何度だって君と恋をしよう痛む傷も粗方癒え、順調に体内のエーテルも安定しカナから動いてもいいよとお許しがおり故郷の島を後にする時が来た。
黒渦団が引き上げたあともカナは島に残り経過を診てくれて居たが、気を使ったのだろう、「僕は先に帰るから明日にでも帰ってきなよ 船は手配してあるからね」とどっさりと塗り薬やら飲み薬を置いて一足先に島を後にしていた。
もう帰ってくることは無いと思っていたこの故郷の島。離れた時は全てを失い独りだった。
だけど今は独りじゃない。
「ウェドー!」
とりあえず数日養生する為に立てられた簡易テントからテッドが顔を出す。
沈みかけた夕日に眩しそうに目を細め白い砂をサクサクと踏み鳴らしながら小柄な影が近付いてくる。
「少し冷えてきたよ」
「ああ」
「海、キラキラしてる。綺麗…ここは本当に良い島だね」
「ふふ、そうだろ?君にそう言って貰えるのは嬉しいな」
「ね、また来ようよ。これが最後になんてしなくてもいいよ」
寄り添うテッドがウェドの大きな手に指を絡める。どうにも離れ難い故郷への思いを見透かされ、優しく暖かい彼の気持ちに胸がきゅう、と締め付けられる。
「ああ、勿論その時も一緒に来てくれるだろ?」
「当然!置いてかないでって約束したもんね!」
夕日に照らされニッと白い歯を覗かせ悪戯っぽく笑うテッドが愛らしく、この光景を瞳に焼き付けてしまえたらいいのにと思った。
「よっ、と!」
「ぅわっ!」
ウェドは繋いだ手を引きテッドの膝裏を掬い抱き抱えた。
「ちょ、ウェド!カナに怒られるよ」
「はは!軽いもんさ!怪我だって君たちのお陰でもう随分と良い 鈍ってるくらいだ」
ウェドはゆっくりと足を進め、波が押しては返す海へと入っていく。
「ウェド!」
「大丈夫、君を離したりしない」
「俺じゃなくて…っ体が冷えるって!」
抱き抱えたテッドのつま先が波に触れるか触れないか程の所でウェドは足を止める。
「君とこの海を…少しでも長く感じていたいんだ。もう少しだけこうさせてくれないか。勿論カナには内緒にしていてくれよ?」
「…ウェドの欲張り」
「はは」
静かな波のさざなみに耳を傾けているとポツリとテッドが波の音に言葉を重ねる。
「俺さ、心ってどこにあるんだろうな、って思う事があったんだ」
「心?」
「うん。体に心なんて部分はないのに頭は好きな人で一杯で、その人を思うと胸は痛くて…何なんだーって思ってたんだ。…でもきっと、心は誰かに寄り添う為にあるんだ。俺の心は、ウェドと一緒だよ。」
テッドの穏やかな翠色の瞳がウェドの青い瞳を真っ直ぐと見詰め射抜く。
「…俺にだって言わせて欲しかっただけ!」
テッドは照れくさそうにすぐに目を逸らし夕日が反射する水面へ視線を落とす。
この沸き起こる感情を表す言葉が見つからなくて、赤く染る無防備な頬にキスをする。くるりと向きを変えテッドを抱き抱えたままテントへと足を向ける。
この腕に存在をしっかりと感じていても、まだ足りない。込み上げる愛おしさは溢れるばかりだ。
濡れた服を乱暴に脱ぎ捨て、二人でひとつの寝台に潜り込む。まだ傷の目立つお互いの体を気遣いながら、更けていく夜と同じ速度でゆっくりと肌を重ねていく。
吐息混じりに名前を呼んで、震える金の睫毛に唇を落とす。甘く揺れる腰を支え熱を沈めていく。
こうして触れるのはいつぶりだろうか。キスですら、随分としていなかった。さぞ寂しい思いをさせていたことだろう。
ひとりの体では持て余してしまう程の溢れる愛おしさも、ふたりなら掬い上げることができるだろう。
何度だって、何度だってこうして君と恋をしよう。