ハロウィンの訪問者「小さい頃、ハロウィンになると父さんが帰ってくると思ってた」
同僚が休みを交換して欲しいとふと湧いて出た休暇に、ブラッドリーはわざわざ僕のハンガーに遊びに来てくれた。彼が行きに買ってきてくれたデリを冷やしておいたビールと一緒に美味しく腹に収めて、少し離した後に船をこぎ始めたブラッドリーをシャワールームに押し込み、少し目が覚めた様子の彼のふわふわな毛をドライヤーで乾かした。温かさと髪を乾かしている時の気持ちよさから、再び眠気に襲われているブラッドリーを先にベッドへと押し込んでから、自分もさっとシャワーをすませて彼の隣にすべり込んだ。
まだ完全に眠っていなかったブラッドリーは、ふと思いついたようにハロウィンの思い出を口にした。幼い頃のブラッドリーは仮装をした人の中に、グースが紛れ込んで自分に会いに来るのではと期待していたようで、その日が終る度に肩を落としていたのをキャロルから聞いていた。
「でもある時に、そんなことは無いんだと気づいて。だからハロウィンはただお菓子を貰う日になったんだけど、あんたがある時に父さんの真似をして家に来てくれたのが嬉しかった」
「うん?」
記憶を辿っている間に、枕に半分顔を埋めたブラッドリーは幸せそうにくふくふと笑いながら、その時の事を思い出している様で
「あんたが大雑把なシーツお化けになってきてくれた時に、ごつい腕時計が見えて、あとは金属がぶつかる音がしたから、きっとあんたのドッグタグの音だってその時思って」
きっと母さん聞いたあんたは、気を使って父さんが来たって俺に思わせたかったんだろ。そう言う彼は夢の波に半分浸かっているようなゆっくりとした口調で、ぽつぽつと話した。
「アイスおじさんは仕事で、忙しかったみたいだから……、きっとマーヴだって、そう、思って。あの後、すぐに家にまた来てくれたし……」
ふにゃふにゃとまた笑うブラッドリーの髪をそっと撫でながら記憶を探る。ブラッドリーを喜ばせるために仮装をしたことはあったけど、はたしてシーツを被ったことはあっただろうか。
「……そのお化けは、何か言ってた?」
何か思いだす為のヒントは無いだろかと、ブラッドリーに聞くと眠そうに
「たぶん、マイボーイって、いってた」
そう言うと、彼は深い息を吐いてついに眠ってしまったようだった。
『マイボーイ』
かつてブラッドリーをそう呼んだ男がいた。震える手でブラッドリーを抱き込んで、浮かぶ涙をふり払うようにぐっと目を瞑る。
「グース、お前はそこにいたのか」
いくら呼び掛けても応えてくれない僕の相棒は、ずっとこの子の傍にいたのかもしれない。きっと、そう。そうだと、良い。