琥珀が次に書く小説のネタを考えながら歩いていると自分の名前を呼ぶ声と共に後ろから抱きつかれた。声から誰か察していた琥珀は腰あたりに抱きついてきた人物の頭を撫でながら言う。
「リイン、突然抱きついたら危ないだろ」
「だって琥珀が見えたから!」
リインと呼ばれた十歳くらいの少年は琥珀をみて天真爛漫な笑顔を浮かべていた。リインは琥珀に遊ぼうと言ってきた、リインはニジゲンだが琥珀にとってはなんだか弟のような存在だった。もし自分に弟がいたらリインみたいなのだろうかと思いつつ、なにか小説のネタになるかもしれないと思い了承した。その時リインは突然きょろきょろとしだす。
「どうした?」
「なんか外から聞こえる! なんだ? にんにんー! って言ってるけど」
「外?」
外からはセミの鳴き声がうるさく聞こえていた。もしかしてこの鳴き声の事だろうかと琥珀は少し考えた。リインはセミを知らないのかと思い外に連れ出す。外は容赦ない直射日光が二人を照らす。外は暑いも関わらず分厚いコートを羽織っている琥珀をみて顔をしかめるリイン。
「琥珀さー、脱げばいいのに。暑いでしょ」
「……これだけはどうしても脱ぐのは嫌なんだ。暑いけど」
コートをそっと撫でつつ言う琥珀。リインにはこのコートの事を軽く話したことがある、だからだろう、それ以上なにも聞かなかったリイン。セミがいるであろう木のそばまでやってきた。ここまでくるとセミの鳴き声がやかましく、少し声を張り上げなければかき消されてしまいそうだ。琥珀はセミをみせようとリインを肩車する、十歳はこんなに重たかったかと思いつつなんとか肩車をする事が出来た。
「わかるか? ほら、リインの目線の上にいると思う」
「えーどれだ……? あ! いた! これがセミ?」
「そうそう、あんまり大声出すと逃げるからな」
「おう!」
初めて見るセミに興奮しているのだろう、じぃと眺めているリインにセミの事を教えた。幼虫の時は土の中で何年も生きること、今こうして陸上に出て鳴いている時は一週間か生きれないことを話した。
「え……! そんな短いのか……?」
「まぁ、今は研究が進んで、本当は一ヶ月は生きるって言われてるけど」
「へぇ〜! そうなのか?すごいな! あっ、逃げちゃった……」
「大声だすからだな、どこかカフェに行くか? 冷たいアイスでも奢るから」
「やったアイスー!」
アイスが食べられると聞いてはしゃぐリインを降ろしてカフェに行くために街中を歩く。夕方、今度はヒグラシの鳴き声を聞かせるかとそう思いながら。