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    ceasarchan_jc

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    7/24じゃがバター会場で無配したお話です。

    大病院跡継ぎの御曹司外科医五さん×製薬会社MRの七
    製薬会社のMRは、枕営業あるし、それが有名な製薬会社もあるし、就活中にその情報は入るよ。MRの営業はえぐいよと、仕事絡みで聞いて五七で妄想せずにはいられず勢いで書いた代物です。
    またも枕営業ですが、本にした「七海が枕営業する話」とはまったく別のお話となります。

    #五七
    Gonana

    「転ばぬ先の」MRとは医療関係者へ営業をする、製薬会社などの者だ。
     大学は、国立の薬学部に入学した。薬剤師の国家資格も無事に取得し、さて卒業後はどうしようか。
     薬剤師の資格を取得しているのだから、薬剤師として働くのも良い。だが、薬剤師は今の時代には、あまり先行きが明るくいとは言えない。医療業界もAI化が進み、いずれ薬剤師は不要になるだろうと、そう言われてもいる。今ですら、働き口にあぶれている薬剤師は多い。
     なるべく早くに稼げるだけ稼いで、出来れば三十代で引退し、物価の安い国で悠々自適に暮らしたい。それならやはり、薬剤師より営業だ。MRだろう。
     外資系の製薬会社のMRなら、成績トップを取れば特別ボーナスが海外旅行という話も聞く。MRの営業はお金も掛かるが、リターンも大きい。上手くすれば、念願の早期リタイアも早々に叶うだろう。
     そんな理由で、七海はMRを希望して、大手製薬会社へと就職を決めた。
     そしてMRには、枕営業も珍しくはない。
    就活中に先輩たちからの情報交換では、「あそこは枕あるからね」などと、聞かされたりもする。その製薬会社に採用されるのは「それっぽい人が採用されるんだよね」とか、その会社に内定を貰ったと聞くと「ああ、枕するのかな」という風に見てしまうなどと聞かされたが、それっぽいというのがどういうことなのか。あまり理解したいものではない。
     七海が就職した会社は、その「枕あるよ」と聞かされた会社である。だが、立派な成人男性である七海の場合は、枕営業などあるはずもなく、ならばどういう営業をするかといえばとにかく金だ。
     だがその分の報酬も高く、外資系と引けを取らない。それならばと志望してみたところ、幸運なことに内定も出て入社となり希望したMRとなった。
     そんなわけで、今七海は都内でも有数の大病院の、ある医師の部屋の黒皮のソファーに座っている。一医師にしてはやけに部屋が広く、部屋に置いてあるものも安っぽいスチールのキャビネットなどではなく、やけに立派な木製の本棚だ。
    「で、この薬を開発中なのね」
     目の前のソファーに悠然と座っているのは、その大病院の跡継ぎである御曹司の五条悟だった。
    「そうです。こちらの開発も進んでおり、承認の手続きにもう少しで入ることも出来るかと思いますので」
     渡した数枚の資料を手に、五条がふうんとページを捲っていく。
     五条悟は大病院の御曹司であり、外科医としての腕も数々の極めて難しい手術を、見事に成功させてきた実績がある。大臣クラスの議員も、患者として何人も受け持っているほどだ。
     七海はといえば、ただの製薬会社の一営業に過ぎない。製薬会社としては、それなりに大きく名のしれた会社ではあるが、七海は一社員に過ぎない。本来ならば、御曹司で有名外科医の先生など、そうそう会ってはもらえない。七海も異動した先輩から引き継ぎ、何度も足を運んではいるが、医師である先生方には相手にもされない日が続いていた。
     それがなぜか、今日は五条が会うという。他の五条の下の医師ですら相手にはされずにいたのに、なぜ五条が七海と会おうと思ったのかは分からない。だが、五条は病院の跡継ぎだ。院長の御子息である。又とないチャンスではある。これほどの大病院と契約を獲れたなら、莫大な金額の契約となる。七海の成績は一躍トップに躍り出るだろう。特別ボーナスも決まるはずだ。絶対に逃すわけにはいかない。
    「弊社としましては、年内にも承認の手続きを始める予定でおり、開発も順調です。こちらの薬は副作用も抑えられますし、従来のものよりは高齢者へのリスクも低くなります」
     だからと言って、事を急げば仕損じる。焦ってはならない。己に言い聞かせながら、薬の説明をしていく。
    「そうなの。でも別の会社でも似たようなのやってるよね」
     それはそうだ。製薬会社は国内だけでも、いくつもある。どのような薬が、強く求められているのか。収益をより大きく得られる薬は。そう考えていけば、ある程度は同じような薬の開発に行きついてしまう。
    「そうですね。他の会社でも開発されていると、私も聞いています」
     だが他社も開発しているからと、手を引くわけにはいかない。他社を蹴落とし、何がなんでも契約を勝ち取らねば、海外での悠々自適な隠居生活の未来もない。
    「ならさあ、おまえは何をしてくれるわけ?」
     やはりそう来るかと、用意しておいた提案をするために一度息を吐く。
    「他でもない五条先生のために、一般の人の利用はできない特別な料亭でのお食事をご用意致します」
     予約は数ヶ月先まで取れない、やんごとなき方々御用達の料亭を、数か月前から予約をしておいたのだ。備えあれば憂いなし。予約が無駄になろうと、投資をしなければリターンもない。
    「ふうん。でも僕、お金なら腐るほどあるからなあ」
     内心で舌打ちをする。いっそぼんくらのお坊ちゃまなら簡単だが、五条悟はそこらの御曹司よりも、一癖も二癖もあるようで、その程度なの?と言わんばかりに見下ろしてくる。
     五条悟は家柄も地位も名声も申し分ない上に、嫌味なほどに整いすぎた美貌を持ち、瞬くたびに睫毛がばさっと音を立てそうだ。テレビや雑誌にも、イケメンすぎる医師と出ているのを何度も見たことがある。
    金もある、女性にも困っていない。落としどころのない、一番厄介なタイプだ。
    「でしたら、旅館にしましょうか。都内でも屈指の美しい庭園を誇る旅館があります。女性をお呼びすることもできます」
     それでも何とか繋げられる手はないかと、提案をしてみる。そういう仕事の女性でも、もちろんそれなりに金を積まなければ呼べない女性を呼ぶつもりだ。契約さえ獲ることができたなら、それも安いものだ。
    「女性ね……そういう相手にも困ってないし」
     あっさりと五条が言い放つと、資料をソファーの前に置かれたガラス製のテーブルに放る。ソファーに背を預けて、こちらを楽しそうに見る。
    「……先生なら、そうでしょう……」
     金にも女性にも靡かないのなら、他にどの手を使えるか。思考を巡らせる。考えなければ、契約は獲れない。
    「おまえは?」
     不意に、五条が問いかけてくる。
    「は? 私が何を……」
    「おまえはどうなのって言ってるの」
    「どうとは……何が・・・・・・」
     五条の意図が、まったく見えない。五条は先ほどと変わらない。優位の立場を確信した顔で、悠然と七海を見返す。
    「女性じゃなくて、おまえが僕と寝るなら考えてもいいよ」
     寝る? 寝るとは布団で男と寝てどうするのか……と考えて、MRで寝ると言われたら枕に決まっているじゃないか。だが・・・・・・と考える。当たり前だが、七海は男だ。成人した男だ。なのに枕営業など、求めるものだろうか。あるいはただの嫌がらせか。
    「いえ・・・・・・私は男ですので、素晴らしい女性をお呼びします……」
     五条が何を意図しているのか、探るように五条を見たまま返答をする。
    「だから女はいいよ」
     僕が女に困っているとでも思うの?と、七海の声を遮り、五条が言う。
    「そういうわけでは……」
     女性に飽きたとでも言うのか。だからといって、男に走るというのもどうなのか。どう言えばこの場を切り抜け、かつ契約への繋がりを保持できるか。思考を巡らせるか、こんな展開は、予想もしていなかった。
    「おまえが、僕に抱かれる気があるかどうかってこと」
    「それは……」
    「契約は、七海しだいだよ」
     契約は欲しい。何が何でも欲しい。今までも寝てまでも契約を獲ることを選んだ女性を、悪い女だと思ったことはない。それが強制されたものではないのなら、それは彼女たちの選んだことだ。
    だがこうして同じ立場に立たされ、ようやく分かる。彼女たちがどれだけの覚悟を持って、契約を獲ってきたのか。そして、それがどれほどの屈辱を伴うのか。
     膝の上でぐっと拳を握る。
    「それなら、私は引き取らせていただきます」
     これを七海が飲めば、他の者も同じような立場に追いやられてしまうかもしれない。そのために苦しむ者も、いるかもしれない。こんな反吐の出るやり方を、継承するわけにはいかない。
    海外での生活が遠くなろうと、折れるわけにはいかなかった。
     これで五条から契約を獲ることは、諦めるしかないだろう。世の中、そうそう上手い話があるはずもない。心の中で自嘲をする。自分が甘かったのだと言うしかない。
    せめて、暇乞いの挨拶だけはきちんとしようと腰を上げる。
    「やっぱり、やーめた」
     突然の五条の声に、驚いて上げかけた腰が止まる。五条は足も投げ出し、頭を掻いてあーとかうーとか何か唸ってため息をついている。
    「もう七海さあ、それずるいよね」
    「……は? ずるいとは……」
     意味が分からない。先ほどまでと、五条の口調も表情も変わった気もしている。今はどこか子供のようでもあった。
    「契約のためなら寝るって言うなら、その程度かって思えたのにさあ!」
     頬を膨らませて、拗ねたように言う。本当にまるで子供だ。先ほどまでの、悠然と構えて見返してきたのは何だったのか。どちらが本当の五条悟なのか。
    「もちろん七海はそういう男じゃないだろうとは、僕も思っていたけどね」
     でもさあ、ずるいよねとまだ言い募る。何がずるいのかまったく分からない。
    「あの……何をおっしゃっているのか……」
    「だってさあ、あんなにきっぱり拒絶してくるんだもん。惚れるしかないよね」
    「……惚れる……?」
     拒絶したことを怒っている様子はないが、何を言いたいのかが見えてこない。空回りする思考を、必死に巡らせるが五条の意図がまったく読めない。
    「だから! 七海、僕と付き合ってよ」
    「付き合う? それはどこへ……」
    「違うよ。恋人になろうってこと」
    「恋人・・・・・・?」
     聞いたことのない言葉を聞いたかのような違和感に、ただ五条の言葉を繰り返してしまう。口の中で嚙み砕いてみる。恋人・・・・・・?それは主に、異性と恋愛関係を持つということだったはず。
    「誰と誰がですか?」
    「僕と七海しか、ここにはいないけど」
    「それは……私と五条先生が恋人に……ということでしょうか?」
    「それ以外にないでしょう」
    「なぜ?」
    「僕が、七海を大好きになったから」
     ふーっと深く息を吐く。おかしい。何かがおかしい。ここまで来た目的は何だったのか。
    「私はあなたと恋愛話をするために、ここまで来たのではありません」
    「僕はそのつもりで、七海と会ったんだけど」
    「……そうですか……」
     契約など五条にはどうでも良かったのかと思うと、ふつふつと腹も立ってくる。契約を獲るために、MRの者たちがどれだけの犠牲を払っているのか。
    「七海は恋人いるの? 結婚はしていないよね」
    「……恋人はいませんが……」
    「なら問題ないよね」
     嬉しそうに五条が言う。七海に恋人がいないからと、なぜ五条の恋人になることが当たり前のように思うのか。
    「問題がないわけがないでしょう! 私はあなたとそうなるつもりはありません」
     きっぱりと言い放つ。これで契約はなくなろうと、それでいい。格は下がるとしても、病院は他にもいくらでもある。
    「どうして?」
    「……どうしって……当然でしょう」
    「どうして当然なの?」
    「それは……」
     五条が立ち上がり、七海の座るソファーの隣に座る。五条の重みで、ソファーが沈む。
    「病院の中でさ、七海を見たんだ」
    「私を……?」
     営業に何度もこの病院には訪れていた。ほとんどの医師に相手にはされなかったが、それでも足を運ぶことが大事であり、病院のことを知ることもできる。だから何度も何度も訪れていた。
    「患者の子供が泣いててさ、七海は困ったような顔をしながら屈んで子供の声を聞いてあげてた」
     そんな日もあったかと、記憶を探る。突然スーツのジャケットの裾を小さな手に掴まれ、見ればまだ七海の膝を超すくらいの背の幼い子供が泣きじゃくっていた。どうしたらよいかと、泣きじゃくる子供にどうしたんですかと話かけていると、看護師さんが来てくれた。程なくして、子供は看護師さんと一緒に、入院する病室へと向かっていった。
    「患者で、しかも子供なんて相手したところで何にも利益になんてならないのに、七海はずっとその子供に寄り添ってあげてたんだよね」
     嬉しそうな顔で、五条が話す。まるでその子供が、自分でもあるかのようだ。
    「だから、僕の側にいてほしいなって思った」
     なんてことはない。子供が泣いていれば、誰でも手は差し出すだろう。七海だけが、そうしたわけではない。
     膝に置いた七海の手に、五条の手が重なる。大きな手の温もりが、七海の手を包む。
    「だから七海と話したいと思って会ったけど、話したらますます七海が欲しくなっちゃった」
     愛しそうに五条が七海を見る。待ってくれと、思考は叫ぶが言葉が出ない。こんな展開は予想できるはずもない。思考が追いつかない。
    「待って……待ってください……いきなりそう言われても……」
     混乱した頭で何とか言い募り、五条を見ればやけに顔が近い。
    「なに……っつ……」
     唇に温かいものが重なる。五条に口づけられたのだと分かり、呆然とする。唇を濡れた舌で舐められ、痺れるような感覚に身体の力が抜ける。
    「七海……七海だ……」
     ごめん我慢できない……と、囁く五条の声が聞こえた。貪るように口腔にも五条の舌が入り、舌を捕まえられ散々に吸われ、耳元も指で撫でられる。唾液があふれて口元を濡らしても、五条の舌は出ていかない。
    「……ご……じょ・・・・・・せ・・・・・・っう…・・・」
     どちらのものかも分からない唾液を飲みこまされ、唇が離れたのはそれだけ経ってからか。
    「七海・・・・・・やっぱり我慢できない・・・・・・僕の恋人になって」
     唾液で口元を濡らし、部屋の蛍光灯が反射する。それでも懇願するように言う五条の顔は、見惚れるほどに美しい。
    どうしてこうなったのかと遠くなりそうな意識で、五条の濡れた唇を眺める。ひどく淫靡だ。そう思ってしまう自分に驚愕する。
     果たしてこれで五条と寝たとしたら、それも枕営業となるのだろうか。あまりの馬鹿馬鹿しさに、ため息を吐く。海外での生活は、遠くなったのだろうか。
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