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    ailout2

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    ailout2

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    アルダシアとの決着
    ※暴力表現と軽く無理やり描写有り

    #WT

    テッドと新居を構えてからしばらく経った。
    改めて一緒に住む事になり、お互いを思い合う身に余る程の幸せな時間を過ごしていた。

    以前暮らしていた廃船から部屋を移したのはいくつか理由があったが、一番の理由はやはりテッドの身の安全だった。

    ”あの男”─アルダシア・ガラムが姿を消してからもう3か月。
    きっと必ずまた現れる。
    テッドといつも一緒にいられる訳では無い。場所を知られてしまっている廃船に一人にしては置けない。
    奴が現れないうちに、せめて安心できる場所を、と急ぎ用意した部屋だった。

    依頼で帰れない日には必ず愛鳥のアンバーをテッドの側から離れないようにつけていた。
    そう、警戒はしているつもりだった─

    だが遠征の帰路、自分の元にそのアンバーが飛び込んできたのだ。アンバーの足には血に濡れたエメラルドグリーンのピアスがひとつ括り付けられている。

    ─テッドのピアス

    それが意味する事はテッドの身に危険が起きたという事…
    全身の血の気が引く。冷たい衝撃に目の前が真っ白になる。

    アンバーが叱咤する様に甲高い声で一鳴する。
    その声でハッと顔を上げ、瞬間走り出していた。

    急げ

    わざわざこうしてアンバーを無傷で寄越すと言うことは、テッドは生きている。
    そもそもテッドを再び懐柔する事が奴の目的だ、殺すはずが無い…
    そう自分に言い聞かせ走る。

    …しかし本当はそう言いきれない懸念があった。
    奴は俺の事を気に入り面白がっている節があった。
    もし、万が一、奴の目的が俺に刷り変わっていたら…?
    俺の弱点がテッドという事は誰の目から見ても明白だ。

    もし、もしもテッドがこの世界から居なくなってしまったら?
    俺はまたも、愛する人を救えなかったら?
    俺は──

    考えるだけで走る足が縺れそうになる。
    脳裏に過ぎる最悪の事態を振り払い走った。

    どれだけ走ったか、どれだけ時間が経ったかわからない。肩で息をし、見慣れた場所へ辿り着く。

    愛しい新居を、こんなにも恐ろしく感じた事があっただろうか。
    扉を開ける手が一瞬止まる
    ─鍵が空いている
    頭の中を最悪のビジョンが過ぎる。震え出しそうになる手を抑え、警戒しながら扉を開けた。
    部屋の中にアルダシアの姿はない。

    「テッド!」

    叫び部屋を見渡す。
    部屋は荒れ、争ったあと。
    静まり返り返事はない。
    嗅ぎ慣れた血の匂い…

    テッドはベッドに横たわっていた。
    襲い来る眩暈を無視し駆け寄った。

    ゆっくりと胸が上下している。
    ─良かった生きてる

    一瞬の安堵、しかしテッドの四肢は縄で縛られ、裂かれた衣服の間から体のあちこちに痣が見え、耳から頬にかけて血がべっとりとついている。
    アンバーに持ってこさせたピアス…恐らく引きちぎられたのだろう…
    そして、事の跡…白濁で汚れた半身。

    カッと頭に血が上る感覚。震える手を抑え付け、テッドの縄を解き肩をそっと揺する。

    「テッド…!テッド…目を開けてくれ…!」

    はらりとテッドの前髪が落ちる。意識は戻らない。
    出血の具合からしてもかなり時間が経っているはずだ。

    「薬か…」

    微かにテッドの口元から薬品の臭いがした。
    薬物の特定まではいかないが、これは毒ではない。所謂催淫剤の類だろう。
    裏で最近流通しているものには特殊な催淫効果の後1時間ほどで意識を失うものが出回っている噂を聞いた事があった。恐らくその類だろう…

    テッドは助けを求め俺の名を呼んだだろうか、それとも一人で耐え、涙を流しただろうか─
    怒りで頭がどうにかなりそうだった。

    やつが姿をくらましてから3ヶ月。恐らくこの”間”がやつの狙いだった。アルダシアは居なくなったのではない。
    草むらで潜み、眼を光らせ、狩りの時を待っている蛇のように、この時を待っていたのだ。

    間違いなく自分の気の緩みがこの事態を招いた、わかっていたのにテッドを一人にした…
    本当にテッドの安全を思うのならば、信頼出来る仲間の所へ置くべきだった。

    怒り 不甲斐なさ 後悔 懺悔
    いたたまれなくなり柱に拳を打ち付ける。

    (いや、違う、こんなことをしている場合ではない 後悔は後にしろ─)

    手早くテッドの衣服を脱がせ傷の具合を見る。
    素手によるものだろう、骨は無事だ。痣も内臓までは痛めていないだろう。
    傷を手当しながら清潔なタオルで体を綺麗にし着替えさせる。
    縛られた手足は抵抗の跡がみえ、解いたことにより擦り切れた箇所から鮮血が滲んでいる。

    「テッド…すまない…っ」

    未だ意識の戻らないテッドの手は抵抗の残りからか固く握られている。
    その手をそっと包むと何かを握りしめていることに気付いた。
    指を丁寧に解くとくしゃくしゃになった紙。

    『それが済んだらアンカーヤードに来い』

    紙に書かれた文字を見て、再び眩暈がするほどの怒りに駆られた。
    ”それ”
    あの男は俺がテッドの手当をし、握らせたこの紙を見る事まで予期していた。
    やはり俺を焚き付ける為にテッドを襲ったのだ。俺のせいでテッドはこんな目に…

    相手の思う壷だとわかっているのに感情が制御出来ない。このまま向かった所でアルダシアの良いようにされるだけだ…冷静になれ、テッドを護るためだ、二度と傷付けさせない。今度こそ誓ってみせる。

    冷静になれ、と自分に何度も言い聞かせ、横たわるテッドの手を握りしめ手の甲にキスをする。

    「…行ってくる。」

    もしかしたら、もう二度と会えないかもしれない。
    だが、例えそうなろうとも、もう二度とアルダシアを君に近付けさせはしない。
    愛用の銃にしっかりと弾をこめ部屋を後にした。


    星空を雲が隠し、月明かりが疎らなリムサ・ロミンサの上層甲板を駆け登る。
    今は丁度新生祭の時、賑わうウルダハとは逆にリムサ・ロミンサは人が出払っていてここまで誰ともすれ違うことがなかった。
    これすらもアルダシアの思惑通りなのだろうか。嫌な気配がピリピリする。

    アンカーヤードの屋根のある道を抜けると、翼を広げた像の下にあの男が腰掛けて海を眺めていた。

    この場所を指定したこと、当然偶然ではないのだろう。
    ほんの数ヶ月前…ここで俺は同じように腰掛け、海を眺め、テッドを待ち、そしてテッドに指輪を渡し証明した。
    ─俺はいつでもそばにいる、と

    あまりに愚かだ。何が証明か!
    ここまでの道すがら、いかなる展開も想定し、冷静さを保つよう奮い立たせてきた。
    しかし再び湧き上がる憤りの前に全てが無駄になる。
    アルダシアはどこまでも人の心というものを玩ぶ男だった。

    「ああ!よく来てくれた、思ったより早かったな。」

    当然ながら、奴は冷静さを取り戻す時間をくれはしない。
    アルダシアは影の中佇む俺の姿を見つけ立ち上がると、歓迎するように大袈裟に両手を広げた。

    「なんだ、しけた面だな。意識のないアレで一発抜いてから来ると思っていたよ お前もアレに対して本当は加虐心を抱えているんだろ?どうだ?そそられただろう。」

    安い挑発。だがしっかりと芯を捉えてくる。

    「まぁそう睨むなって色男さんよ。自分の手でイジメられないお前の代わりに、俺からの贈り物のつもりだったんだが…どうやら気に入って貰えなかったようだ。」

    アルダシアはおどけたように肩を竦めた。

    「何が目的だ」

    わかりきった投げ掛けに我ながら吐き気がする。

    アルダシアがにこりと微笑む。
    その顔は素性を知らなければ人当たりの良い青年そのものだった。

    「今更だよディアス君。前も言っただろう?アレは俺の”物”だ。お前は人の”物”に手を出しているんだよ色男。だが、俺も鬼ではない。お前が俺に「飼ってください」、と乞うのであれば許そう。アレに酷い事はもうしない。単純な話だアレを手放すか、俺の所へ来るか。大丈夫、勿論アレも一緒だ。お前と俺で、一緒に可愛がってやろうじゃないか。」

    最初にこの男に対峙した時、この馬鹿げた誘いは跳ね除けた。俺たちはお前に絶対に屈しない、そう啖呵をきった。

    だが今は、今は正直どうしたらテッドを護れるのかわからなくなっていた。
    俺がこの男に降ったところで、テッドも同じように手中に堕ちるだけだ。
    テッドをこのまま護り抜こうとする方がまだマシかもしれない…だが、恐らく二度目は無い。
    今回テッドの命があったこと、これも紙一重だったはずだ。
    奴もそれなりにテッドを気に入っている。
    そうでなければ躊躇わず殺していただろう。

    揺れる俺を見てアルダシアは大きく笑った。

    「いいねぇディアス君!君は随分と素直だ。それで囮捜査をしていたのか?相当相手が間抜けだったようだ。」

    テッド、すまない、
    君を悲しませるかもしれない。
    やはりもう二度と君には会えないようだ…

    「…わかった、俺があんたの”物”になる。だからテッドは自由にしてやってくれ 頼む」

    自由にしてやってくれ─
    以前も口にしたこの言葉。
    この男が首を縦に振るわけが無いのはわかっている。しかしこれしか道がない…敵意がないことを示すように両手の平を見せながらゆっくりとアルダシアへ近付いた。

    アルダシアまであと少しの距離、アルダシアがスっと目を細めた。

    (─バレている)

    そう察した瞬間、腰の後ろに差していた短銃を抜きアルダシアへ向けて躊躇わず撃つ。
    この距離ならば外さない…!

    そう思った瞬間、銃声と共に弾け飛んだのは自分が構えた銃だった。

    「なっ…!?」
    「残念だったなぁディアス!!言っただろう!お前は素直すぎると!」

    発砲した勢いのままアルダシアは一歩駆け出しウェドの腕を捻りあげた。

    「ぐ…っ…!」
    「大丈夫だ。俺を殺そうとした事、テッドには黙っておいてやるよ。」

    最後のチャンスだった。
    刺し違えてでもここでこの男を殺さなくてはいけなかった…だと言うのに、俺は失敗した…いつもならば必ず仕留めていた。
    怒りのせいか、テッドの優しさに触れた時間が長すぎたせいか…いつもならばこんな時にこんな後悔などしない。
    次の一手を真っ先に考え、体が動いていたはずだ。

    だが今の俺は絶望の色で染まっていた。
    捻りあげられた手を解く抗いすらできない。
    これがこの男の力か…テッドはこんな男に長年踏み躙られてきたのかと思うと胸が張り裂けそうになる。
    こんな時なのに、テッドの健気な笑顔が脳裏に浮かぶ。

    「─ウェド!!」

    力強いテッドの声が耳に届いた。
    幻聴かと思った。
    恋しいあまり、声が聞こえたかと思った。

    「ウェドを離せ!!!」

    アルダシアと俺の視線が同じ方を向き、テッドの姿を捉える。

    小柄な体で石畳をしっかりと踏みしめ、弾き飛ばされた俺の銃を握りしめたテッドの姿がそこにはあった。

    「なんだ…お前か。本日はどのようなご要件で?…家でおとなしく寝ていろ。」

    お呼びでないというように心底鬱陶しそうにアルダシアが吐き捨てる。

    「ウェドを、離せ。」
    「なぁテッド、無理はよせ。立っているのがやっとなはずだ。あの薬はそうヤワなもんじゃない。」

    テッドの額には脂汗が浮いている。
    アルダシアの言うことはハッタリではないようだ。

    「テッド…!」
    「ウェド、ごめん、おれ、また駄目だった、またこいつに」
    「違う、俺のせいだ…!すまない、テッド…!」

    アルダシアがくっくっと笑う。

    「美しいねぇこれじゃまるで俺が悪役だ。」

    「アル、俺はもうあんたの物じゃないよ。」
    「…いいや、お前は俺の物だ。」
    「アル、あんたにはもう何もあげない 俺も、ウェドも、全部、何もあげない…!」
    「ほお、ならなんだ?その銃で俺を撃てるっていうのかテッド。兄のように慕った男を殺せるか?」

    アルダシアはテッドが撃てないと確信した様子で動じることなく俺の腕を捻りあげたまま一切の隙を作らなかった。

    しかし、テッドの判断は早く、スっと銃を構え直すと躊躇うことなく一息に引き金を引いた。

    銃声が響き渡る

    放たれた弾丸はウェドの髪を掠めアルダシアの肩口にめり込んだ。

    「ぐ…!お前…!」

    アルダシアはよろめき咄嗟に傷口を抑え、腕を拘束する手が離れた。
    俺はアルダシアを突き放しテッドの元へ走った。
    背中を見せたままなのが危険なのは百も承知だが、今は自身がどうなっても構わなかった。
    衝動のままにテッドを強く抱き締める。
    抱き慣れたすっぽりと覆えるほど小柄な体。
    さらさらと指の間を流れる少し跳ねた髪。
    先程まで二度と会えない事を覚悟していた愛しい人を全身で感じる。

    「ウェド…!」
    「テッド、すまない、よく頑張ったな…!」

    愛しい人がそばにいる、その安堵感で頭が一気にクリアになる。
    バッと振り返りテッドを背に隠す。

    アルダシアは血が溢れる肩口を抑え、冷たい瞳でこちらを見ていた。

    「はぁ、興が冷めるなお前たち。愛の力とでもいうのか?」
    「そうだと言ったら?」

    テッドの手から銃を受け取りアルダシアへ向けて構えた。

    「今度は外さない」

    アルダシアは痛みを感じていないかのように平静で普段と変わりない声色で言った。

    「揃えて手元に置けば面白いと思ったが…見合わないな。ここまでだ。テッド、またお前が独りになったら迎えに行ってやるよ。」

    アルダシアはテッドを見据えたまま足を後ろに蹴りだしアンカーヤードの塀の上から姿を消した。

    「アルダシア!!」

    駆け寄り塀から下を覗き込むと海面に大きな水柱が立つのが見えた。この高さを躊躇いなく飛び込むとは…

    「逃げられたか…!」

    「ウェ、ド、」

    弱々しい声に振り返ると、気を張りつめ薬に抗っていたテッドがその場に倒れ込んだ。

    「テッド!!!」

    慌て駆け寄り抱き起こしテッドの額の脂汗を撫でる。脈が遅い…呼吸が浅く肌が冷たい。

    やっと君は自由になれたというのに─

    「テッド死なないでくれ…俺を一人にしないでくれ…!」

    泣きたくなるのを抑え意識のないテッドを抱き上げ廃船の隠れ家へと急いだ。

    この手の薬は麻薬が使われていることが多い。
    大抵は24時間で抜けるような物だが、無理をしたことで万が一ショック状態になっていたとしたら助からないこともある。

    道すがらリンクパールでカナに連絡を繋ぐ。
    話し出し、自分の声が震えていることに気が付く。

    カナは事態の異常さに即座に気が付き一つ返事で道具を持って廃船へと向かうと言ってくれた。

    しばらく使っていなかった隠れ家のベッドにテッドを寝かせる。変わらず顔色が良くない。
    アルダシアが言うように本当に立っているのがやっと…いや、それ以前に意識を保っているのがやっとだったのだろう。
    テッドの体に薬の耐性が無いことも知っていた。
    気力だけで体を動かしていたはずだ…そこまでさせてしまった己に嫌気がさす。

    「ウェド!来たよ!」

    少し遅れてドタバタとカナが大荷物で入ってきた。
    ベッドに横たわるテッドと力無く座り込む俺をみてカナが息を飲む。

    「ウェドどいて」

    ガラリと目の色が代わりテキパキとテッドの体を確認していく。
    護りたいと思っていた二人の強さをまざまざと感じさせられた。二人とも小柄なのに 俺なんかよりずっと強い。
    座り込んだまま髪をくしゃりと掴む。

    「ウェド!何があったかは後で聞く、落ち込んでる暇はないよ!採ってきて欲しい薬草がある。」

    カナにピシャリと言われ、座り込んでいた自分が改めて情けなくなる。パシッと頬を叩いて立ち上がった。

    「教えてくれ すぐに採ってくる」

    俺は走り出した。
    カナが看てくれるのであればテッドは大丈夫だ、必ず助かる。

    雲が晴れ澄み切った夜空の下。
    テッドが目を覚ましたらなんて言おうか。

    ─愛してる 今度こそ俺が、ずっとそばにいると証明してみせる 自由に一緒にどこまでも飛んでいこう

    愛する人の無事を願掛けるように、この先の愛しい彼との時間に思いを馳せた。
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