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    たまいお

    #たまいお
    spirit

    真夜中に抜け出そうとした環に一織が声を掛ける。眼鏡をかけたまま、カーディガンを羽織ってきた彼は、課題が終わらないので眠気覚ましのコーヒーが欲しいと言ってきた。 

     珍しい話だ。環は何か奇妙なものでも見た、とでもいうようにぽかん、と口を開けた。

    「いおりん珍しいね」

    「深夜徘徊ならお付き合いしますと言っているんですよ」

     そのまま玄関に向かう一織はどこかふらふらと不安定な歩き方をしていた。危ういその肩に環は思わず手を絡ませていた。

     まるで、恋人のように肩を抱き寄せる格好になる。一織から拒絶の言葉が出るのかと思いきや、彼はふふ、と笑いながら「四葉さん、近いですよ」というだけだ。

     その言葉に、環のほうが照れてしまった。ぱっと手を離してそんなんじゃねーし、というと一人でサンダルを履く。

    「さて、行きましょうか」

    「いおりん、ふりょーだ。ふりょー」

    「あなたも同罪でしょう」

     違いますか?と言われては環は言葉をなくしてしまった。



     コンビニまではゆっくりと歩いて5分程度のところだ。夏が近づいた空は澄んでいて、星もいつもよりもきれいに映る。

     人通りのない通りは酔っ払いが時折ふらふらと千鳥足で歩くだけだ。環と一織がアイドルだということも、今この夜の中ではそんなに重大なことじゃないような気がした。

     一織は珍しく上機嫌だった。環の深夜徘徊を咎めることもなく、ただ付き合ってほしいと夜の散歩に連れ出してきた。どういう風の吹き回しだろうか、と内心環は気が気ではない。

    「いい夜ですね、四葉さん。涼しくてよかった」

    「おー」

    「昼間はもう暑いですから」

    こうやって歩いていると自分たちがアイドルだということを忘れてしまう。昼間括っていた髪の毛は解かれて環のうなじにすうっと夜風が通り抜けていく。

    「もうすぐ一年ですね」

     コンビニの明かりが見えてきた、というときに急に一織はそんなことを言い出した。変わらない表情で、一言だけ、ぽつん、と。アイドルじゃない時間を過ごしていた環にはそれが何を示しているか一瞬わからなかった。

    「あ、ああ、そーだな」

    「今忘れていたでしょう」

    「忘れてない」

    「忘れてましたよ」

    「わすれてねえよ!」

     そんな顔をしていましたから、と笑う一織は、どこか楽しげだ。

     環は知ってる。

     一織がどれだけアイドリッシュセブンというものに思い入れがあるのか。どれだけ自分たちを輝かせることに必死であるのか。

     こんな時間まで、課題をやっていたわけがない。だって一織だったらそんなのすぐに終わってしまう。きっと、自分にはわからないくらいのアイドリッシュセブンについてのなんやかんやをやっていたんだろう。

     アイドルじゃない時間も、アイドルをしていて、アイドルについて考える一織が、環は心配だった。

    「いおりん、あのさ…」

    「なんでしょう」

    「…あの」

    それ以上、遠くに行かないでくれよ

    そんな言葉は喉元で消えていく。だってあんなに楽しそうな一織はめったに見れなくて、こんな風に一緒に並んで歩くことだって珍しくって、いわゆるデレ期ってやつで。

    ――自分のあいまいな言葉で、彼を傷つけたくない。

    だから環はその言葉をぐっと飲みこむ。

    「……そーちゃんとヤマさんには内緒だぞ」

    「癪ですがそうしましょう」

    初めての内緒の夜。それはきっと一織が出したSOSだったのだと環の胸はちくりと痛んだ。
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