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    ちょこ

    主に企画参加の交流小説、絵など投稿してます
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    ちょこ

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    エガキナ

    以前書いた話のリメイク

    よその子さんお借りしてます

    彼の決意「創! 創!」
     琥珀は応援に来た同じ認可の相手に担がれ、泣き叫びながら必死に手を伸ばす。けれど、相手が落とさないように琥珀を担いでいたため、離れることは出来ない。
     叫びながら激しく咳き込む、あの没を見てから女性恐怖症の原因になった母を思い出し、発作の咳と体の震えが先程から止まらなかった。それでも、親友を一人あの場所に置いていくなんて、琥珀にとってはしたくなかった選択肢だった。涙で視界がにじんでいく。
     琥珀の叫びに少しだけ後ろを向いた創、その顔は笑っていた。そして、没の方へと振り向き直す。そのまま琥珀の事を見ることはなかった。
    「なんで、どうして……! 創、創……!」
     必死に手を伸ばしても、創には届かなかった。

    「……っ、創!」
     琥珀はそう叫んで目を覚ました。琥珀は浅くなっていた呼吸を整えるように息を吸い込む。目の前に見えたのは、先程の現場ではなく真っ白な天井。担がれていたはずなのに、自分はベッドに横になっていた。状況が分からず、周りを見る。
     周りは天井と同じように白い壁に、窓からは夕焼けの空が広がっていた。消毒液のような匂いと、自分の腕には点滴が繋がれており、ポタ、ポタと液が落ちていた。ここは病院だ、と琥珀は気づいた。
     ベッド横にあった机、自分以外誰もいない四人部屋の病室。創の姿がないことにドク、ドクと心臓が煩く琥珀の中で脈を打つ。大丈夫、あいつなら大丈夫、と信じたいが手が震えていた。
     それにしても誰もいないのだろうか、自分を運んだあの相手もいないのか、ととりあえず詳しい状況を知りたかった琥珀はナースコールを押そうとした時、ノック音が聞こえた。

    「……はい」
     看護師だろうか、と思い返事をする。けれど、今の状況で女性には会いたくないな、なんて琥珀は顔を伏せてしまう。琥珀の返事が聞こえたのか、扉が開いた。
    「体はどうですか」
     そう声が聞こえて、その声が男の声だったため琥珀は顔を上げる。入ってきたのは三十代後半のスーツの着た、ネクタイをシャツのポケットに入れた男性だった。創務省の職員だろうか、と見知らぬ相手をじっと見る。そして、相手が手にしていたコートを見て顔を強ばらせた。
    「……そのコート……」
     見間違えるはずがない、あのコートは創が着ていたものだ、と。あの時も着ていたのだ、創がおらずコートだけという状況に琥珀は嫌な予感がした。まさか、そんな、いや、これだけで決めつけるのはまだ早い、と手が震えそうになるのを必死に押さえた。
     相手はカツ、カツと革靴の踵の歩く音をさせながら歩き、コートを差し出した。それを受け取り、その様子を見た相手は傍らにあった椅子に座り話す。
    「初めまして……ですね。僕は創務省に務めている猫柳八重と言います。今回の件で、お話に来ました。灰野さん、体は大丈夫ですか」
    「……認可の灰野琥珀です。……体は大丈夫ですけど、あの……このコート……。……創は? 創は無事……なんですよね……?」

     無事だと言ってくれ、と琥珀は震えながらコートを手にしていた。自分を運んだ相手も言っていた、すぐに応援は来るはずだからと。なら、創も大丈夫なはずだと、けれど、八重は琥珀が一番聞きたかった言葉を言わなかった。
    「……現場についた時、没の姿はありませんでした。周りに散らばっていたシュレッダーゴミで、討伐されたことは確認できました」
    「なら……!」
    「ですが、認可の江波戸創と、彼のニジゲンの姿はどこにもなく、そのコートだけしか残ってませんでした」
    「……え……」
     消えそうな声が、静かに病室に消えた。八重の言葉が、重く琥珀にのしかかるような感覚に襲われる。無事だと信じていた気持ちが、消えそうになった。嘘だ、とコートを握る手が強くなる。創だけじゃない、創の相棒といってもいいカインもいないと聞いて混乱してしまう。まさか、そんな、と最悪の想像をしてしまった。
    「……なので」
     八重が次に言う言葉に察してしまった琥珀はそれを遮るように声を張り上げた。
    「嘘だ、嘘だ! あいつは死んでない! 死ぬわけがない!」
     死んだとでも言うつもりだったのだろう、そんなこと信じられるはずがない。勝手に溢れてきた涙がボロボロと頬から落ち、コートを濡らしていく。
     あいつが死ぬわけがない、最後に見た創の顔を思い出して胸が張り裂けそうになる。そんなわけがない、そんな簡単に死ぬわけがない。
     八重は表情を変えることなく、無表情のまま口を開く。

    「……先程も言ったように、そのコートしかなかったんです。……そう思う気持ちもわかります。……ですけど」
    「勝手に死んだって決めつけるな!」
     八重は思わず口を閉じた。琥珀は泣きながら八重を睨み、思わず腕を掴んだ。手は震えていたが、力強く八重の腕を掴む。
    「コートしかなかったからってなんだ! 創の死体はなかったって事だろ! 創は生きてる! 絶対に生きてる! ……そんな、そんな事で……創が死んだって言うなら……俺が殺したって事になる……」
     そもそも、自分が発作など起きなければ、あの没を見て母親の事を思い出さなければ。創の隣で戦えてた、あんな危険な目に合わせなかった。一人に、させなかった。
     相手の反応が怖かった、琥珀は泣きながら顔を伏せ、歯を食いしばる。創は死んでない、絶対に生きている、創務省の八重がそう言おうとしたということは、認可の方も、創は死んだと考えているのか、それが伝わってしまい、悔しくて更に涙は溢れた。
     創が生きてると信じるのは自分だけなのだろうか、と思ったその時だった。

    「生きてますよ」
    「……え」
     琥珀は思わず顔を上げる、八重の言葉が信じられなかったからだ。てっきり、それでも江波戸創の生存は絶望的、なんて言われるのかと思っていたからだ。けれど、八重のその言葉は、決して冗談で言っているようには聞こえなかった。琥珀の思いに、答えてくれたような気がした。
     琥珀が泣きながら見ている様子に、八重は言葉を続ける。
    「……確かに、君の言う通り。僕は江波戸創の死体を見たわけじゃない。つまり、生きている可能性もある。けれど、その確率は低い、皆は言うはずです。『江波戸創は死んだ』って。……けど、君がそこまで言うのなら、生きてると本気で信じているのなら、僕は君の思いを信じたい」
    「……」
     八重の言葉に、どこか希望が持てた。お互い初対面だというのに、八重は自分の思いを信じてくれた。自分だけ、と思っていたことが、そうではなくなったからだ。

     猫柳八重という人物が、なぜ自分のことを信じてくれたのか分からなかった。もしかして、この人になら、と琥珀は立とうとした八重を引き止めた。
    「猫柳さん! 俺を強くしてください!」
    「え?」
    「コートを受け取った時、貴方の手のひらにはタコがありました、丁度俺と同じところに出来るタコ。その吊るしてある鞘、貴方のマキナですよね。……だから……っ!」
    「え、いや、僕より適任はいますよ……?」
     八重は断ろうとしたが、琥珀はそれでも諦めきれなかった。これは直感でしかなかったが、八重は腕が立つような気がしたのだ。彼に教えて貰えるのなら、自分は変われることが出来るかもしれない。
    「俺はもう守られたくないんです、創は俺を守るためにあの場で一人で……。だから、もうそんなことさせたくない。強くなって、今度は自分の手で、この手で守りたいものを守りたい! 創を探したい! 今の俺じゃ弱い……。だから……俺を強くしてください!」
    「……」

     琥珀はじっと八重を見る、八重は黙って琥珀の言葉を聞いて、息を吐いて、口を開く。
    「……それが君の信念なら……。……僕でよければ」
    「……! ……ありがとうございます」
     八重の言葉に勝手に涙が溢れてきた。だが泣いてる暇ではない、ここで立ち止まってる暇でもない。琥珀は点滴を思いっきり引っこ抜くと、ベッドから降りた。琥珀の突然の行動に思わずぎょ、とした顔をした。
    「ちょっ!? 勝手に点滴引っこ抜きます!?」
    「ここでもたもたしてる場合じゃないので、早速……」
    「いやちょっと待ってください!? え、えぇ……」
     とりあえず先生を呼ぶから、と八重はそのまま慌てた様子で病室を出ていった。琥珀は傍らに自分の服が置かれていた事に気づき、それに着替えつつ、コートを手にした。

    「……」
     琥珀は黙って創のコートを羽織る。腕を通すまででもなく、琥珀にとってはブカブカで、冬用だからか重かった。その重さが、なんとも言えなかった。袖を通す気にもなれない、というか、通せなかった。自分がこのコートの袖を通すには、あまりにも重い。
     琥珀は窓を見る、夕日はいつの間にか落ちそうになり、もうすぐ夜へと変わる空模様だった。病室のなかも、薄暗くなる。空をじっくりと見ると、薄らと星すら見える。そんな風景をじっとみて、呟いた。
    「……絶対に見つける」
     絶対に、創を見つける。そのためなら、これから八重の修行が始まるはず。血を吐いてでも、必ず強くなって、大事な親友を見つけ出す。
     また泣きそうになって慌てて目を擦る、泣くのは弱いからだ。泣く暇などこれからなくなってしまう。泣いたって、創が戻ってくる訳でもない。
     琥珀の決意に答えるかのように、空の星の一つが光った。
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