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    ジョーチェリ(+ぽい) / SK∞

    #ジョーチェリ
    giocelli

    イタリアから戻ってきて店を構えた頃、同じようにアイツも地元に戻ってきたと聞いた。なんでも、AIを取り入れた革新的な書道とかなんとか。地元の発展に貢献したいと涼やかに言っていたあの男は、ピアスもすっかり塞がって、高校時代のアルバムなんて流出させようもんなら大騒ぎになりそうだった。
    会いたくなくても、因縁というのは繋がっている。廃鉱山で行われる『S』のレースには当然のような俺もアイツも名を連ねていた。
    「Cherry blossomだぁ?」
    どのツラが吠えてんだ、と訝しげな俺の言葉に無機質なAI音声が答える。桜の日本語訳です。そんなことを聞きたいんじゃぁない。
    「貴様こそ、なんだJoeって。どこまでゴリラかぶれなんだ」
    「うるせぇな、お前よりマシだろ」
    海外では南城という名前は呼ばれづらかった。虎次郎なんてもっとだ。結果、ジョー、という名前だけがピックアップされてしまった。別に名前になんか意味はない。なんだっていいだろう薫、と言えばすぐに彼から回し蹴りが飛んでくる。
    「ここでは本名を名乗るなと言ったはずだが」
    知ってるっつーの。ケツを抑えながらチッ、と吐き捨てる。そりゃお前、他ならぬアイツがそうしたいっていうなら、薫は従うんだろう。

    愛抱夢。
    あの男が作った楽園の中にいるときだけ、俺たちは現世を忘れてしまえる。



    closeの看板を出したあとに入ってくる客を客と呼ぶべきなんだろうか。問いかけを散々したところで意味はなかった。100回問うても101回同じような返事が返ってくる。「充電が切れたんだ」だ。
    『S』帰りの薫が飲むのは白ワインだ。どうせ俺がまた送っていくことになるんだろう。タクシーなんて気の利いたものはそうそう走ってない。ドロドロになった体でシャワーを浴びて、当たり前のようにカウンターに座る薫の傍には、いつのまにか差し込まれた『カーラ』の充電器。コイツも疲れて食事をご所望、ってか。つくづく勝手なやつだ。
    「ムキになるなんて珍しいじゃないか」
    ありもので作ったサラダとスープ。それと生ハムとチーズ。魚なんて上等なものを出してはやりたくない。フォークで突く姿を見る傍らでグラスを吹けば、薫は鼻で笑い飛ばした。
    「愛抱夢を迎え撃つために俺以外を玉座に座らせてたまるか」
    「お前なぁ」
    かつて袂を分かった友人の名を語りながら、饒舌に酒を勧める薫の目には、多分目の前の酒すらも入っていない。彼の作った楽園から、彼は去っていった。満たされない、自分の半身を求めて彷徨う姿はまるで亡霊だ。時々、薫が見ているのはその亡霊なんじゃないかと思う時すらある。
    「充電終わったら帰れよ」
    「言われなくてもそのつもりだ」
    いつもの会話に入り込んでくるAIのカーラは、この店に来ているときには黙ったままだった。充電中なんだ、と言い訳がましくいう薫の言葉を俺は賛同する。コイツがいうならそうなんだろう。
    愛抱夢がアメリカへ飛んで1番寂しかったのは、一人だと思ってしまったの多分薫だ。
    眩しいくらいの憧れだった彼の存在が、薫にとってどれほど輝かしいものだったかいうべくもない。
    作り主が放置して、無法地帯になった楽園を馬鹿みたいに守り続ける。愛情が憎しみに形を変えて、それでも強く焦がれ続けている。不器用で面倒くさい男だ。プライドを崩して寂しいということすらできないのだから、本当に我が幼馴染ながら、面倒くさい。 
    杯を重ねるうちにどうせ寝るんだろう。そのままうちに泊める気はないので、頃合いを見てつまみ出さなければ。
    店内の掃除をするふりしてカーラの充電量を見に行けば、そこには48%の文字。どんだけ充電かかるんだよ、と思いながら振り向けば、後悔に満ちたように深々と首を垂れる薫がいる。
    「つうかこれフル充電まで何時間かかるんだよ」
    「7時間で124km走行だ」
    「電気自動車かよ」
    一晩中いるつもりかよ、と顰めた顔に返ってくる言葉なんてない。無言で差し出されたグラスに注ぐ酒は、林檎酒なんかどうだろう。
    楽園からお前を追放してやれたらいいのに、と思っても俺は自分のテリトリーからもコイツを追い出せないでいるのだ。
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