あの日のお礼「え、えっと……」
部屋の隅で本を何冊か取り出しては、これでもない、あれでもない、これは渡したい、など本を選んでは床に置いたり迷ったりとしている様子が見られた。
何故ここまで迷っているのか、この前リヒトはサクリに助けてもらったことがあり、そのお礼を兼ねて琥珀から相手は本を読むということを聞いて、本を渡すことになったのだ。
本を読むこと自体は知っていた、琥珀の部屋に入った時、部屋に置かれている本棚から本を取って読んでいるサクリの姿を見たことがあるからだ。どうせ本を渡すのだ、琥珀の部屋に置かれてなさそうな本を渡そうと、今、こうして本を選んでいるのだ。
「うぅ……あんまり渡すの迷惑かな……」
最初は二冊だけ、と考えていたのだが本を選んでいるうちにみるみる本の数は増え、いつの間にか十冊になっていた。
いくらサクリが本を読むとしても、この数は迷惑ではないか、と悩み始める。けれど、どれも自分にとってはサクリに読んで欲しいと思った本でもあった。本のジャンルは、琥珀が書いてそうなファンタジー物の冒険話や、少し小難しい内容が書かれている本、そして、文庫本サイズの詩集など置かれている。リヒトの性格からか、きちんと日頃から大事にしていることが見てわかった。
そうしていると、ノック音が聞こえて部屋に入ってきたのは琥珀だった。琥珀は悩んでいるリヒトの姿を見て微笑むと、隣に座る。
「沢山あるな」
「あ、琥珀さん……。どれも読んで欲しくて、でも迷惑だったらって……」
既に泣きそうになっているリヒトの頭を優しくなでる琥珀。
「大丈夫だって、何日か分けて読むだろうし」
ここまで考えて選んでる相手に無下なことはしないだろう、と自身の影をちらりと見る。琥珀の言葉に少し黙って考えるリヒト、そしてそのまま紙袋にホンを入れていく。そして、本と共にサクリ宛に書いた手紙も入れる。
「よ、用意出来ました……あ……重い……」
十冊も入れたのだ、プルプルと手が震えているのをみて笑う琥珀。自分の影の上におけばサクリが勝手に取る、と。それを聞いて恐る恐る影の上に置いた。
「あ、あの、遅くなりました。えと……」
もごもごと喋るのに手間取っている間に影の中に紙袋が消えていく。そして、サクリが出てきた。本を受け取るだけで出てこないだろう、と考えていた琥珀は少し驚いた顔をして、リヒトはひゃっ、と小さい悲鳴をあげて慌てて琥珀の後ろに隠れた。
「サクリ、出てくるとは思わなかったな……」
「気が向いただけだ」
「あ、えと、あの……」
琥珀の後ろから恐る恐る、と顔を少し覗かせてサクリをチラチラと見るリヒト。相変わらずリヒトにとってサクリは怖い、けれど言いたいことがあったため、リヒトはゆっくりと口を開く。
「もし……本の感想があったら……えと、聞きたいなって……その……」
口で言うのがあれなら、手紙でも、とそう言ってサクリの反応をちらりと見るリヒト、サクリはリヒトの顔を見て何も言わずにそのまま影の中に消えていった。リヒトは琥珀に引っ付いたまま、不安そうに聞いた。
「……だ、ダメだったんでしょうか……」
「こればかりはサクリ次第……じゃないかな」
けれど、嫌ならその場で言うような気がする、と琥珀は少し考えた。リヒトに安心させるように頭を撫で、お茶を入れてあげようとリヒトと共に部屋を出て、リビングへと行った。