金欠①
「……ガルドが無い」
ぼそり、と誰かが呟いた。
ベルベットは俯きがちだった顔を上げる。誰だ、そんなわかりきったことを言ったのは。
残念ながら、旅というのはあらゆる意味でお金がかかる。突然始まったベルベットたちの旅は、当然持ち合わせなどほとんどない。
──故に、いつもギリギリである。
「……ロクロウ。今ガルドのことを言ったのは、アンタ?」
ギロリ、と音が出そうなほど強く睨みつければ、ロクロウは両手を上げて降参のポーズをする。
「悪い悪い。だが、金がないのは事実だろう? なぁ、ライフィセット」
「……お金、ない」
話を振られたライフィセットは、表情を変えずにぽそりと呟き頷いた。
「……」
事実は事実であり、それ以上でもそれ以下でもない。ベルベットははぁあ、と大きなため息をはくと、さてどうしたものかと考えを巡らせる。
不幸中の幸い(?)、旅を共にする仲間の中に、純粋な人間はいない。眠りが必須ではないというのは、大きなメリットだろう。
「仕方ないわね。今夜は野宿するわよ」
ベルベットの言葉に、二人は否定することなく頷いた。
芽生え①
「……」
初めて出会ったとき、その瞳はぼんやりと空を見つめ、焦点が合っていなかった。
ライフィセット──そう呼んでしまったのは、無意識のうちに彼とラフィを重ねてしまったのだろうか?
ベルベットはじっと命令を待つライフィセットを盗み見て、人知れず嘆息する。
「……ため息」
するとそれに気が付いたライフィセットが、空色の瞳をこちらに向けた。無遠慮な双眸に見つめられて、見透かされているようで居心地が悪い。
「……なんでもないわ。今日はもう休みなさい」
思わず強めの口調で言うと、ライフィセットはこくりと頷いて横になった。
金欠②
「……ベルベット。あまり言いたくはないのですが、旅の資金が心許なくありませんか?」
エレノアの言葉に、ベルベットはひくりと頬を引きつらせた。
「そうじゃそうじゃ〜〜! 儂の玉のようなお肌が、野宿続きでボロボロじゃよ〜〜!」
マギルゥがそれに同意して大げさに崩れ落ちる。いつものこととはいえ、魔女の言動は相変わらずベルベットをイラつかせる。
「仕方ないでしょう。食材と武器で手一杯なんだから」
いつの間にか大所帯になったベルベット一行は、旅を続けるだけでもそれなりにお金がかかる。それに加えて武器の調達となると、どうしても経費がかさんでしまう。どうやりくりしても減る一方の路銀は、いつでも火の車だ。
「──そうじゃ! マギルゥ奇術団で巡業するのはどうじゃろう? ぽっぽー、とな!」
鳩の鳴き真似をしながらそんなことを言うマギルゥに、ベルベットはギロリと鋭い視線を向ける。
「イ・ヤ・よ! やりたいなら、一人で勝手にやりなさい!」
おお怖! と仰け反るマギルゥを尻目に、ベルベットは深くなる眉間のシワを撫でた。