リインにセミを見せた後、街中の目に入ったカフェに入った。店内に入るとクーラーがよく効いており、汗が乾くのを感じた。丁度席は空いており座ってからメニューを開く。リインは大きなパフェが食べたいと眩しい笑顔で言う。そんな笑顔に少し目を細めつつ、琥珀はアイスコーヒーを頼んだ。
「あれ、琥珀食べないのか?」
「まだお腹そんな空いてないしな」
「ふ〜ん」
先に琥珀が頼んだアイスコーヒーが来て飲んでいるとリインはじっと見ていた。そんな目線に気づいた琥珀は少し笑って言った。
「気になる? 少し飲んでみてもいいけど」
「いいのか! もらう!」
この後リインがとるリアクションが予測できている琥珀はニヤつく口元を押さえつつアイスコーヒーを渡した。琥珀はコーヒーには砂糖もミルクも入れないためブラックでいつも飲んでいる。苦いコーヒーを果たしてリインが飲むことが出来るのか、アイスコーヒーを一口飲んだリインは見る見るうちに顔を顰めたかと思うと、急いでお冷を飲み干した。
「うげー! すごく苦い!」
「ははっ、やっぱりその反応すると思った……ぷっ、くくっ……」
「琥珀〜! 騙したな〜!」
「ごめんごめん、それ砂糖とかミルク入れると甘くなるよ。俺は入れないけど」
そうしているうちにリインが頼んだパフェが来た。大きな器に沢山の生クリームと果物。そしてアイスがのっており中々に豪華だった。リインは目を輝かせながらいただきますと言って食べ始める。いただきますはあの人に教わったのかなと思いつつ、琥珀はリインをじっと見る。
目の前にいるリインを見る。リインは美味しそうにパフェを食べていた。自分が昔読んでおり今も大好きで、作家になるきっかけをくれた作品【リインと時の鐘】の主人公。あの結末を迎えた主人公、完結後賛否両論だったがみんな口を揃えて「いい作品だった」と言われていたその作品の主人公が自分の目の前にいる。
あの地獄のような日々の中で自分に希望を与え続けてくれたリイン。あの最終巻の結末を思い出す、あれが本当に良かったのか。あんな結末がいい作品だと言われてよかったのだろうか。なんとも言えない気持ちが琥珀の胸の中で溜まっていき、少し息苦しい。琥珀が急に黙り込みどうしたのだろうかとリインがちらりと見た時、ぎょっとした顔をしたかと思えば席を勢いよく立って琥珀の座っている席まで慌てて移動する。
「琥珀どーした!? 泣きそうだけど!」
「え?」
「具合悪いのか? 大丈夫か? もしかして暑かったから、えっと、熱中症だっけ……それになったのか!?」
「リ、リイン落ち着け。大丈夫だから」
しまった、そんな顔をしていたのかと琥珀は思いつつリインを落ち着かせる。今のリインにこの気持ちを言ったところで困らせてしまうだけだった。そもそも、言うつもりもない。琥珀がそういうと本当か? と心配そうにするリイン、そんなリインの頭を優しく撫でた。
「本当だから、なんか俺もお腹すいたし頼むかな」
「……大丈夫ならいいけど」
リインは元の席に戻ってパフェを食べる。本当はお腹なんて空いてなかったが、元気だという姿を見せれば大丈夫だろうと考えていた琥珀は店員を呼んで注文したのだった。