを作り、かと思えば一房だけ掬い取り、するすると巻きつき綺麗な編みこみを生み出していく。
童謡の歌詞のように手を打ちまた結べば、それは柏手(かしわで)を打ち印を結ぶのと同じく、術式や儀式めいた行為ではないかと、歌姫の傷の処置をしながら家入硝子は思った。
髪を弄ばれているのは誰よりも慕う先輩で、欲しいままにしているのは同期のクズの片割れだった。鼻歌まじりに上機嫌で、大きな手指で直接触れずに髪いじりを行っている。どれだけ繊細で精密な作業なのだろうかと解剖も手掛ける医師としては感心しなくもない。が、医務室という自分の領域内で、敬愛する先輩が目の前で不必要に絡まれているのは正直気分が良いものでは無い。
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