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    さみぱん

    はじめての二次創作

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    さみぱん

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    昨日の月食見てた笹唯ちゃん。
    ただイチャイチャしてましたね。。。

    初出:2021.11.20

    ##笹唯
    #スタオケ

    ビーバームーン【笹塚創】 テラスのベンチに笹塚が座っているのが見えた。日も落ち、冷たい風が吹き始めた時間に一人で何をしているのだろうか。
     もしも録音中だった場合に備え、余計な音が入らないようにそおっとテラスに続く扉を押し開けて覗くと、笹塚は缶コーヒーを片手に空を見上げているだけのようだ。そばに寄ってみると、持っているのはコーヒーではなくココアだったらしく、甘い香りが漂っている。
    「笹塚さん、おかえりなさい」
    「ああ、朝日奈か。ただいま」
    「玄関通ってませんよね? ここで何やってるんですか?」
     笹塚はチラリと一瞥して朝日奈の存在を確認すると、すぐまた空を見上げる姿勢に戻ってしまう。
    「今日ビーバームーンの月食だから」
    「え? ビーバー……⁇」
     聞きなれない単語に朝日奈が頭の上に疑問符を並べていると、いつの間にか振り返ってじっと見てくる笹塚と目が合う。
    「あんたさ。何にでも興味津々なの悪くははないけど、そういうこと誰にでもしてんの?」
    「⁇ どういう意味ですか?」
     意味ありげな笹塚の物言いに、また疑問符が増えてしまった朝日奈がきょとんとした顔で首を傾げるので、笹塚は諦めの混じった盛大なため息を吐くしかなかった。そんな仕草を無自覚でされては、誤解する男どもが大量に出ること間違いない。
    「はぁ…、わからないならいい。それよりあんた。そんな格好で寒くないのか」
     外から帰ってきてコートを着たままの笹塚に対して、ほぼ部屋着のスウェット姿にテラス備え付けのサンダルという朝日奈にとって、このまま居続けるには今の外気温は低すぎると思われる。
    「だって。たまたま通りかかって、ちょっと声かけるだけのつもりだったから。寒いしもう戻りますね」
    「その方がいい。俺はこのまま月食終わるまで見てるから」
    「月食⁈ 今ですか? あーっ、私も見たいです。上着取ってくるんで待っててくださいっ」
     笹塚がテラスにいる理由は月食だと最初に聞いていたはずだ。急にそれを認識し慌て始めた朝日奈を、笹塚が軽く腕を掴んで制止する。
    「一緒に見るならココ、座れば。あと五分くらいで最大になるから部屋戻ってたら見逃す」
     そう言って座るよう指し示したのは、ベンチの隣ではなく、他でもない笹塚の膝の上だった。
    「えっ⁈ やっ…そこはちょっと……」
    「あんた一人くらい入るスペースならあるし。風邪ひいたら困る。ほら早く」
     要するに自分のコートの中に入れるために、膝の上に座れということらしい。距離感のバグった笹塚の言動に慣れてきた朝日奈とはいえ、はいそうですかと座るにはなかなかハードルの高い場所だった。
     笹塚の顔と膝を交互に見ながら口をパクパクさせたまま、躊躇して動こうとしない朝日奈に業を煮やした笹塚が、掴んだままの腕をぐいっと引き寄せた。
    「あっ…ちょっ……と!」
     くるりと回転させて器用に膝の上に着地させると、コートの前身ごろをガバッと被せて朝日奈を包み込む。先程の笹塚の発言通り、コートの中は朝日奈が入っても充分余裕があった。しかし思いのほか顔の距離が近くなってしまったのと、じんわりと体温が伝わってくる場所が密着していることに気づいた朝日奈は、耳まで真っ赤になって目を閉じてしまっている。
    「ははっ。あんた、目瞑ってたら月食見られないんじゃないか」
    「うう…見たいです。見たいけど、さすがにちょっと近すぎますよぉ……」
     薄目を開けてもぞもぞとコートの中で態勢を変えた朝日奈は、笹塚に背を向けるように座り直したところで、やっと月を見上げることができた。
    「わぁ……。もうだいぶ暗くなってますね」
    「…ああ、あれでも皆既食じゃないんだな。確か最大97.8%だって」
     そうやって見ている間にもどんどん月は欠けていく。今回の月食は、ほぼ皆既月食といわれるほど深く欠ける部分月食なので、二人が見上げる夜空には、地球の影になった部分が赤銅色に見える月が浮かんでいた。
     ぬくぬくと包まって居心地がよくなった朝日奈が徐々にもたれかかってくるのを感じて、笹塚の口元が自然と緩んでくる。この態勢のまま腕を組むようにすれば、コートの上からとはいえ、バックハグをしているような状態になりそうだ。
    「ねぇ笹塚さん。さっき言ってたビーバーって何ですか?」
    「ビーバームーン。十一月の満月の事をそう呼ぶ言い方があるんだ」
    「木を齧ってダムをつくる動物、のあのビーバー?」
    「そう。ネイティブアメリカンが冬に着るビーバーの毛皮を確保するのに、沼地が凍る前のこの時期に罠を仕掛ける風習があって、そこから来たらしい」
    「あー、毛皮取られちゃうんだ……。てっきり言い伝えか何かで、ビーバーが月を齧ったら月食になった、とかかと思っちゃいました」
    「ふっ…それはそれで面白いな」
     朝日奈のメルヘンチックな想像に笹塚が思わず吹き出すと、位置関係の都合でちょうど耳に息を吹きかけたみたいな状態になってしまった。
    「ひゃぁっ⁉」
     飛び上がりそうな声を上げ朝日奈の体がビクッと硬直するのが、文字通り手に取るように感じられて面白い。
    「ははっ。あんた、耳弱いんだな」
    「わざとなら許しませんよっ! もう、びっくりしたぁ」
     そんなやり取りをしている間にも、欠けていた月はだんだん光を取り戻していく。満月に戻るまであと1時間と少し──。

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    Replies from the creator

    さみぱん

    DONEスタオケ版フリーライトへの参加作品です
    https://twitter.com/samipan_now/status/1528016739367198720
    いぶちこさん(@ibuchi_co)の、めちゃくちゃ可愛くて笹唯ちゃんも桜も満開なイラストにSSをつけさせて頂きました!

    少し不思議な体験をした笹塚さんのお話。
    頭の中でどんな音が鳴っているのか聞いてみたいです。
    初出:2022.5.21
    まぶしい音『それでね、今日────』
     電話の向こうの朝日奈の声が耳に心地いい。
     札幌と横浜、離れて過ごす日があると、小一時間ほど通話するのが日課になっている。最初はどちらからともなくかけ合っていたのが、最近は、もうあとは寝るだけの状態になった朝日奈がかけてくる、というのが定番になってきた。
     通話の途中で寝落ちて風邪でもひかれたら困るというのが当初の理由だったが、何より布団の中で話している時の、眠気に負けそうなふんわりした声のトーンが堪らない。
    『────。で、どっちがいいと思います?』
    「ん……なに?」
    『もう、また聞いてなかったでしょ』
     俺にとっては話の内容はどうでもよかった。朝日奈の声を聞いているだけで気分が晴れるし、何故か曲の構想もまとまってくる。雑音も雑念もいつの間にかシャットアウトされ、朝日奈の声しか感じられなくなっているのに、断片的な言葉しか意味を成して聞こえないのが不思議だ。
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