そして正反対の二人は手を組んだ 没の攻撃を避けながら路地裏へ入る琥珀、路地裏の狭い道という道を走って逃げ、没はそんな琥珀を捕らえようと言わんばかりに手らしきものを周りの壁を壊しながら伸ばす。
そして琥珀を掴もうと伸ばされた手らしきものが何者かによって薙ぎ払うように散っていった、その攻撃は琥珀が通り過ぎた道の脇道から誰かがしたらしい、そこから一人の青年が槍を持って不機嫌そうに出てくる。
琥珀はその青年を見て笑って立ち止まった、没は苦しむように狭い路地裏の道をじたばたと暴れているのを横目に琥珀は体制を変えた。
「たく、ほんとにニジゲン扱いが荒いな」
青年──サクリはそう言って琥珀を睨む。琥珀はそんな睨みを気にもせずに剣を構え没に向かって走り出し、道の脇に置いてあったゴミを入れる箱の上に軽い足取りで乗って飛び上がるとそのまま没の首を横に一直線に斬る。
斬られた没はそのままヒラヒラとシュレッダーゴミとなって散っていく、トン、とそのまま地面に着地するとそのままサクリの元へ行く。
終わった後に気づいたが、逃げるのに入ったこの路地裏は偶然にも丁度サクリと出会った路地裏と気づく。こんなことがあるのか、なんて思いながら。
「今回も助かった」
「俺は優しくないって何度も言ってるのにな」
サクリは呆れた様子で琥珀を見る、サクリとは何度かこうやって手を組んで没討伐をしていた、本人は何だかんだと文句を言いつつ手を貸してくれる。認可作家と無免連という本来なら敵同士にもかかわらず、だ。琥珀はサクリの背中を見て思わず言った。
「組むか? 俺と」
「……は?」
サクリは聞き間違いかと言わんばかりに振り返って琥珀を見た。琥珀はそれ以上何も言わずにサクリの顔を見る、琥珀は決して冗談で言っている訳では無い。
むしろ考えていた可能性の一つを今ここで言ったわけだ、驚いているような表情でこちらを見てくるサクリだったが、何かを感じとったのかそのまま口を開いた。
「……お前、自分が何を言ったのかわかってんのか?」
「もちろん」
「……。……分かってて、【無免連】の俺と組む気か? 認可作家」
「……」
サクリの反応は至極当たり前だ、誰が予想できただろうか。敵同士である無免連と認可作家が組むというのだ。普通だったらありえない話だ、サクリは琥珀をじっと見てくる。
それでもなお、琥珀の気持ちは変わらなかった。琥珀は既に剣から戻っていた万年筆をそっとサクリの目の前に差し出した。
「……。この手で守れるなら、守りたいものを守れるのなら。……お前なら信用出来る」
その言葉を言った時、普段光が入らないであろう路地裏に陽の光が入った。その光は優しく琥珀を包むように照らす。琥珀の赤目が雫が光に照らされたように反射して光ったようにサクリにはそう見えた。
サクリというニジゲンを知っている相手なら琥珀の言った言葉に違和感を覚えるかもしれない。けれど、琥珀は信じていた、サクリなら信じれると。琥珀は前々からサクリに対して嫌悪感や不信感など抱いていなかったからだ、周りからしたらお人好しだとか、甘い考えだ、なんて思われそうだが。
そう、周りがサクリは裏切るだとか、信用するなと言われても信じれる。もしそうなった未来があったとしても、決してサクリを責める気もない。琥珀の言葉に、それともなにかほかの理由があるのかサクリは呆れてものが言えない、と言わんばかりにため息を吐く。
「信用、ねぇ。よく言ってくれるな」
「そもそも、信用がなかったらとっくに創務に突き出してる」
「あーあーあー……、図太いこった」
「作家は図太くないとやっていけないものだからな」
これに関しては琥珀の持論でしかないが、サクリの反応が面白く思わず笑う。琥珀は微笑みつつさらに言葉を紡いだ。
「どうする? 【認可作家】の俺と組もうと思うか? サクリ」
先程のサクリの言葉と対になるように言った。正直組むか決めるかは相手だ。相手が拒否したら潔く諦めよう、と琥珀は考えていた。サクリの問いを待つように相手の目を見つめた、サクリは頭をかきながら観念したように言った。
「全く……本当に呆れる。……一時的に組んでやるよ。ただし、俺の采配で俺の好きなようにさせてもらうからな」
そう言った時、風が吹いた。サクリの普段は髪飾りで隠すように見えにくくなっている右目が風のせいで顕になり、その綺麗で鮮やかな金目が宝石のように輝いたのを見て琥珀は思わず息を飲んだ。
そしてサクリの言葉に聞き間違いかと一瞬思ったが、琥珀は満足そうに目を細めサクリの持っていた槍に優しく万年筆をコツン、と合わせた。
「お前のやりやすいようにでいい。よろしくな、相棒」
「俺のやりやすいようにやるからな、裏切ったなんて言ってくれるなよ」
「俺がそう言うと思うか?」
「言わなさそうだからムカつくんだよ」
そういった感情は元から持っていなかった琥珀に対し、それが分かったからかサクリはそういいつつ琥珀の顔を見ていた、その目線がなにか言いたそうに見えた琥珀はなんだろうかと思いつつ聞いた。
「どうした?」
「いや別に? 俺もヤキが回ったんだなって思っただけ」
「まぁ普通は考えられないしな」
まるで秘密のバディみたいだ、なんで琥珀は考えつつ、そしてサクリの方を見て微笑む。いつの間にか陽の光はお互いを明るく照らして影が伸びていた。琥珀は何となくだが、光に照らされた今ここにいる路地裏を見て自分の選んだ選択肢は間違いではない、そう信じた。