目を覚ました言葉 海岸付近に着いた琥珀、周りは人々が海へと引きずり込まれるように入っていくのが見えた。琥珀も自身のマキナである万年筆を手に持とうとした時、目の前に居るはずのない人物が海の方から見えた。あの金髪、あの目、そしてあのコートを羽織ってるのは一人しか知らない。琥珀が今一番会いたく、ずっと探していた親友の姿だった。その親友は琥珀を見て手招きするように手を動かすのが見えた。
「……つく、る……」
琥珀がこの海岸付近に来る前に考えてはいけなかった考えが今こうして形になってしまった。親友が、親友がいる。琥珀は万年筆を取ろうとした手をおろし、ゆっくりと海へ歩いた。砂浜が足に取られそうになったがそんなことはお構い無しに歩く、ふと、耳の近くで女性の声が聞こえた、その女性の声には聞き覚えがあり、囁くように言った。
「君という物語はそこで終わらせていいの?」
ピタリ、と思わず足を止めた。物語、自分にとっての物語はなんだろうか。目の前にいる親友がゆらゆらと揺れ、自分を海へ誘うかのような動きをする。ふと、自分が羽織っているコートを見る。夏にも関わらず分厚いコートだ、普通の人ならばなぜ夏なのにコートを着ているのか分からないだろう。自分にとって本当の物語は、いまここで終わるはずがない。
「……物語……違う……。……創……は……」
うわ言の様に呟いた後、コートを握る。握ったあと改めて海にいる親友を見た、先程から表情の変わらない親友。琥珀はそっと手を伸ばしポケットから万年筆を取り出す、少し後ろにいた集はその万年筆に覚えがあった。琥珀のマキナだと言うことに、何をするのかと見ているその目の前で琥珀は勢いよく自身の左手の甲にペン先を刺した。
「は? えっ……」
集の戸惑いの声が琥珀の耳に入った、そらそうだろう、万年筆のペン先を自分に突き刺したのだから。手の甲からは血が滲むようにゆっくりと流れ出す。当たり前だが、痛い。痛いがこれはくだらない幻覚を見た事に対する自分に対しての怒りの現れだった。目の前の親友の幻覚は消え、先程の幻覚を見る前の景色に戻っていた。相変わらず、周りの人達は海へといく。万年筆をそっと引き抜くと血がぽたぽたと落ちて砂が血を吸っていった、その後に集の笑い声が聞こえる。
「ふふ! ……あはは! そうか、それが君の答えか。いいね、嫌いじゃない」
「……ありがとうございました、貴方の言葉のおかげです」
相変わらず女性は怖い、こうして自分を助けてくれた集に関しても少しだけ距離を取ってしまう自分にも呆れていた。ここに来る前に薬を飲んだおかげでいつもやってくる胃痛などは今のところ来ていない。集は琥珀に言う。
「選択肢があるよ、戦うかこのまま帰るか。君はどうしたい? 」
集は琥珀の答えを待つかのように言ったあと黙った、琥珀は集の言葉に万年筆を手に持ち答えた。
「それ、選択肢じゃないですよね。……戦います。戦って、幻覚じゃない本当の親友を探す物語を俺はまた始めます」
琥珀は集の想像力を貰えないかと頼んだ。自分には残念ながらニジゲンがいない、今まで他のニジゲンから貰っていたのだ。今ここに頼めるのは目の前にいる集しかいない。集は琥珀の答えにどこか笑うと手を触った。突然触られて思わず体が跳ねる琥珀。
「触っただけなのにそんな反応するんだ? ……なら頑張らなきゃね」
そう集が言った後にピリピリと体が痺れた感覚に襲われた。痛みはなく一瞬で終わったあと万年筆を撫でるようにペン先を手で滑らせると剣に変形した。想像力を電流通して自分の体に流したのかと琥珀は思いつつお礼を言った。
「ありがとうございます。……これで戦えます」
「お礼を言われるほどの事はしてないよ、まぁ想像力をあげたくらいか。行っておいで」
「……あの、没は海の中にいます。……貴方の電流ならアイツを引きずり出せれるかもしれない。……もし、もし協力するというなら」
──あのデカブツに一発お見舞いしませんか。