二人の友情はどこまでも 長い列車の旅を終えてレイフとダミアの故郷であるスノーフレークに着いた。春先で風は少し冷たかったが春らしい日差しが街を暖かく包み込む。駅前に出ると馬車と共に燕尾服を来た老エルフがこちらに気づきゆっくりと歩きだし、二人の前に止まる。
「レイフ様、お帰りなさいませ。……そちらの方がご親友様でしょうか」
「グレイ、迎えありがとうございます。……俺の親友のダミアです」
「すっげー……執事さんだ……」
改めて貴族の息子なのだなとダミアが思わず感心してしまう、挨拶も終わらせ二人は馬車に乗った。馬車の中はシンプルだったが、椅子の生地の模様替え青薔薇の刺繍が綺麗に織り込まれていた。座り心地もよく、思わず眠ってしまいそうになる。小さく揺れながら外の風景を二人は見た。
「俺、執事なんて初めて見た」
「ずっとオルグレン家に仕えてて、父さんやじいちゃんが一番信頼してるんですよ。……怒ると怖いですよ」
「はは、でもわかるかも」
二人で笑いながら馬車は街から少し離れた道へ入っていく、そしてしばらくすると目の前に大きな屋敷が目に入った。屋敷の前の扉も大きく、グレイがなにか呟くとギィ、と鉄で作られた扉は相手中に入っていく。中に入ると目に入るのが綺麗に整えられた庭、植えられてるのは青薔薇の木だとレイフはダミアに教えた。
「はえ〜……すっげ……」
「季節がもう少し遅かったらここら一帯満開の青薔薇が見れますよ、その時また呼びますね」
「まじ? 楽しみにしよ」
そんなことを話しつつ馬車は屋敷の扉の前で止まった、グレイが馬車の扉を開けるとお礼を言って降りる二人。重厚そうな扉を開けるグレイ。扉を開けた先はエントランスだったが、豪華なシャンデリアやフカフカそうなカーペットが惹かれており、高価そうな花瓶にはきれいな花が活けてあった。まるで別世界のような景色が広がっていた、そして階段から降りてくる二人のエルフがこちらへとやってくる。
「ルキ様、ナナリー様、ただいま戻りました」
「グレイ、ご苦労であった」
目つきの悪いレイフよりやや身長が低めなルキと呼ばれたエルフはレイフと隣にいたダミアを見た。ルキからしたら普通に見たのだが、初めて出会ったダミアからしたらこちらを鋭い目で睨みつけてるように見え思わず警戒してしまった、やはりレイフとの付き合いを認めていないところがあるのだろうかと。
「……君がダミアくんか」
「……え、まぁ……」
「……父さん、そんな目で見るとダミアが緊張します」
思わずいつもの調子で返さなかったダミアを見てレイフはルキに呆れてしまった。そんなルキを見てクスクスと笑うナナリー、ナナリーはダミアに近づき顔を近づけた。
「可愛らしい子ね、レイフの母のナナリーです。レイフがお世話になっているわ」
「うっわ美人……レイフってかーちゃん似なんだな」
「まぁ、ありがとう」
くすくすと笑うナナリーを見て笑うダミアだったが、その隣でルキが何か言いたげに睨みつけていたが逆にレイフが睨んだ。
「……父さん」
「……すまない」
場の空気を読んだからかグレイがダミアの今日泊まる部屋を案内した。レイフも一緒について行くことになり、ルキとナナリーは先に中庭へ移動した。このあと中庭でお茶会をするのだ、勿論レイフとダミアも参加する。
「すっげー睨まれたよな俺……やっぱ貴族じゃないからレイフとつるむの反対されんのかな」
「そんなことしたら父さんの顔ぶっ飛ばすので安心してください」
「いやそこまでしなくていいけど、てかレイフなんか考え変わった? 前はそんなこと言わなかったじゃん」
「ダミア様、ルキ様は反対されないと思われますよ」
「そうかなぁ……」
ダミアに客室を案内するグレイ、中はそこらの民宿の部屋より広く、ベットもフカフカで思わずダイブするダミア。掃除も綺麗に行き届いており、流石だと思わず感心する。
「ダミア、そろそろ」
「おう、俺お茶会の作法とか知らないけど大丈夫か……?」
「大丈夫ですよ、俺らしかいませんし、そこはちゃんと伝えてありますし俺が教えるので」
中庭に行くと色とりどりの花が綺麗に咲いており、少し歩くとテーブルと椅子が置いてある空間に着く。既にルキとナナリーは座っており、傍らではグレイがお茶の準備をしていた。
レイフの隣にダミアがすわった、テーブルには白い陶磁器に入った砂糖、真っ白なナプキン。ケーキスタンドには上からフルーツタルトにチョコレートケーキなどのデザート、真ん中の段にはスコーンやパイ、下段にはサンドイッチが置かれていた。傍らにはスコーンにつけるジャムがガラスの容器に入れられておりその綺麗さに思わずダミアは見た。どれから食べていいのかわからなかったダミアだったが、レイフが教えてくれた。
「ダミア、本来だったら下段のサンドイッチから食べるんです。もしそれでも迷うのであれば色の薄い……例えばこの白パンで作ったサンドイッチとか、味の薄いのから食べても大丈夫です」
「え、食う順番とかあるんだな……」
「そうですね、地域によっては順番が違う可能性がありますけど。あ、スコーンはデザートの前に食べてくださいね、あとはとりわける時はナイフとフォークを必ず使ってください。食べにくいものにもですよ。まぁ今回は硬っ苦しいのはダミアも緊張してしまうので今回はナシにしましょう」
「た、たすかった、いきなり覚えきれないしな」
そうしているうちに紅茶をはいっていた、鼻から入るいい香りにどこか緊張が解れるダミア。さて早速何から食べようかとダミアが選んでいるとルキが声をかけた。
「……ダミアくん、少しいいかな」
「ん、なんだ?」
「……これからもレイフと仲良くやってくれると、嬉しく思う」
「………」
まさか反対されるのかと思っていたダミアは思わずキョトンとしてしまう。レイフも思わずダミアとルキの顔を見ていた、なお、もしルキがダミアになにか失礼な事を言った時のために、テーブルの下で杖をそっと準備していたのだが、ナナリーだけは気づいていた。そんなことは露知らず、ルキは話を続ける。
「……恥ずかしい話だが、私はレイフとついこの前久しぶりに家族らしい会話をした。その時、レイフは君の話を楽しそうにしていたよ。最初は貴族でもない君との付き合いを反対しようとした……けれど、お互いに信頼しているのを見てわかる、それを引き離すのは忍びない」
「……父さん……」
「私もそう思うわ、ダミアくん。これからもレイフと仲良くね」
「もちろん! なんせ俺とレイフは親友だしな〜。なっ! レイフ!」
「……はい、もちろん」
嬉しそうに笑うレイフを見て微笑むルキとナナリー。暫くして中庭を見て回りたいとのダミアに案内することにした。綺麗に咲いている中庭を歩いていくと前方から誰かが来たかと思うと、レイフはぱぁと明るくなり走り出した。ダミアは慌ててレイフのあとを追いかける。
「じいちゃん!」
「おーレイフ! もう帰ってきたのか! ……Sランク昇格、めでたいな。お! お前さんがダミアか? レイフの手紙にもよく出てきておった! 私の名前はレオン、よろしくな」
「え、もしかしてレイフのじーちゃん? すげー! 本物じゃん!」
エルフにしては体が大きく、握手した手で名うての冒険者だったのだろうとダミアはすぐに分かった。それくらい手の皮が厚く、ガッチリとしていたからだ。そう言えば屋敷内に肖像画があったのを思い出した、なるほど、レイフは母親のナナリーにも似ていたが、こうして見るとどこかレオンにも似ている。レオンはかっかっかっ、と豪快に笑ってダミアとレイフの肩を強く叩く。
「いやー! お前さんらを見てると昔の事を思い出す。私の冒険譚、聞くか?」
「まじ!? 聞く聞く!」
「なら屋敷の応接間で話すとするか! あー、レイフ、すまない。ルキらにもつたえてくれると助かる」
「わかった、じゃあ先に行ってて下さい」
そう言ってレイフは中庭にいるルキらのところに行く。その時レオンはダミアに優しく言った。
「……ダミア、あの子と仲良くしてくれてありがとう」
「別にいいって、レイフ面白いしな」
そう聞くとレオンは優しく微笑んだ。エルフと獣人、寿命の差はレオンだけではない、ルキもナナリーも、グレイも知っていた。最初は驚いた、まさか相手が自分らと同じエルフじゃないことに。どうあがいても、目の前にいるダミアが先に逝ってしまうのも。その時レイフはどうなるのだろうか、心配もあったがあのレイフが初めての親友を家に連れてきたのだ、それは誰もが嬉しく思った。あのどこか暗かったレイフが、あんな風に笑って明るくなっているのだから。
レオンはガシガシとダミアの頭をひとしきりなでたあと、ポケットの中から小袋を取り出し渡した。ダミアはなんだろうかと受け取る。
「じーさん、これなに?」
「なぁに、昔私が金翼龍倒した時の鬣で出来たお守りだ。お前さんの使っている武器の素材に使ってもいい、お前さんを守ってくれるだろう。レイフには内緒だぞ。因みに、レイフの首から提げてる杖の先の宝石も同じものを使っておる」
「あ、それは聞いたことあるぜ! いいのかよ、そんなの俺にくれて」
「いいに決まってるだろう! ほら早く話でもしよう! 長くなるぞ、私の話は」
このあとすぐに中々二人が来なくてレイフが迎えに来て何を話していたのかとダミアに聞いたのだが、ダミアは笑って内緒とレイフに言った。