Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    さみぱん

    はじめての二次創作

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🐈 🐱 💖 🎉
    POIPOI 27

    さみぱん

    ☆quiet follow

    菩提樹寮のあちこちで『トリックオアトリート!』という言葉が飛び交っている現場での一幕。
    付き合ってない笹唯ですよ、時期的にたぶん。

    初出:2021.10.31

    ##笹唯
    #スタオケ

    トリック オア?【笹唯】「あっ! 笹塚さん、トリックオアトリートですよ!」
    「ん? ああ、じゃあ」
    「えーーーっ。まさか笹塚さんまでお菓子用意してるなんて…」
     ごそごそと上着のポケットを探り始めた笹塚の姿を見て、朝日奈が心から残念、という声を上げた。絶対持ってないと思ったのに、と肩を落としている。
     実際、笹塚の指先には仁科からハロウィン用に渡されたお菓子の小箱が当たっていた。道内の土産品店でしか買えないしパッケージもレトロでかわいいから、という理由で選ばれたのはサイコロキャラメルだ。普段の笹塚なら、面倒なイベントに興味もないしさっさと要求通りお菓子を渡して終わり、というところだが、朝日奈の顔を見たら気が変わった。
    「なんてな。実は何も持ってない」
    「へ? じゃぁじゃぁ、イタズラしちゃってもいいんですよね」
     笹塚がお菓子を持ってないと知った途端、朝日奈が目を輝かせて前のめり気味になった。そんなにイタズラがしたかったのだろうか。
    「好きにすれば。まぁできるもんならな」
    「う…。何だか嫌な予感がしますけど、みんなお菓子持っててまだ誰もイタズラさせてくれないんですよ。せっかく用意したのでやっちゃいましょう!」
     ジャジャーン! 
     と自分で効果音を言いながら、提げていたかごから朝日奈が取り出したのは、黒猫の耳を模した髪飾りだった。それはクリップ式で好きな場所に止められるようになっており、朝日奈はバランスを確認しながら笹塚の髪にぱちんぱちんと装着していった。艶やかなファーでできた耳が、くせの強い笹塚の髪から本当に生えている様にも見える。
    「ふっふっふ。これで笹塚さんは黒猫に変身しました。今から魔女である私の使い魔です!」
    「ふーん、使い魔で黒猫か。安易だな」
    「何ですかその反応⁉ ちょっと鏡見てくださいよ、結構似合ってますよ?」
     相手が笹塚ということもあり、朝日奈渾身のイタズラは不発に終わった。しかも本当に自然な感じの仕上がりのため、ただの仮装の手伝いみたいになってしまった。
    「別に見なくていい。じゃあ俺からも。朝日奈、トリックオア…」
    「その手には乗りませんよっ。お菓子ならたくさんあるんですからね。ほらほら、好きなの取っていいですよ」
     中のお菓子を見せびらかすようにかごを掲げる朝日奈の手を押し返しながら、笹塚はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
    「いや、お菓子じゃダメだ」
    「な、なんでですかー!」
    「だって使い魔なんだろ。なら、ちゃんと契約してもらわないとな」
    「けいやく⁈ そんなのどうやって」
    「あんた魔女なのにそんなことも知らないのか?」
    「だってこれは……」
     ただのハロウィンの仮装なだけなのに、と言いかけた朝日奈がぐっと言葉をのみこんだ。そう言うのは簡単だが、笹塚相手に言い訳めいた言葉を使うのは、負けたみたいでイヤだった。自分から仕掛けたはずなのに、まんまと笹塚のペースに持ち込まれてしまったのは悔しい。折角準備したイタズラができるのが嬉しくて、後先考えずに一番ダメな相手に仕掛けてしまったという事もわかっていた。
     けれど裏を返せば、笹塚が本気で相手をしてくれているのだ、それに乗らないなんて選択肢は朝日奈にはなかった。覚悟を決めると、キッと睨むように笹塚を見上げる。
    「じゃぁ笹塚さん、知ってるなら教えてください」
    「いいよ。ああ、でもここじゃ騒がしいな。出るか」
     朝日奈の百面相を興味深げに眺めていた笹塚は、そう言って立ち上がり、ふらりとテラスの方へ歩き出した。慌てて後を追いかけた朝日奈が庭へ出ると、中の喧騒が嘘みたいに静かで、秋の冷たい空気が気持ち良く髪を撫でていく。
     少し先で立ち止まっている笹塚に声をかけようと近づくと、低い声が途切れ途切れに聞こえてくるのに気づいた。
    「なあ、あんた。契約するのはいいけど、それ失敗したら俺に喰われるってわかってる?」
    「え……いまなんて?」
     ゆっくり振り返った笹塚の顔は見たことのない表情で、気のせいか瞳が光っている様にも見える。見てはいけないものを見てしまった気がして、朝日奈が無意識に一歩下がりそうになったのを笹塚は見逃さなかった。素早く腕をつかむと、グッと顔を覗き込んでくる。
    「どこ行く気だ。始めるぞ」
    「…は、はい」
     笹塚の迫力に圧倒されて朝日奈が目を合わせたまま動けなくなっているのを確かめると、笹塚は朝日奈の手を取り一本ずつ指を絡めていく。
    「まず、こうやって手を繋ぐ」
     手を繋いだだけなのに朝日奈の顔がみるみる赤くなっていくのが面白い。そうやって両手の指を捕まえ終わる頃には、耳まで真っ赤になってしまっていた。ゴクリと喉が鳴る音が聞こえた。
    「それから……」
     笹塚は朝日奈の耳元に顔を寄せると、良く響く低音ボイスで囁いた。
    「キス」
    「⁉ ……キ、キスーーーーーーーぅ?!」
     一瞬何を言われたか理解できなかったが、反射的に大きな声が出てしまい、朝日奈は自分で自分の声にびっくりした。笹塚の方も突然の大声に、思わず繋いでいた手を放してしまう。しばしの沈黙の後、お互いポカンとした顔を見合わせると、笹塚は我慢しきれずに腹を抱えて笑い出した。
    「ふははっ、いい顔。あんた、ホントからかい甲斐あるな」
    「へ?」
     急に聞こえた笑い声にまたびっくりした後、それがいつもの笹塚だということに安心して気が抜けた朝日奈は、膝から崩れ落ちた。それをすかさず笹塚が支えてやる。
    「おっと、大丈夫か?」
    「もうーーー! 笹塚さんのバカー!」
     何もかも笹塚の演技に騙されたのだ、結局イタズラされたのは自分の方なのだ、とやっと気づいた朝日奈は、笹塚の腕の中から何とか逃れて抗議の声を上げる。
    「ちょっとやり過ぎたな。あんたの反応が面白くて、つい」
    「どこがちょっとですか! ホントに怖かったんだから」
    「悪かったよ。これやるから機嫌直せ」
     ポケットを探って取り出したものを朝日奈の手に握らせる。まだぶつぶつ文句を言っていた朝日奈の表情がパッと明るくなった。仁科の読み通り、朝日奈のお気に召したらしい。
    「あっこれ! パッケージがサイコロになってる! カワイイ」
     さっそく小箱を開け、一粒口へ放り込んではニマニマしている。甘くて懐かしいキャラメルの味に顔が緩みっぱなしだ。
    「そういえば、ちゃんとお菓子持ってたのに、何で私にイタズラさせたんですか?」
    「別に、ただの気まぐれ。それに」
     笹塚はそこで言葉を切って、キャラメルの魔法で油断しきっている朝日奈との間合いをスッと詰めていく。自然な動きで腰に手をまわして抱き寄せると、甘いキャラメルよりもっと甘い声で囁きかけた。
    「あんたを独り占めする口実には最高だろ」

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🎃💞💞💞💖💕👏💘💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    さみぱん

    DONEスタオケ版フリーライトへの参加作品です
    https://twitter.com/samipan_now/status/1528016739367198720
    いぶちこさん(@ibuchi_co)の、めちゃくちゃ可愛くて笹唯ちゃんも桜も満開なイラストにSSをつけさせて頂きました!

    少し不思議な体験をした笹塚さんのお話。
    頭の中でどんな音が鳴っているのか聞いてみたいです。
    初出:2022.5.21
    まぶしい音『それでね、今日────』
     電話の向こうの朝日奈の声が耳に心地いい。
     札幌と横浜、離れて過ごす日があると、小一時間ほど通話するのが日課になっている。最初はどちらからともなくかけ合っていたのが、最近は、もうあとは寝るだけの状態になった朝日奈がかけてくる、というのが定番になってきた。
     通話の途中で寝落ちて風邪でもひかれたら困るというのが当初の理由だったが、何より布団の中で話している時の、眠気に負けそうなふんわりした声のトーンが堪らない。
    『────。で、どっちがいいと思います?』
    「ん……なに?」
    『もう、また聞いてなかったでしょ』
     俺にとっては話の内容はどうでもよかった。朝日奈の声を聞いているだけで気分が晴れるし、何故か曲の構想もまとまってくる。雑音も雑念もいつの間にかシャットアウトされ、朝日奈の声しか感じられなくなっているのに、断片的な言葉しか意味を成して聞こえないのが不思議だ。
    2342

    related works