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    サリアとウェドさん初邂逅

    #WT

    「こんにちは、お兄さん」

    ふー、と大きく吐き出した煙のカーテンの向こう、一人の女性が小首を傾げこちらに微笑みかけている。
    お気に入りの場所"アンカーヤード"でひとり座り一服していたウェドは煙草の火を消すと女性に一瞥をくれる。
    幼さの残る輪郭にふわりとかかるブルーグレーの髪が陽に透けて白い肌を際立たせている。幼さとは裏腹に表情はどこか大人びた印象を受けた。
    ここら辺では見掛けた事の無い女性だ。

    「やぁ」
    「隣、いいかしら」

    テッドという大切な人が出来、求められるまま誰彼構わず抱くのを止めて以来女性が意味ありげに近付いてくるという事も随分と減ったものだが、旅人やリムサ外の冒険者などウェドの事をよく知らない女性からは今でも度々あることだった。
    慣れたふうにウェドは足を組みかえ女性を隣へ促す。

    「ありがと お兄さんいい男ね」
    「それはどうも」

    以前ならば彼女の美しさを讃える言葉が次いで添えられたものだが最近はそれも控えている。女性が素晴らしき事は何一つ変わっていないが、自分のみならまだしも無駄にテッドにヘイトが向いてはたまったものではない。

    「あたしこの街は初めてなの 良かったら教えてくれないかな」
    「通りで見かけた事ないと思ったよ」
    「ふぅん、詳しいのね」

    他愛のない世間話が少し続く。彼女の口振りから何かを探る様子を感じるも、言い寄ってくる女性は大抵そういうものだった。
    いつだって彼女らの問の核心はこうだ
    "恋人はいるの?"
    すぐに問うてくれれば早いのだが、こういう時間が醍醐味なのだろう。

    「…それで、ウェドは今日はもう暇なの?」
    「いや、今日は」

    半ば上の空で続く会話を返そうとしたが、強い違和感で口を紡ぐ。
    この子、なんで俺の名前を─

    「ああ、あたしだけあんたを知ってるのもフェアじゃないよね。あたしはサリア、よろしくねウェド」

    首をこてんと傾け楽しそうに笑う少女に無性に神経がざわつく。

    「君は…」
    「やっぱりあたしの事、テッドくんから聞いてないんだ。ふふ、海賊に犯されてアンアン喘いじゃって、それどころじゃなかったかな?つまらないの」

    サリアと名乗る無邪気で美しい少女の言葉の意味が脳に届きウェドは全身の毛が逆立つ程の嫌悪感で跳ね飛ぶように少女から距離を取り身構えた。

    「びっくりした!急に立ち上がらないで」
    「君はまさか」
    「あの時のテッドくん、二人も相手にしてたのよ!帝国式の映像記録端末持ってれば貴方にも見せてあげられたんだけど…そうだ、アルダシアに買ってもらおうかな」

    ただただ純粋に、本当にそう思い残念がるように少女は言い同意を求めるようにウェドを見詰める。
    水底がマグマで燃えているような沸々とした憤りでウェドの意識が揺れる。

    「君が、アルダシアの仲間なんだな」
    「そういうこと!貴方ったら全然あたしに興味示さないんだもん。でもやっと素敵な表情見せてくれたね、ウェド」
    「…何が目的だ」
    「あは、テッドくん、って言ったらどうする?」

    ウェドは唇をきつく結び鋭くサリアを睨み付けた。

    「あ〜あ、貴方もアルダシアも、あんな役立たずのゴミのどこがいいの?」
    「それ以上テッドを侮辱するな」
    「ふぅん…」

    サリアはひらりと立ち上がると軽やかな足取りでウェドに詰め寄った。ウェドは構えていたにも関わらず臆することなく飛び込んでくる彼女に間合いを許してしまう。
    サリアの両手のひらがウェドの胸にトンと触れ、飛び込んだ反動のままつま先を伸ばすとウェドの唇に自身の唇を重ねた。ふわりと甘い香りがする。
    触れるだけのものだったが予想もしていなかった行動に振り払う事も出来ず呆気に取られてしまう。

    「案外ウブなのね」
    「…違う」

    サリアは壁にウェドを追いやったまま細く白い指でウェドの内腿を撫でる。


    「……ウェド?」

    聞き慣れた愛しい青年の呼び声でウェドはハッと顔を上げる。テッドとここで間に合わせていたのだ。
    約束の時間より随分早く現れ、走ってきたのか少し息が上がったテッドの姿が一刻も早く愛しい人に逢いたかったと語っている。
    だがそんな逢いたくて仕方の無い愛しい人が女性と抱き合っている光景にテッドの瞳が不安そうに揺れた。

    「あんた、間が悪いっていうの本当だったのね」
    「…なっ、君は!」

    動揺していた意識がやっと女性が何者かを捉えると、テッドを包んだ不安は一瞬にして敵意へと変わり、先日見た忘れもしない少女の顔を睨みつける。

    「あんたのそういう顔はほんとウザイ。何も出来ないくせに。…ウェド、続きはまた今度しましょ!楽しみにしてる」

    少女はもう一度つま先を伸ばすとウェドの頬にチュッ、とキスをし、くるりと向きを変えるとアンカーヤードの低い塀を飛び越えいつかのアルダシアと同じように海へと落ちていった。

    「な……っにあれ!!」
    「テッド…すまん…隙をつかれた…」
    「ウェド!何があったの」
    「彼女が…例のアイツの仲間なんだな」
    「うん…あんな普通の女の子が…俺信じられなくて…」
    「ああ、俺もさ。街の案内を頼まれてね…迂闊だった」
    「特徴話しておけば良かった…まさかリムサに堂々現れるなんて」

    テッドが悔しそうに眉を顰め俯く。

    「それでウェドは…何かされなかった?」
    「ああ、宣戦布告と言ったところかな…煽られたよ」
    「そっか…」

    見るからに落ち込み難しい顔をしているテッドの頬を両手で包み上を向かせるとウェドは優しくテッドの広いおでこにキスをする。

    「大丈夫だ、君は俺が護るよ。」
    「うん、俺もウェドを護る…っ」

    萎んでいたテッドは一瞬でころりと立ち直りニッと笑顔を咲かせる。この笑顔にウェドも幾度となく救われてきた。

    堂々と現れ自ら名乗り、「また今度」と言うからには近いうち必ず現れるだろう。
    その時は彼女ひとりとは限らない…

    去ったはずの嵐が再び目的を持って近付いてきた…来る大時化の予感にウェドはもう次は無いとあの日誓った想いを改めて噛み締めた。
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