special breakfastなんだか早く起きた朝は、気分が軽い。寝る時間はいつもと変わらないから睡眠時間で言うと短いはずなのに、これが終わったらあれもしようかな、この後これもできるな、みたいな気分になる。昨夜小腹がすいたのをおして寝てしまったこともあり、俺の今日最初の行動は朝食づくりと決まった。ジュニアとディノは朝からランニングに行ったらしく食器立てには既に二枚皿が並べられていた。俺の早起きは、彼らにとっては早起きではないらしい。そのうちキースも起きてくるだろうと、その半乾きの皿を取り出してクロスで拭いた。
まずはバケットを適当な厚さに切る。食べ応えはほしいけどあえて分厚すぎないように。前のオフに、話題になっていたベーカリーで買った全粒粉のバケットは、カットするだけでいいにおいがした。二切れをトースターの中に突っ込んでとりあえず放置、食べる直前に焼き上げたいからまだつまみは回さないでおく。そうしたら冷蔵庫からアボカドを取り出して縦にナイフを入れる。アボカドって不思議な切り方するよなあ、なんてとりとめのないことを考えながら、種の周りにナイフを添わせて実をぐるりと一周し。左右それぞれを手でぐりぐりとずらせば鮮やかなグリーンのお出ましだ。種も皮も取り除いたら、斜めに薄くスライスしていく。
「ん…おはよ、お前今日は早いな。」
「おはようキース、早速だけど卵やってよ。」
「人使いが荒いこって。」
文句は言うけど既に鍋を取り出して水を溜め始めたキースは、俺たちの中でポーチドエックを絶対失敗しないことに定評がある。本人曰く慣れらしいが、キースは肝心なところと人間関係以外は大抵器用なのだ。
キースが作業を進める間に、トースターのタイマーをセットして、冷蔵庫にストックしてあるアイスコーヒーをグラスに注ぐ。キースはブラック、オレはカフェオレに。ガムシロップを入れるときもあるけど、キースといるときはちょっと背伸びしたくてやめておく。キースは俺のカフェオレが徐々に濃い色になっていることに気付いているだろうか。そのうち見ていろよ。そう思いながらテーブルへと運ぶ。
そろそろころ合いだろうかとのぞいたトースターからは香ばしいにおいを醸すきつね色のバケット。完璧だ。キースもお湯の渦から白いまくにつつまれたまろい卵を取り出してさっと冷水にくぐらせる。あつあつのバケットに、スライスしたアボカドとポーチドエッグを順にのせて、ブラックペッパーと塩とマヨネーズ。完璧な朝食、完璧な一日の始まり、そして、普段はなかなか無い俺とキースの朝のゆとり。俺にとってはこれだけで特別。まあ、毎日早起きは勘弁だけど。キースがバケットをほおばって、とろとろの黄身がソースのように滴る。キースは皿の上に落ちたそれにしか目が行ってないみたいだけど口元にも同じ色のしずくがついている。キースが気付いてさっさと拭ってしまう前に俺の親指でぐいとぬぐう。
「なんかついてたか?」
「黄身がね。」
親指についたそれをぺろりと舐めれば、キースがゲッと声をあげる。
「女にするようなことしてんじゃねえよ。」
「馬鹿だな、キースだからするんだよ。」
意味が分かんねえ、とこぼすキースに俺の努力が実るのはまだ先かなとちょっとへこむ。ほら、人間関係に関しては、特に自分に向くプラスの感情に対しては鈍くて不器用だ。
俺がブラックコーヒーを飲める日は、いつだろうか。もしかしたら酒の方が早いかもしれない。
だけど、隣にはずっとキースがいてほしい。