零敬酒の匂いと、退廃的なネオン、まとわりついてくる香水に、蓮巳敬人は眉を顰めた。店内は以前の店舗の居抜きだと聞いていたけれど、内装によってここまで変わるものだろうか。紫に彩られた空間で煽るウィスキーは、なんだか狐に化かされたような味がする。
「随分と顰めっ面をしておるのう、おにいさん? こういうのは好きじゃないかえ?」
敬人のそんな表情などお構いなしに、隣に座った男は笑う。赤い瞳に、浮世離れした雰囲気を纏う男は、この店のキャストだという。手にしたワイングラスを揺らして、敬人を隣から覗き込んできた。
「……度し難い。好きだという方が少数だと思うが」
「随分と素直な子じゃのう? 好きな奴が一定数おるから、我輩たちも仕事ができているのじゃけど」
5388