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    輝薫 (昔書いたやつ再掲

    #輝薫

    お互いもういい大人なので、交友関係をわざわざ問いただしたりだとか、そういうことはしない。
    付き合い始めた時のルールでもなく、単にお互いへの気遣い。暗黙の了解のように染みついたそれを、相手に押し付けることはしないつもりだったし、これまでもしてこなかった。
    だって実際にそんなことを自分がされたらうっとうしいと思ってしまう。その嫉妬が可愛いだとか、そんなことを思うような年ではなくなってしまったのだ。

    ――だからこそ、この状況を作り出した自分があまりにも大人げなさ過ぎて笑えてきてしまう。

    ほろ酔いで帰ってきた桜庭のスマフォを取り上げた。怒鳴り声が飛んでくる前に唇を塞いで、知らない匂いがついたコートをその場に捨てた。いくらしたものなんだろう。それすらも知らないけど、見慣れたブランドのロゴが悲しく玄関に落ちた。
    「っ、てんどうッ…!」
    息継ぎの合間に苛立った声が聞こえる。ああそりゃそうだろう、こんなこといきなりされたら誰だって腹立たしくなる。アラサーのいい大人が、年甲斐もなく感情をむき出しにして、まるで高校生みたいな嫉妬で恋人を玄関で襲う?ああ大人げない。そんなことを、ちらりと頭によぎって理性が返ってくる。
    今日は別に月夜じゃない。満月の夜に狼になるなんて、そんなお伽話みたいなこと信じちゃいない。
    「はは、遅かったな。どっかで倒れてんじゃないかと思って心配したぜ」
    笑いながらそれでも桜庭のスマフォは自分の手の中にあった。呆気にとられた桜庭を玄関に残して、コートをもってそのままリビングへと向かう。
    コト、とやたら大きな音を立ててスマートフォンを机に置く。怒りのままに向かってきた桜庭に向かって、腕を広げると、そのまま胸倉を掴まれてすごまれた。
    「この季節に外から帰ってきた人間にうがいもせずに抱き着くやつがあるか。ウイルスが感染したらどうする」
    「おお、そりゃそうだ。もろもろ含めて、悪かった」
    からからと場にそぐわない笑いは乾いて部屋に落ちていく。暗くなった部屋で、輝はただ力なく笑って、近寄ってきた薫の冷たい頬を撫でた。
    「それで?手洗いうがいが終わったら、もういいか?」
    「……まったく。くだらない感傷の詫びもなしか」
    一瞬だけ、薫のスマフォの画面に光が灯る。「今日はありがとうございました」と書かれた、知らない交友関係に蓋をするように、輝はそれを伏せた。
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