夜風がしゅうしゅうと鳴く。
ざわめく木々の声と重なり、物悲しさが重なって虚しさを呼ぶ。
さて、啾啾と泣くのは、この世ならざる者たちだったであろうか。
それは、昔、何処かで読んだ詩集の一節だったか。
果てた後は、どうにも一抹の寂しさが纏わりつく。
妙に頭がクリアなのに、何も考えたくない怠惰にゆるりとまどろむ。
生産性のない行為を繰り返すかのような虚しさは下腹部にまとうだるさよりも頭に重くのしかかる。
確かな現実を掴みたくて、縋るように名前を呼ぶ。
心の命綱のようでもあるのに、それは、きっと本当の名前ではなくて。
それでも一縷の望みのように、その名、自ら名乗ったという意味では、真実の名を。
「じょーかー…」
体力差があるせいか、彼はいつだって事の後に、ぐったりと四肢をだらしなく投げだす僕とは真逆に確りとした所作で煙草に火をつける。
耳聡く、消え入りそうな微かな呼び声にも、振り返ってあえかに微笑む。
それはもう、身も世もないほど、強か揺さぶられた身体はあちこち悲鳴をあげるのに、その表情だけで、そんな些細な泣き言などどうでもよくなってしまう。
その顔を見ると、なんだかとても気持ちが安らいで、泥のように夜の底にしずみ眠りをただひたすらにむさぼることに堕ちてゆく。
(了)