晴れやかな青空が広がる 祭り二日目、相変わらず外から来た人達でごった返しになっていた。イルはとある人物を探していたが、特に約束などしていなかったため探すのに時間がかかっていた。こうなる事なら約束をしていれば良かった、と思っていた時、丁度探していた人物が目に映る。いた、と思った時には人混みをかき分けるように走っていた。
「やーーっと見つけた!」
そう言ってイルは相手の手を掴む。突然握られたからか驚いた様子で相手───アルマは後ろを向いた。
「ビックリした……。イルくんだ、お祭り中全然会わなかったね〜。人多かったからかな」
そう言ってアルマは笑う。イルはアルマの言葉に頷きつつ、キョロキョロと辺りを見回す。どこか人気のなさそうな所は無いだろうかと見回していると、ふと、建物と建物の間に目がいく。あそこならいいだろうかと思いつつアルマを見た。
「人多いからな〜、会わなかったな〜。……今ちょっといい? 誰かと回る約束してる感じ?」
「ううん、何もしてないよ? 何か私に用事あった?」
アルマの返答に、これから自分がすることにイルは思わず緊張をしてしまう。これからすることは、自分とアルマの関係が変わってしまう事なのだから。
「あー……ならちょっとこっち来て」
そう言って先程見つけた建物と建物の間、近寄って見てみたら丁度路地に繋がる道になっていた。人がいるような気配はなく、お祭りで賑わっている方と比べると、物静かで道一つ違うだけで別の世界へと誘う様だった。舗装されては居るが、所々隙間から雑草が小さく生えていた。
路地に来てもなお、緊張が解されることは無い。手が震えそうになるが必死にそれを押さえ込んでいた。戦いで出るのとはまた違う緊張、口の中だけではなく喉も乾くようで声が上手く出せれるか不安が残る。じっとアルマを見る、アルマはなんだろうかとイルを見ていた。自分の顔が赤くなってないか、そうなっていたら恥ずかしいなと思いつつ、いつまでも黙っているのはアルマも不安になるだろうと、意を決して深呼吸をした後口を開く。
「アルマの事、好きなんだ」
言った、言ってしまった。とイルは目を伏せそうになるが、じっとアルマを見つめた。
「え、えっと……その、それは……」
アルマの動揺が伝わるが、イルはまた口を開く。
「……恋愛の意味で、好きなんだ」
いつから好きだったのか、答えとしてはいつの間にか好きになっていた、と言える。もしかしたら学生の頃から好きだった可能性もある、一目見た時から恋をしたのかもしれない。それは分からない、少なくとも、あの時───『おおかみいけ座流星群』の時、アルマの髪が燃えてしまった時、そして怪我をしてしまった時、あの時から『伝えないと後悔する』という気持ちが強く芽生えたのだ。自分も、怪我をしたし、下手をすれば死ぬかもしれなかったから。
そう考えるということは、『おおかみいけ座流星群』が来る前からアルマの事が好きだったんだろうな、と考えていた。自覚した後は悩んだ、この気持ちを伝えてもいいのか。以前、アルマが自身の家族の話などをしたのを覚えていた。特別に想っていた相手が居なくなったら怖い───それを覚えていたからこそ、気持ちを伝えていいのか迷ってしまったのだ。伝えないと後悔するという気持ちと、伝えずにアルマとこのままの関係を続けたい気持ちが混じり、ずっと悩んで、悩んで、恋ってこんな気持ちになるのかと頭が痛くなるように悩み、決断して今に至る。アルマの反応と返答が怖い、と微かに手が震えていた時、アルマが口を開く。
「っ、私……その、恋愛とか……考えたこと、なくて……!」
と慌てるように手を振りながら話すアルマ。反応を見て少なくとも拒絶している様子はなく、心做しかほっとしてしまう。すると、アルマは目を伏せながら話す。
「しょ、正直な話をするとね……イル君のこと、お友達としては大好きだよ。でも、その……前に家族のこととか、話したと思うんだけど、誰かを特別に想って、またその人が居なくなっちゃったらって、怖い気持ちがあって。……だから、恋愛とか、話を聞くのは好きだけど自分のことは考えないようにしてたの。」
「……うん」
今、自分はどんな顔をしているのだろうか。泣きそうな顔をしているのか、それとも、アルマがちゃんと話している事に微笑んでいるのか。それはアルマにしか分からなかった。
「でも、イル君がすごく真剣に、まっすぐ気持ちを伝えてくれたのは凄く嬉しいなって、思ったんだ。……だから、私もちゃんと向き合って応えたい。ので、ちょっとだけ……返事は待ってもらっても、いいかな……? ワガママ言ってごめんね」
アルマも緊張したのだろう、話終わるとゆっくりと深呼吸をしていた。イルはぎゅ、とアルマの手を握った。良かった、少なくとも振られた訳ではない。きちんと自分の事を考えて返事をしてくれた、それは自分が思ってもみなかった返事で、泣きそうになるのを堪えつつ、口を開く。
「……むしろ待ってくれるの嬉しい。アルマのそういうの聞いてて告白したからさ、すぐ断られるかもって思ってたから……。……俺も伝えるか迷ったんだ。
けど、俺らって無事に明日を迎えられるって訳じゃないじゃん。……死んだっておかしくないし、なんならこの前のだって、俺下手したら死んでた可能性もあるし」
イルの言葉に黙って聞くアルマ。『おおかみいけ座流星群』のあの時の事を思い出しているのだろう。イルは続けて話す。
「そう考えた時、伝えないの後悔が生まれそうだなって思って。もちろん、伝えて死んじゃったら、アルマは複雑だよな。……けどなんだろ、不思議だな。待ってもらえる? ってだけで、伝えてよかったなって思うし、死ぬわけにはいかないな~ってなった!」
そう言ってイルはパッと笑う、その笑顔はアルマがよく見ていた笑顔だった。どこか活力が胸の底から湧き上がるような感覚が生まれていた、その感覚は少なくとも、イルがあの村で過ごしていたら生まれなかった感覚、初めての感覚だった。そして、アルマは微笑みつつ口を開く。
「ワガママ、聞いてくれてありがとう。それにイル君の考えてたこととか、色々教えてくれてありがとう。……私も、死ぬわけにはいかないね。ちゃんと考えて、イル君にお返事したいもん」
アルマの言葉に、イルも目を細めて微笑むように笑った。
「俺も待ってる。返事」
大通りの賑やかな雰囲気と違って、静かで二人だけの世界のような感覚に包まれたのだった。